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見えない敵との戦い 十三

2026年9月21日


「魂がない」

「魂がないって言ってる」

「そうだ。ない」

三者三様に話す地蔵に麻木は飽きていた。それはとある林道の脇にある地蔵菩薩だった。地蔵3体が並んでいるわけではなかった。地蔵菩薩は一つだけだった。だが声色が若い女、老人、若い男の三つが交互に話している。この場には麻木ひとりきりだった。

「僕はここでお留守番だからいいけどね。寝たら死ぬお留守番」


主人と山崎は麻木がいる林道のさらに奥にある滝に来ていた。辺りは紅葉の季節ではあるが、青々とした木々に囲まれている森だった。

「久しぶりに出勤ですよ、我々ふたり」

「あまり長居しないようにしましょう。僕が引きつけ役です」

山崎は言うと滝に向かって白い貝殻を投げた。すると弾かれるように白い貝殻が山崎めがけて飛んできた。山崎がかわすと白い貝殻は木の幹に深く刺さった。

「心臓が止まるかと思った」

「僕がやります」

今度は主人がお金を投げた。五円玉だった。それは今度は滝の中に消えていった。

「いくら消えるかな」

「現代っ子嫌いだわ」

山崎は笑いをこらえて500円玉を用意した。


「おかあさんが呼んでいる」

そうお金を一万円使ったときに滝の中から聞こえてきた。声は若い女の声だった。

「いちいちうるさいな」

「お前のためにお金を無駄にしているんです!」

ふたりの声など聞こえないようで、滝の中から大きな黒い手が出てきて何かを探すように滝つぼを触っている。そして何かを見つけると滝つぼから手を引き上げた。大きな青い真珠を持っていた。

「くわばらくわばら。あの真珠、死体です」

「もう目には見えないものになってる」

山崎は置いていた荷物の中の一つの長細い包みを縛っていた紐を解いた。中からは太刀が出てくる。その太刀を鞘から抜いた。

「一つだけ、あなたの趣味は何ですか」

主人の問いかけに真珠の中から声が聞こえた。しわがれた男の声だった。

「人を殺すこと」

山崎は青い真珠を真っ二つにした。


主人と山崎が森から帰ってくるのが見えると、麻木は地蔵菩薩の頭をモミジで飾る手を止めた。

そして2人の表情の暗さに眉根を寄せた。

「おかえりなさい。失敗したの?」

主人はため息をついた。

「違いますよ。真珠の中身の話です」

「なんですかそれ」

「あら。そうか。滝つぼから手が出てくるってなにか覚えていますか?」

「あいつらが使う技の一つです。死の名所にするための」

「そう。滝つぼに人を死に誘う悪いものが収められている。それが青い真珠の形をしたものだった。その真珠の中身が違ったんです。『やらない』。覚えてますかこれも」

「やらない。これは『死ね』です」

「いつもとタイプが違っていた。おかげで準備したものが無駄になって時間がかかった。力を消耗しすぎました。なので一晩この辺で野宿とします」

「うそだろ」

山崎が口を開いた。

「ウソウソ。時間がかかったら迎えに来てもらえるようにしてるから。俺が」

「本当にありがとうございます山崎様」




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