EP14 サンキュー!!
昼休み。
工場の休憩室では、いつものように作業員たちが弁当を広げていた。
テレビの前では何人かが食後の茶を飲み、窓際では椅子を並べて昼寝をしている人もいる。
俺も弁当を食べ終え、湯呑みに残った茶を飲んでいた。
『昨夜未明、市内の工業団地にある倉庫で、建物の一部が大きく損壊しているのが発見されました』
テレビから流れてきたニュースに、何となく顔を上げた。
画面には、外壁が大きく崩れた倉庫が映っている。
『現場では複数の車両にも損傷が確認されており、警察は事故と事件の両面から原因を調べています』
「うわ、派手に壊れてるっすね」
向かいで弁当を食べていた神崎も、テレビを見ていた。
「……ああ」
画面が切り替わり、建物の内部が映し出される。
柱が一本、途中から大きく曲がっていた。
俺は思わず湯呑みを置いた。
「……ん?」
「どうしたんすか?」
「いや、あの柱」
「柱?」
「変な曲がり方してるなと思って」
神崎がテレビに目を凝らす。
「そうっすか?」
「爆発なら、もう少し周りにも被害が出そうなもんだけど」
画面に映っていた柱は、一方向から無理やり押し曲げられたように見えた。
もちろん、映像だけで分かることなんて限られている。
建物の構造も、何が起きたのかも知らないのだから。
「何がぶつかったんすかね?」
「さあな。相当な力が掛かったんだろうけど」
「トラックでも突っ込んだとか?」
「それなら、そう報道するんじゃないか?」
「確かに」
神崎は頷いた。
テレビでは、現場を囲む規制線の映像が流れている。
『警察は関係者への聞き取りを進めるとともに、詳しい状況を調べています』
それだけ伝えると、ニュースは別の話題へ移った。
「最近、物騒っすねえ」
「……そうだな」
俺はもう一度テレビを見たが、そこには天気予報が映っていた。
まあ、俺が考えたところで何か分かるわけでもない。
残っていた茶を飲み干す。
「そういや陽一さん」
「ん?」
「俺、そろそろバイク買おうと思ってるんすよ」
「……急だな、お前」
「いやいや、前から欲しかったんすよ!」
「そうなのか?」
「そうなんす。やっと親父から逃げられたんで、今度こそ自分のバイク買ってやろうと思いまして!」
「……買えばいいんじゃないか?」
「もうちょっと興味持ってくださいよ!」
「欲しいんだろ?」
「そうっすけど! 普通、何買うのとか聞きません?」
「何買うんだ?」
「まだ決めてないっす!」
「…………」
「その顔やめてもらっていいっすか?」
こいつは一体、俺に何を求めているんだろう。
神崎はそんなことを気にする様子もなく、弁当箱を脇へ寄せた。
「いやー、今まではバンドの連中のバイク借りて乗ってたんすけどね。やっぱ自分のが欲しいじゃないっすか」
「免許は持ってるんだよな?」
「大型まで持ってますよ。もちろんMTっす」
「へえ。大型まで取ったのか」
「親父に内緒で」
「……よくバレなかったな」
「バレました」
「駄目じゃないか」
「いやー、あれは怒られましたね。免許なんか取る暇があるなら身体鍛えろって」
「……何で身体鍛える話になるんだ?」
「うちの親父、何でもそれなんすよ。休みの日なんか朝から十キロ走らされてましたからね」
「大変だな……」
「でしょ? でももう自由っすから!」
神崎は実に嬉しそうに笑った。
「大学の頃は、ナオとか純之助のバイクを借りてたんすよ」
「よく貸してくれたな」
「ナオには傷付けたら殺すって言われましたけど」
「……あいつなら言いそうだ」
「実際、返す時にめちゃくちゃ細かく確認されましたからね」
「そりゃ借り物なんだから当たり前だろ」
「いや、それはそうなんすけど。だからこそ自分のが欲しいんすよ」
神崎は腕を組んで、うんうんと頷いている。
「好きな時に乗って、好きなところ行って、好きなようにいじって。そういうの、憧れるじゃないっすか」
「……まあ、分かるよ」
「陽一さんのCBなんか、まさにそれっすよね」
「俺の?」
「自分で直したんでしょ? あれ」
「ああ。山本さんに教わりながらだけどな」
「最初からあんなに綺麗だったんすか?」
