↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

見えない敵との戦い 八

2026年9月19日


麻木は木枯らしが吹く中、公園まで散歩をしに来ていた。公園にはブランコがある。ブランコしかない公園だった。麻木はポケットから煙草を取り出すと火をつけ、ブランコを眺めながらたばこを吸った。公園に4つ並べてあるベンチの一つにはおじいさんが腰かけていた。このおじいさんを見るのは3回目だった。どの時もただおじいさんは足元の地面を見ていた。

「こんにちは。寒くなりましたね」

麻木はおじいさんに話しかけたが、おじいさんからの返事はなかった。

麻木はもう一度話しかけるのもなと思い、たばこを吹かすことにした。

「このあたりに住んどるのかい?」

麻木が一本吸い終わり、もう一本を箱から取り出そうとしていた時だった。

「え?」

「住んで長いのかい?」

老人が自分に話しかけていることに気づき、麻木は老人を見た。

「まあ、散歩のコースの一つ。長いかどうかはなんとも」

「そうか」

おじいさんはやはり麻木を見ることをせず、地面をただ見ていた。

麻木は吸おうとしていたたばこを箱に収めると、公園をあとにした。

それから麻木は近所の朝日商店に行き、みかんジュースを買って公園にもどった。

おじいさんはやはりただベンチに腰掛け、地面をまだ見ていた。

「よかったら、どうぞ」

麻木は缶に入ったみかんジュースを老人に差し出した。

「ああ、すまんな。もらっても?」

「ええ」

「ありがとう」

とはいうものの、おじいさんは差し出された缶を受け取ろうとはしなかった。

しばらくするとおじいさんの肩が揺れた。

「ありがとう。美味しかった」

「どういたしまして」

そう老人が言うと、おじいさんは立ち上がって公園をあとにした。

麻木が老人に手渡そうとした缶を見ると、そこに描かれていたはずのオレンジ色のパッケージが消えていた。メッキがすべて取れた鈍い銀色の缶。その缶の中身も空になっていた。缶を閉じているプルタブは一度も開いていなかった。


「お達者で」

もうおじいさんの姿は見えない。消えたおじいさんに向けて麻木はつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。