見えない敵との戦い 十七
2026年9月23日
仕事が終わって麻木は少し賑やかな街に出てきていた。家から30分ほどかかる場所で、麻木は徒歩で移動していた。そしていまの麻木にはお金がなかった。しかし麻木の手には封筒がある。封筒には50万円入っていた。
「歩いてたら “お金がない” になった。どうしようかなぁ」
この 『お金がない』 は物の価値がなくなることだ。麻木が手に持っているこの50万円。これの価値がもうなくなってしまっている。ニセ札になったわけではない。人が価値を感じなくなっているというものだった。それは麻木の業界では、もうこのお金を人に使ってはいけないということだった。これをもし麻木が使って、それが誰かほかの人の手に渡る。そうすると、このお金に仕掛けられていた影の力が発動し、物の価値が失われてしまうということだった。ひどいと人が死ぬ。自分の持っているものすべてに価値が見出せなくなってしまう。そういう影の技によって魂を捻じ曲げてしまう仕掛けが施されたお金であった。
「ここに来てこれはひどい」
買い物をしようとしてここに来たのに、使えないお金になってしまった。
「えー、新作のお香を買いたかった…」
お香の店の前まで来ていた。店先からはほのかな甘いシトラスの香りがしていた。
この 『お金がない』 という影の技はどこ経由でついたのか。気を取り直して探すことにした。辺りを見回すと麻木はため息をついた。そこで山崎に電話をすることにした。
「もしもし」
ワンコールで山崎が出た。
「おはようございます、麻木です。主人と代わってもらえませんか?急ぎの用事です」
言うと山崎は笑ってすぐに主人と代わった。
「こんにちは。どうしましたか」
「お金がない」
それだけ言うと麻木は電話を切った。20分後に麻木のいる店から少し離れたコンビニに主人がやってきた。主人は麻木にメールをした。
「コンビニの前にいます」
しばらくすると麻木が主人のいるコンビニにやってきた。駐車場で二人が落ち合うと麻木は自分の持っていたお金の入った封筒を見せる。
「これです」
主人はお金を見ると苦笑いをした。
「あー、これは処分しないと。大きく持ちすぎてたせい」
「全部吸い尽くしてるんですよ」
「だよね。真っ黒だもの」
主人の目には目の前のお金が炭のように黒くなっていた。
「残念だけど、このお金は換金できないよ。これは紛れもなくお金だから。代わりを用意できない。そのかわり何かおごるから」
「絶対、絶対、絶対…復讐してやる…!」
麻木は主人に連れられ飲食店に数件はしごし、そして欲しかったお香を買ってもらった。
この事件の解説をする。麻木はこの 『お金がない』 という影の技がどこ経由でついたのかをぐるっと周りを見渡した時に、大方わかってしまった。なのでため息をついた。麻木は発生源を探したが、もう痕跡を見つけられなくなっていた。それはつまり、麻木の持つ50万円そのものが 『お金がない』 という仕掛けを持っているが、それと同時に 『お金がない』 という仕掛けを他のものへ飛散するためのシステムを持つものになってしまったということだった。魂が乗り移ったという表現だとわかりやすいだろうか。親にされたということだった。感染源がわかりやすい。この麻木の50万円にこの街のどこかに仕掛けてあった 『お金がない』 という影の技を、他のものへ感染させてしまうシステムが移ってしまったということだった。