「まさか」
思わず笑ってしまった。
「酷かったぞ。錆だらけで、エンジンも掛からなくて。タイヤはひび割れてたし、ブレーキも固着してた」
「うわあ……」
「タンクの中も錆びてたな。最初はどこから手を付ければいいのか分からなかったよ」
「陽一さんでも?」
「当たり前だろ。工場で機械を触ってるからって、バイクの修理まで分かるわけじゃない」
「いやー、今の陽一さん見てると、最初から何でもできそうなんすけどね」
「そんなわけないだろ」
あの頃を思い出す。
狭い部屋の中に置かれた、動かないCB。
父さんが乗っていた頃の姿を、俺は写真でしか知らなかった。
「山本さんが直せるって言ってくれたんだ」
「へえ」
「最初は工具の使い方から教わってさ。何度も失敗したよ」
「どんな?」
「外したネジをなくしたり、組み付ける順番を間違えたり」
「陽一さんが!?」
「だから、俺を何だと思ってるんだよ」
「いや、ちょっと安心したっす」
「……何に?」
神崎は笑っている。
「それで、どのくらい掛かったんすか?」
「三年くらいかな」
「三年!?」
「仕事が終わってから少しずつやってたからな。金もそんなになかったし」
「……すげえな」
神崎が珍しく、真面目な顔をした。
「そこまでして直したんなら、そりゃ大事っすよね」
「まあな」
神崎は少し気まずそうに頭を掻いた。
「……最初、勝手に跨っちゃってすんませんでした」
「もういいって」
「いや、改めて悪いことしたなって」
「分かってくれたならいいよ」
「じゃあ今度、跨ってもいいっすか?」
「一言聞けよ」
「今聞いてるじゃないっすか!」
「その時にな」
「なるほど!」
何がなるほどなのかは分からない。
「おう。何の話しとるんだ、お前ら」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り返ると、湯呑みを片手にした山本さんが立っていた。
「あ、山本さん! 陽一さんのCBの話してたんすよ!」
「ほう」
「山本さんが直すの手伝ったんすよね?」
「手伝ったっつうか、ほとんど俺が教えとったんだがな」
「それは否定できないです」
「お前、最初はキャブレターの外し方も知らんかったからな」
「……その話はもういいじゃないですか」
「おまけに外したネジをなくしやがって」
「あれは後で見つかりましたよ」
「俺が見つけたんだろうが」
「……そうでしたね」
神崎が隣で笑っている。
「いやー、陽一さんにもそんな時代あったんすね!」
「誰にでもあるだろ」
「そうだぞ。こいつも最初は大したことなかったんだ」
山本さんはそう言いながら、近くの椅子に腰を下ろした。
「……まあ、根気だけはあったがな」
湯呑みに口を付けながら、ぼそりと付け足す。
俺は何となく照れ臭くなって、残っていた茶を飲んだ。
「そういや神崎、お前もバイク欲しいんだって?」
「そうなんすよ! 何かおすすめないっすか?」
「何に乗りたいんだ?」
「まだ決めてないっす!」
「決めてから聞け」
「陽一さんと同じこと言う!」
「そりゃそうだろうが」
山本さんは呆れたように鼻を鳴らした。
「まあ、最初の一台なら軽くて乗りやすいのがいいぞ。排気量がでかけりゃいいってもんじゃねえ」
「やっぱ250とかっすかね?」
「何に使うかにもよるな」
「ツーリングとか行きたいっすね。あと、いじったり」
「だったら、あんまり面倒臭いのはやめとけよ」
「でも古いバイクって格好いいじゃないっすか」
「格好だけで買うと泣きを見るぞ」
山本さんが俺を見る。
「なあ、田島?」
「……否定できませんね」
「えっ、陽一さんのCBってそんなに苦労するんすか?」
「直してる間は、ずっと苦労してたよ」
「でも楽しかっただろうが」
山本さんが言う。
俺は少し考えてから頷いた。
「……そうですね」
動かなかったエンジンが初めて掛かった時。
あの音を聞いて、山本さんと顔を見合わせたことを、今でも覚えている。
「苦労も含めて楽しかったです」
「……ふん」
山本さんは満足したように茶をすすった。
それから、何かを思い出したように俺を見た。
