見えない敵との戦い 十六
2026年9月22日
麻木は駐車場にいた。待ち合わせではない。この場所が麻木を家に帰さなかった。一度入り込んだら二度と出られない森のように、駐車場に影の仕掛けが張り巡らされていた。駐車場に車は4台。車の色は4つとも違う色をしていた。白、黒、緑、黄色。車種は軽、ワンボックスワゴン、セダン、SUVだった。
「一時間経ってるなぁ…」
時計を見て麻木は不安になった。影の仕掛けが複雑すぎたからだ。この仕掛けのパターンは10ある。そして仕掛けに使われている車自体に仕掛けられている影の技は4だった。なおかつ1台ずつ仕掛けが違っていた。なぜこのような仕掛けがこの駐車場にあるか。これは人の魂を捕えるトラップになっている。影の技のエネルギーは魂を使っている。そのエネルギーを集めるためのものだった。影の力の悪用をする者が、前々から人から魂のエネルギーを刈り取り、自分たちで使うために保存しているという報告が多発していた。その仕掛けに対する警戒をするようにとの通達が麻木たちのところにも来ていた。
「つかれ卍~」
麻木はメモを取り出し、自分が試したものを書き足していく。
「おや、どうしたんですか?」
麻木は自分しかいないと思っていた場所に声がしたので弾かれたように声がしたほうを見た。そこには以前境橋の時に会った仲介人がいた。田中だった。田中はすらっとした体形で、黒いスーツに赤いシャツを着ている。
「あ、お疲れさまです」
「君に会うのは久ぶりですね」
田中は麻木の方に歩いてくる。
「あ、ここ影の仕掛けがあるんですけど」
「僕は大丈夫なんですよ」
そういって田中は麻木の前を通り過ぎると、駐車場に置かれていた黒いセダンに乗り込んだ。
「お隣どうぞ」
そう言われて麻木は田中の乗るセダンの助手席に座った。
「どういうこと?」
「まあとりあえずここから出ましょう」
田中は車のアクセルをべた踏みして駐車場の壁に向かって走り出す。
「あ、死んだ」
「大丈夫です」
車はガタンと揺れて止まると、再びゆっくりと発進し、駐車場の出口に向かって走り出す。田中はハンドルもペダルも動かしていない。車はそのまま駐車場から出ると右折し、車道へと向かって左折した。
「この仕掛けは笑いましたね、最初は」
「光あれ」
「あの駐車場の仕掛けって必ず壊れないようにされています。僕は君があそこに迷い込んだと言われてやってきたんです。この車は僕の車です。仕掛けを施されていた車から影の仕掛けを僕の車に移動してます。残念ですが駐車場の仕掛けを廃棄できるようになったらこの車は廃車にしないといけないんです。次の信号を左折すると一度車が止まります。その時に降りてください」
麻木はシートにもたれかかると目を閉じた。
「このくそったれな影の…本当にありがとうございます」
「この車が使われたのはいろいろな理由があるんです。僕の車を使ったこと、一生後悔させてあげます」
田中に言われた通り、車が止まると麻木は田中に礼をして車から降りた。田中が乗る車は道を前進し、右折すると姿が見えなくなった。
「お礼しなくちゃな。むちゃくちゃ」




