EP28 ラブラブ疑惑
遅くなりました更新です
加奈と一緒に登下校するようになって、しばらく経った。
二年生になっても、それは変わらなかった。
朝はいつもの道で待ち合わせて、帰りも一緒。
たまに俺が寝坊すると、加奈が家の前まで迎えに来てくれることもあった。
もっとも、そんな日は決まって母ちゃんに怒られる。
「陽一! 加奈ちゃんを待たせてるでしょう!」
「分かってるって!」
「分かってるなら早く靴を履きなさい!」
「履いてる!」
「それ、左右逆!」
「うわっ!」
玄関の外から、加奈の笑い声が聞こえた。
「笑うなよ、加奈!」
「ふふっ、ごめんね」
「もう! 陽一、早くしなさい!」
「分かってるってば!」
ようやく靴を履き直して外へ飛び出すと、加奈がいつものように待っていた。
「おはよう、陽一くん」
「おう! おはよう!」
「今日は間に合うかな?」
「余裕だろ!」
「……昨日もそう言ってたよ?」
「今日は大丈夫!」
そう言って走り出すと、加奈も慌ててついてきた。
「ま、待ってよ!」
「早くしないと遅刻するぞー!」
「陽一くんが寝坊したんでしょ!」
そんなふうに、俺たちは毎日を過ごしていた。
ただ、学校では少し困ったこともあった。
*
「なあ、陽一!」
ある日の帰り道。
同じクラスの男子三人が、俺たちの後ろから走ってきた。
「最近さ、お前、俺たちと全然遊ばなくなったよな!」
「え? そうか?」
「そうだよ! いっつも加奈と一緒にいるじゃん!」
「別にいいだろ!」
「この前もサッカー誘ったのに、帰っちゃったし!」
「あー……そうだっけ?」
「そうだよ!」
男子の一人が、俺と加奈を交互に見た。
それから、急にニヤニヤし始めた。
「……もしかしてさぁ」
「なんだよ?」
「お前ら、ラブラブなのかぁ!?」
「はあ!? 何言ってんだよ!」
「やっぱりー!」
「ラブラブー! ラブラブー!」
「♪ ラーブ、ラーブ、ラーブ!」
「うっせーな!」
「陽一と加奈、ラブラブー!」
「♪ ラーブ、ラーブ、ラーブ!」
「結婚するんだろー!」
「しねーよ! 友達だって!」
「♪ ラーブ、ラーブ、ラーブ!」
「……って、おい!」
俺は思わず振り返った。
「お前、さっきから何歌ってんだよ!」
「え? ビートルズだけど?」
「……びーとるず?」
俺が聞き返すと、ほかの二人も首を傾げた。
「何それ? 虫?」
「違うよ! 昔の外国のバンドだよ!」
「はあ? 聞いたことねーよ、ビートルズなんて!」
「えー!? すっげー有名なんだぞ!」
「なんでそんな昔の歌知ってんだよ!」
「父ちゃんが車でいっつも流してるから!」
「お前、そんなの聞いてんの?」
「うん。いい曲だぞ?」
「知らねーよ!」
そいつは大げさにため息をついた。
「やれやれ。これだから最近の若いもんは」
「お前も八歳だろ!」
「ふっ。年齢なんてただの数字さ」
「「「人生二周目かよ!!」」」
「一周目だけど?」
「じゃあ八歳らしくしろよ!!」
「……ふふっ」
隣から笑い声が聞こえた。
加奈が口元を押さえている。
「何笑ってんだよ?」
「だって……みんな、変なんだもん……」
「俺は変じゃねーし!」
「ふふふっ!」
加奈はとうとう声を出して笑い始めた。
「おい! 話そらすなよ!」
からかっていた男子の一人が、急に思い出したように言った。
「陽一と加奈がラブラブって話だろ!」
「まだ言ってんのかよ!」
「だって最近、全然俺たちと遊ばねーじゃん!」
「そんなことねーだろ!」
「あるって! この前もサッカー誘ったのに、加奈と帰っちゃったし!」
「それさっき聞いたって!」
「たまには俺たちとも遊べよ!」
「じゃあ明日遊べばいいじゃん!」
「明日は俺、習い事!」
「じゃあ明後日!」
「明後日はこいつがダメ!」
「なんだよ! そっちも遊べねーじゃん!」
「うるせー!」
……なんなんだ、こいつら。
「大体さぁ、なんでそんなに加奈と一緒にいるんだよ!」
「友達だからだって!」
「でも加奈って、変じゃん!」
「……は?」
「髪の毛、金色だし! 目も青いし!」
「そうそう! 宇宙人みてー!」
隣にいた加奈が、ぴたりと足を止めた。
「……別にいいだろ!」
「何が?」
「髪の色なんか、どうでもいいじゃん!」
「陽一、怒ってるー!」
「怒ってねーよ!」
「絶対怒ってんじゃん!」
「うっせー! お前だって変な顔してんだろ!」
「はあ!?」
「昨日、給食の牛乳鼻から出してたじゃん!」
「それ関係ねーだろ!」
「ある!」
「ねーよ!」
「じゃあ人の髪の毛だって関係ねーだろ!」