「そうだ、田島」
「はい?」
「お前、最近うちに顔出しとらんな」
「あ……そういえば」
最後に行ったのは、いつだっただろう。
神崎が入社してから、何だかんだで忙しかった。
ライブに行ったり、スタジオに遊びに行ったり。
そう考えると、結構な日が経っている。
「和子がお前の顔を見らんって、うるさくてな」
「すみません」
「俺に謝るな。本人に言え」
「……はい」
「今日、仕事終わったら来い」
「今日ですか?」
「何だ、用事でもあるのか?」
「いや、特には」
「じゃあ決まりだ。飯食って、泊まっていけ」
「……分かりました」
山本さんはそれだけ言うと、湯呑みを持って立ち上がった。
「神崎、お前もさっさと食えよ。午後から忙しいぞ」
「うっす!」
その背中を見送っていると、神崎が俺の方へ身を乗り出してきた。
「陽一さん、山本さんの家によく行くんすか?」
「昔から世話になってるからな」
「へえ。泊まったりも?」
「たまに」
「……何か、いいっすね」
「何が?」
「いや、家族みたいで」
俺は少しだけ考えた。
「……そうかもな」
神崎はにっと笑った。
「じゃあ今日はご馳走っすね!」
「お前が食うわけじゃないだろ」
「いやー、羨ましいっす!」
そう言って、ようやく残りの弁当に手を付けた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが、ちょうど鳴った。
*
仕事が終わる頃には、外はすっかり夕方になっていた。
俺は着替えを済ませ、駐車場へ向かう。
いつもならCBに乗って帰るところだが、今日は山本さんの車に乗せてもらうことになっていた。
「おう、こっちだ」
山本さんが車の窓から手を振る。
「すみません、待たせました」
「いいから乗れ」
助手席に乗り込み、シートベルトを締める。
車が走り出すと、山本さんは前を向いたまま口を開いた。
「最近、どうだ」
「仕事ですか?」
「それ以外もだ」
「……まあ、ぼちぼちです」
「ぼちぼち、ねえ」
山本さんは小さく笑った。
「神崎とは仲良くやっとるみたいじゃねえか」
「そうですね。騒がしいですけど」
「お前があんなに喋っとるの、久しぶりに見たぞ」
「……そうですか?」
「自覚ねえのか」
言われてみれば、最近は誰かと話す時間が増えた気がする。
仕事中も、休憩中も。
家に帰ってからも、隣の部屋から神崎のギターが聞こえてくる。
少し前までとは、随分違う毎日だ。
「まあ、悪いことじゃねえ」
山本さんはそれだけ言って、ラジオの音量を少し上げた。
俺も窓の外に目を向ける。
夕焼けに照らされた街並みが、ゆっくり後ろへ流れていった。
*
「ただいま」
「お邪魔します」
山本さんに続いて玄関へ入ると、奥からぱたぱたと足音が聞こえてきた。
「あら、陽ちゃん!」
顔を出した和子さんは、俺を見るなり目を丸くした。
「まあまあ! 本当に来たのね!」
「……山本さんに呼ばれまして」
「もう! あんた、ちっとも顔見せに来ないんだから!」
「すみません」
「電話くらいしてくれたっていいでしょうに。こっちは元気にしてるのか気になってたんだからね」
「はい……」
「ちゃんとご飯食べてる? また変なものばっかり食べてないでしょうね?」
「食べてますよ」
「野菜は?」
「……食べてます」
「今ちょっと間があったわね?」
「気のせいです」
「まったく!」
和子さんは呆れたように腰に手を当てた。
けれど、その顔は笑っている。
「ほら、そんなところに立ってないで上がりなさい。手を洗っておいで。もうすぐご飯だから」
「はい」
「おい和子、俺には何もなしか?」
後ろから山本さんが口を挟む。
「あなたは毎日帰ってくるでしょう」
「……そういう問題か?」
「そういう問題です」
山本さんが俺を見る。
「な?」
「……何がですか」
「俺よりお前の方が大事なんだとよ」
「聞こえてますよ!」
台所から和子さんの声が飛んできた。
俺は思わず笑ってしまった。
昔から変わらない。
この家に来ると、いつもこんな調子だ。
洗面所で手を洗い、居間へ向かう。
棚の上には、前に来た時と同じ写真立てが並んでいた。
