見えない敵との戦い 二十
2026年9月24日
麻木は立ち往生していた。廊下の前。知らない施設の廊下だった。真っ直ぐに4mほどある。長さとしてはそこまで長くない。廊下の先には闇が広がっている。ここで出来ることは動かないことだった。動くともう戻れなくなる。調査をしていた。主人と山崎が一緒だった。3人一緒にいたのに麻木はいま一人だった。他の2人も同じものを見ている。なら動いたらいけないという情報は伝わるはず。自分の中の影の中にいる存在が教えてくれている。麻木は今はその意思に従うしかなかった。
「どのくらいですか」
自分の胸に問いかけた。
「あと3分。動いたら死ぬ」
あのいつかの朝見た夢の、輝く光の玉の人?と思うと、短く「了」と帰ってくる。
こうして語りかけてくる。その場合本当に危ないのだと麻木は悟った。
時間の感覚が合っているのかわからない。3分という時間がはるか遠くに感じた。この廊下の先の闇はどこに繋がっているのか。それを考えようとすると止められた。ここではいけないという念を感じる。
やがて場所が溶けていくように変わった。元の場所ではなかった。今度は廃墟の中だった。見たことがない機材が置かれていて、床は所々で砕けて、天井からは配線が垂れ下がっている。ここでも麻木はしゃべらせてもらえない。口が動かないのだ。
「ここは瞬きしかできない。5分だ」
声の主の通りにしかできない。身体の支配権は光の玉の人にある。麻木は虚無になる。麻木には死の恐怖がすぐそばにあった。麻木は気づいていないが、これは影の技によって死の恐怖を感じていたに過ぎなかった。光の玉は教える。
「この恐怖は君のものじゃない。この死の恐怖は殺された人が持っていたものだ」
麻木は言われたことを理解できないでいた。
「こういうことをするようになった。今のままではいけない」
麻木は影の技を使って悪さをするものが、人の心をコントロールするのは知っている。だから人が死ぬ。死にたい感情で魂がいっぱいになってしまうから。麻木は冷静になって言葉の意味を思考した。
つまりいまのこのトラップは、麻木の業界の者に対するトラップだ。いままでどの仕事も怖さを感じなかった。だが今回は怖い。それは自分の恐怖ではないのか。
「恐怖は身を動かなくさせるため。君はこの程度のものに恐怖は感じないだろう。これは人を殺して得た魂が持っていたもの。殺されるときの恐怖だ」
麻木は目を閉じて心の中で罵った。
「強くなります」
麻木の言葉に声の主が頷くのを感じた。
「まだあと10は罠が続く。その間動けない。そのあとでまた、いつもの二人に会える」