「……あ」
そいつは一瞬黙った。
けれど、すぐに別の男子が口を開く。
「と、とにかく! 今度は俺たちとも遊べよ!」
「分かったって!」
「絶対だぞ!」
「分かったって言ってんだろ!」
男子たちはそんなことを言いながら、走っていった。
……まったく、うるさいやつらだ。
隣を見ると、加奈はうつむいていた。
*
しばらく歩いていると、加奈が小さな声で話しかけてきた。
「……陽一くん」
「ん?」
「わたしの髪って、変かな?」
「え? なんで?」
「だって……みんなと違うから」
加奈は自分の髪を一房つまんで、じっと見つめていた。
「そう? 俺はかっこいいと思うけど」
「……かっこいい?」
「うん!」
俺はこの前テレビで見たアニメを思い出した。
「すっげー強いやつがいてさ、髪が金色になるんだよ!」
「……髪が?」
「そう! 怒ると金色になって、めちゃくちゃ強くなるんだ!」
「……わたし、怒ってないよ?」
「知ってるよ!」
「じゃあ、強くないかも……」
「でも加奈、最初から金色じゃん! ずっと強いんじゃね?」
「ふふっ……そんなわけないよ」
「分かんねーじゃん! 手からビームとか出せるかも!」
「……出ないよ?」
「やってみないと分かんねーだろ!」
「じゃあ、陽一くんは出せるの?」
「俺は今、練習してる!」
「ふふっ! 何それ!」
加奈が笑った。
「見てろよ! こうやって手を構えて……」
俺は両手を腰の横に持っていき、思い切り力を込めた。
「うおおおおおっ!」
「……出た?」
「まだだ!」
「ふふふっ!」
「笑うな! 集中できねーだろ!」
「ご、ごめん……ふふっ!」
結局、ビームは出なかった。
でも、加奈がずっと笑っていたから、まあいいかと思った。
*
三年生になった頃には、俺たちは学校が終わってからもよく遊ぶようになっていた。
とはいっても、遊びに誘うのはいつも俺だった。
「加奈ー! あーそーぼー!」
加奈の家の前で叫ぶと、しばらくして窓が開く。
「陽一くん! そんな大きな声出さないで!」
「なんでー!」
「近所の人に聞こえちゃうでしょ!」
「遊ぼうって言っただけじゃん!」
「もう! ちょっと待ってて!」
そう言いながら、加奈はいつも降りてきてくれた。
ある日、加奈に誘われて、初めて家の中で遊ぶことになった。
「今日、うちで遊ばない?」
「いいの!?」
「うん。お母さんもいいって」
「やった!」
何度も家の前までは来たことがあったけど、中に入るのは初めてだった。
「おじゃましまーす!」
「あら、陽一くんね。いらっしゃい!」
玄関で迎えてくれたのは、加奈のお母さんだった。
「こんにちは!」
「ふふっ。加奈からお話は聞いてるわよ」
「え? 何の話ですか?」
「いつも一緒に遊んでくれるんですってね」
「はい!」
「今日はゆっくりしていってね」
「ありがとうございます!」
加奈のお母さんは、加奈と同じように明るい色の髪をしていた。
でも、加奈と違って、よく笑う人だった。
「陽一くん、こっちだよ」
「おう!」
加奈について階段を上がり、部屋の前まで来た。
「ここ、わたしの部屋だよ」
「おお……!」
扉が開いた瞬間、俺は思わず立ち止まった。
花柄のカーテン。
きれいに並んだぬいぐるみ。
本棚には絵本や漫画がきちんと並べられていて、机の上には余計なものが何もない。
……すげえ。
俺の部屋とは大違いだ。
床に漫画は落ちてないし、脱ぎっぱなしの靴下もない。
なんというか、女の子の部屋って感じがする。
「陽一くん?」
「……ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんか……すげえな」
「何が?」
「めっちゃきれいじゃん!」
「……そう?」
「俺の部屋なんか、母ちゃんに毎日片付けろって怒られてるぞ!」
「……片付ければいいのに」
「それができたら苦労しねーよ!」
「ふふっ」
加奈は笑って、小さなテーブルの前を指さした。
「そこ、座っていいよ」
「お、おう……」
そう言われても、なんだか落ち着かない。
ぬいぐるみを踏んだら怒られそうだし、何か汚したら大変だ。
結局、俺は入口の近くにちょこんと座った。
「……陽一くん、なんでそんなところにいるの?」
「いや、なんとなく……」
そのとき、扉が開いた。
「お待たせー。ジュース持ってきたわよ」
加奈のお母さんだった。
「あら? 陽一くん、そんな隅っこでどうしたの?」
「えっ!? いや、その……!」
「ふふっ。もしかして、女の子のお部屋に入るの初めて?」