山本夫妻が若い頃の写真。
どこかの旅行先で撮ったらしい写真。
その中に、俺がCBを直した時の写真もある。
油まみれの作業着で、ぎこちなく笑っている俺。
隣では山本さんが、やたら偉そうに腕を組んでいた。
「……まだ飾ってるんですね」
「ん? ああ、それ?」
和子さんが台所から顔を出した。
「いい写真じゃない。陽ちゃん、珍しく嬉しそうな顔してるもの」
「……そうですかね」
「そうよ。源一さんなんか、あの写真撮った後、しばらくご機嫌だったんだから」
「おい、余計なこと言うな」
「あら、本当のことでしょう?」
山本さんは聞こえないふりをして、テレビの電源を入れた。
俺はまた笑った。
*
夕食は、焼き魚に煮物、味噌汁、それから小鉢がいくつも並んでいた。
「……こんなに食べられませんよ」
「若いんだから食べられるわよ」
「いや、そういう問題じゃ……」
「足りなかったらおかわりもあるからね」
「聞いてます?」
「聞いてるわよ」
和子さんはにこにこしている。
昔から、この人に食事の量で勝てたことがない。
「いただきます」
三人で手を合わせる。
久しぶりに食べる和子さんの料理は、やっぱり美味かった。
「どう? 味、薄くない?」
「美味しいです」
「そう。よかった」
「こいつは何食わせても美味いしか言わんぞ」
「美味しいものは美味しいんですから、仕方ないじゃないですか」
「ほら、こういうところだ」
山本さんが呆れたように笑う。
和子さんは嬉しそうに、俺の茶碗を見た。
「陽ちゃん、最近はどうしてるの? 仕事は忙しい?」
「まあ、それなりに。最近、新人の教育もしてるんで」
「あら、陽ちゃんが教える側なの?」
「一応、先輩ですから」
「そうよねえ。もうそんなになるのね」
和子さんがしみじみと言う。
「どんな子なの?」
「神崎っていうんですけど……変な奴です」
「おいおい、本人が聞いたら泣くぞ」
「いや、本人も自覚してると思いますよ」
俺は神崎が入社してきた日のことを話した。
初対面で勝手にCBに跨っていたこと。
翌日、何食わぬ顔で新人として現れたこと。
何で怒られたのか最初は分かっていなかったこと。
「まあ! それは怒るわねえ」
「でしょう?」
「でも、ちゃんと謝ってくれたんでしょう?」
「はい。そこは素直な奴なんです」
「じゃあ、悪い子じゃないのね」
「悪い奴ではないですね。ちょっとうるさいですけど」
山本さんが横から口を挟む。
「ちょっとか?」
「……かなり?」
「だろうな」
三人で笑った。
それから、神崎がバンドをやっている話になった。
「バンド?」
和子さんが興味深そうに顔を上げる。
「はい。ギター弾いて、歌ってるんです」
「あら、素敵じゃない」
「この前、ライブに呼ばれて見に行ったんですけど、結構上手くて」
「陽ちゃんがライブに?」
「はい」
「まあ……!」
和子さんは何故か、俺がライブに行ったことの方に驚いていた。
「どうだった?」
「楽しかったですよ。思ってたよりずっと音が大きかったですけど」
「ははは! そりゃそうだろうな」
山本さんが笑う。
「その後、スタジオにも遊びに行って」
「へえ。お前も何か弾いたのか?」
「いや、ちょっと触らせてもらっただけです」
嘘ではない。
ただ、家でこっそり練習していることまでは、まだ話さなくてもいいだろう。
「いいじゃない。新しいお友達が増えたのね」
「……まあ、そんな感じです」
「そう」
和子さんはそう言って、湯呑みに手を伸ばした。
何だか、妙に嬉しそうだった。
「それにしても、陽ちゃんがライブに行くなんてねえ」
「……そんなに意外ですか?」
「意外よ。前は休みの日も、源一さんとバイクばっかりいじってたでしょう?」
「まあ……そうですね」
「あの頃は二人とも油まみれで帰ってきて。洗濯するのは誰だと思ってるんだか」
「俺の作業着は俺が洗っとっただろうが」
「陽ちゃんの分まで洗ってたのは誰です?」
「…………」
「山本さん、負けましたね」
「うるせえ」
思わず笑ってしまった。
「でも、あの頃も楽しかったですよ」
俺が言うと、山本さんがこちらを見た。
「……ほう?」
