見えない敵との戦い 二十三
2026年9月24日
田中はとあるマンションの一室の前に来ていた。田中がここに訪れるのは今日が初めてだった。いつもの仕事の依頼ではなかった。ここはとあるゲーム開発の現場だった。田中はインターフォンを押した。中から足音が聞こえ、そして玄関が開く。中から男が出て来て、田中を見ると挨拶した。
「お待たせしました」
男の言葉に田中は笑った。
「いや、僕のセリフです。僕が遅れています」
田中は男にオフィスの中に案内され、用意されていた作業スペースの一つであるベランダ側のデスクセットに腰かけた。しばらく待つと今日の仕様書を男から手渡された。仕様書を元に作業を始める。この作業は単調になるので田中は男と会話することにした。
「前に来ていた人はどうしましたか。この場所に連れてこなかったんですか?」
「消えたんです。ふらりと。来なくなってしまった」
田中はパソコンを触る手を止めた。
「いや、たぶん違うと思うんですよ。そちら方面じゃない。製作にこだわりがある子でした」
男は田中の様子に慌てて付け足した。
「いや…あなたが彼の話をしてから、僕の頭の中でピンが外れるような感覚があった」
言われて男も手を止めた。
「どこ?え?あいつ?」
男はパソコンにつないだマウスを激しく動かした。保存してあるファイルの一つ一つを開いて見てまわる。田中は脱力したように背もたれにもたれかかった。
「彼が消えたのは前の現場が火災で焼失したあとですよね」
「ええ、ええ。国に帰ったのかと思ってた」
言って男は笑いだす。田中はつまらなそうにつぶやいた。
「作り直しです。すべて。火事で燃えていて欲しかったな、すべて」
「持ち出してもいけなかった、かー」
田中はたばこを吸いにベランダに出る。ベランダの外からは、いまだ黒煙を出している一か月前の火事の現場の建物の、その一角が見えていた。