「……はい」
「あらあら! それじゃ緊張しちゃうわよねぇ」
「お、お母さん……」
「大丈夫よ、陽一くん。そんなにかしこまらなくても。加奈も喜んでるんだから」
「え? そうなの?」
「お母さん!」
加奈が慌てて声を上げた。
「あら、違うの?」
「違わないけど! そういうこと言わないで!」
「ふふふっ。はいはい」
お母さんはジュースをテーブルに置くと、扉へ向かった。
そして、出ていく直前。
「じゃあ加奈、ファイト♡」
「お母さんっ!!」
加奈が近くにあったクッションをつかんで投げた。
けれど、お母さんは笑いながら扉を閉めてしまった。
ぽすっ。
クッションが扉に当たって床に落ちる。
「そんなんじゃないよ! もぅ!」
加奈は真っ赤な顔でそう叫ぶと、ベッドの上の枕を抱きしめた。
「……加奈?」
「な、なに?」
「何を頑張るんだ?」
「……知らない!」
「えー!? お母さんが言ってたじゃん!」
「知らないったら!」
なんだかよく分からないけど、加奈はずいぶん怒っている。
……やっぱり女の子って、よく分かんねえ。
しばらくすると、加奈はようやく枕を離した。
「……陽一くん」
「ん?」
「何して遊ぶ?」
「そうだなー。漫画ある?」
「あるよ。どんなの?」
「戦うやつ!」
「……そればっかりだね」
「面白いじゃん!」
「ふふっ。じゃあ、これ貸してあげる」
加奈が本棚から持ってきたのは、俺が見たことのない漫画だった。
「これ、面白いの?」
「うん。わたし、好きなんだ」
「へえー!」
読んでみると、思っていたよりずっと面白かった。
加奈は俺の隣に座って、ときどき登場人物の説明をしてくれた。
気がつけば、さっきまでの緊張なんてすっかり忘れていた。
*
それからも、俺はしょっちゅう加奈を遊びに誘った。
学校が終われば、どちらかの家で漫画を読んだり、テレビゲームをしたり。
天気のいい日は公園へ出かけて、暗くなるまで遊ぶこともあった。
たまには自転車で少し遠くまで行って、知らない道を探検した。
途中で道が分からなくなって、加奈に怒られたこともある。
「陽一くん! こっちで合ってるの!?」
「たぶん!」
「たぶんって何!?」
「大丈夫! 帰れるって!」
「さっきもそう言ったよ!」
結局、通りかかったおじさんに道を教えてもらって、なんとか帰れた。
家に着いた頃にはすっかり暗くなっていて、二人そろって母ちゃんたちに怒られた。
そんなこともあった。
もちろん、毎日遊べたわけじゃない。
宿題が終わっていなくて外出禁止になったり、加奈の家に行ったら留守だったり。
それでも、次の日になればまた誘いに行った。
気がつけば、三年生も終わろうとしていた。
加奈もずいぶん変わったと思う。
前は何を聞いても小さな声で答えるばかりだったのに、最近じゃ俺が変なことを言うと、すぐに笑ってツッコんでくる。
それに、学校でも前より楽しそうにしていることが増えた。
ただ、一つだけ変わらないことがあった。
遊びに誘うのは、いつも俺の方だった。
*
四年生になった、ある日のこと。
学校から帰って、部屋で漫画を読んでいると、玄関のチャイムが鳴った。
「陽一ー! 加奈ちゃんが来てるわよー!」
「加奈?」
今日は遊ぶ約束をしてなかったはずだけど。
漫画を置いて玄関へ向かうと、加奈が立っていた。
「おう、加奈! どうした?」
「あ、あのね……」
「ん?」
加奈は両手を胸の前で握って、何か言いたそうにしている。
「なんだよ? 忘れ物でもした?」
「ううん、そうじゃなくて……」
「じゃあ、何?」
加奈は一度うつむいて、それから俺の顔を見た。
「きょ、今日……遊べる?」
「ん? いいよ!」
「……ほんと?」
「うん! 何して遊ぶ?」
そう答えると、加奈はぱっと顔を明るくした。
「……よかったぁ」
「何が?」
「ううん! なんでもない!」
加奈は嬉しそうに笑っている。
そういえば、加奈の方から遊ぼうって言ってきたのは初めてかもしれない。
「加奈から誘ってくるなんて珍しいな!」
「……そうかな?」
「うん! いつも俺からじゃん!」
「……ふふっ。そうだね」
「じゃ、ちょっと待ってて! 準備してくる!」
「うん!」
俺は急いで部屋へ戻った。
加奈がどうしてあんなに緊張していたのか、そのときの俺にはよく分からなかった。
ただ、いつもより嬉しそうに笑っていたことだけは、よく覚えている。
また1日またいでしまい申し訳ないです
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