「山本さん、怒ってばっかりでしたけど」
「お前がしょうもない失敗するからだろうが」
「それはそうなんですけど」
「ふふ。二人とも、帰ってきたらバイクの話ばっかりだったものね」
和子さんが笑う。
「源一さんなんか、陽ちゃんが来る日は朝から工具を並べたりして」
「おい」
「別に悪いことじゃないでしょう?」
「余計なこと言わんでいい」
「……そうだったんですか?」
「違う。散らかっとったから片付けただけだ」
「工具を並べて片付けるんですか?」
「お前までうるせえ!」
俺と和子さんは顔を見合わせて笑った。
「そういえば、昼間も神崎がバイクの話で随分楽しそうでしたね」
俺が言うと、山本さんは鼻を鳴らした。
「あいつは何に乗りたいかも決まっとらんくせにな」
「あら、源一さんも若い頃はそうだったじゃない」
「……何の話だ」
「バイク屋を始める前なんか、毎日のようにあれに乗りたい、これに乗りたいって」
「昔の話だろうが」
「そうよ。昔の話」
和子さんは楽しそうだ。
「陽ちゃんが来ると、昔のことまで思い出しちゃうわね」
「……山本さん、昔からあんな感じだったんですか?」
「ええ。今よりずっと落ち着きがなかったわよ」
「おい、いい加減にしろ」
「へえ……」
「田島。何だその顔は」
「いや、ちょっと想像できなくて」
「想像せんでいい!」
山本さんがしかめっ面をする。
それがおかしくて、また笑ってしまった。
和子さんも笑っていた。
ふと目が合うと、和子さんは何も言わず、嬉しそうに目を細めた。
「……何ですか?」
「ううん。何でもないの」
「そうですか?」
「ええ。ほら、煮物も食べなさい」
「……はい」
話を逸らされた。
山本さんは何も言わず、味噌汁をすすっている。
ただ、口元が少し緩んでいた。
いつの間にか、俺の茶碗には二杯目のご飯が盛られていた。
頼んだ覚えはない。
けれど、今さら驚くことでもなかった。
*
食事も終わりに近づいた頃だった。
居間の隅から、携帯電話の着信音が聞こえた。
「ん?」
山本さんが箸を置く。
「あなた、電話よ」
「ああ」
立ち上がって、棚の上に置いていた携帯を手に取る。
画面を見た山本さんが、少し眉を上げた。
「……珍しいな」
「誰ですか?」
「昔の知り合いだ」
そう言って電話に出た。
「おう。久しぶりだな」
最初は、いつも通りの声だった。
「……ああ。元気にしとるぞ」
俺は残っていた味噌汁を飲む。
和子さんが食器を片付け始めたので、俺も空いた皿を重ねた。
「……ん?」
山本さんの声が変わった。
顔を上げる。
「……ちょっと待て。今、何つった?」
山本さんは立ったまま、黙って相手の話を聞いていた。
「…………」
さっきまでの賑やかさが、少しずつ遠のいていく。
「……そうか」
短い返事。
「……あいつが、な」
和子さんも手を止めた。
山本さんは窓の外に目を向けたまま、しばらく黙っていた。
「……ああ。分かった」
「…………」
「店の方は、まだそのままなんだな?」
相手が何か答える。
「……そうか」
山本さんはゆっくり頷いた。
「近いうちに、顔を出す」
「……ああ。連絡ありがとうな」
電話が切れた。
山本さんはすぐには振り返らず、携帯を手にしたまま窓の外を見ていた。
「……源一さん?」
和子さんが静かに声を掛ける。
「どうしたの?」
「……昔の知り合いがな」
山本さんは、ようやくこちらを向いた。
「亡くなったそうだ」
「……そう」
和子さんが小さく答える。
俺も何も言えずにいた。
「昔、一緒にバイクを作った奴でな」
山本さんは椅子に腰を下ろした。
「俺より、ずっと若い奴だったんだが……」
そこまで言って、言葉を切る。
食卓の上には、まだ少しだけ煮物が残っていた。
山本さんはそれを見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「……また一人、減っちまったな」
今回の曲はホームメイド家族のサンキュー!!です
世代的にBLEACHやNARUTOで歌ってたりして耳に残ってるしサンキュー!!じたいいい曲です
ぜひ聞いてみてください




