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 サークルだろうか、ラクロスのステッキやテニスのラケットを持った集団が行き過ぎ、チアリーダーの格好をした女の子たちが行きかう。

「だって、社会に出ちゃったら、なんにもできなくなるんだよ。今、今しか楽しく過ごす時間ってないんだよ。だからさ、合宿行こうよ! 人生楽しまなきゃ損なんだから」

 そう言って、参加を渋っている後輩を説得している女の子が莉愛の前を通り過ぎていった。

 莉愛はその説得の仕方に苦いものを感じた。上崎の時とはまるで違う押しつけがましい思いやりを感じてしまう。

『同じ欲なのに、どうしてだろう』

 面白がれたか? FEBの地下での言葉がよみがえってくる。

 ああ、そうか、そうだ。あの誘ってる、愉しそうじゃなかった。

 莉愛はゆっくり四月の空を見上げた。前髪にたまっていたのか、はらはらとさくらが莉愛の薄茶色の瞳の前を落ちていく。

 欲は人を動かす力なんだ。でも、それは『神の知』で歪んだものじゃいけない。歪んでしまえば、欲は足ることを知らず、それを周りに押し付け、すべてのものを利用物としてだけ見る怪物になってしまう。あの娘に苦いものを感じたのは、後輩を利用物として見て、その成果を求めている気がしたから。たぶん、そう。

「優貴さん……」

 莉愛は我慢できずに、つぶやいてしまう。

 やっとわかったよ、優貴さんの不思議さが。優貴さんがガルムにならなかったわけが。

 欲に正直なのに、損ばかりする。欲に正直なのに、気持がいい。欲に正直なのに、解放されている。欲に正直なのに、気楽に愉しんでいる。

 それは、歪んでない心から生まれた欲だからでしょ? だって、優貴さんの眸はいつも愉しげで、澄んでいて透明だった。黒々とした瞳はいつもいたずらっぽい表情をしてたけど、まっすぐだったよね。ほめ過ぎかな? あたし。

 莉愛は押し込めた感情がこみ上げてくるのを押さえつけるために、立ち上がった。頭を振って花びらを落として、駅に向かった。


 雨上がりの新宿は、少しきれいな気がする。雑踏の人いきれや埃が洗い流されているせいだろうか。

 莉愛は新宿南口の改札を出るとデパートにぶらぶらと向かった。今日は、紺に細いストライプの入ったワンピースに薄手のロングカーディガンを羽織っている。以前は白や明色系の服を好んで着ていたものだったが、最近は暗色系が多くなっている。なんとなく明るい色の服に目がいかなくなってしまった。今日も着たいと思える服がなかったので、新宿まで出てきてしまったのだ。

 ふらふらとデパートに入っているブランドを見てまわる。春先のせいかやはり明るめの色が多い。莉愛はどのブランドの店にも足を踏み入れず、結局デパートの外に出てしまう。ふっとため息をついて明治通りを北に歩きだした。自分が以前と同じ生活をしようと努力しているのは気がついている。そうすることで、自分がバランスをとっているのは判っている。でも、以前とは違うのも知っていた。なにかが足りない。でも、それが何かを莉愛は決して言葉にしないでいた。


 明治通りから新宿三丁目へ、そのあとどこをどう歩いたか莉愛はよく憶えていなかった。ずいぶん歩いた気もするし、そうでもない気もする。革靴のつま先が痛くなっているから、だいぶ歩いたのではないだろうか。

 莉愛は眼前のマンションを見上げると玄関ホールに足を進めた。自動ドアが開き、ふたつめの自動ドアの横のタッチパネルに部屋番号を入力し、顔認証する。滑らかにドアが開き、奥のエレベーターに乗る。ゲージの中でまた、来ちゃったな、と思う。だが、近くまで来たんだからだから仕方がない。莉愛は自分に言い訳していることを気付かないふりをして、ゲージを降りた。

 優貴の部屋のドアを開ける。

 事件のあと、もしやと思って来ていたころはふわっと柑橘系の香りがしていた。それが優貴の匂いだと思えてうれしかったが、もうその香りもしなくなっている。この世から田村優貴という人間の痕跡が一つなくなってしまったようで、莉愛は寂しかった。

 部屋はそのままにしてある。初めてここに来た時に眠ったソファもそのままだ。

 莉愛は窓を開け、空気の入れ替えをして軽く部屋の掃除をしただけで、鞄を持った。長居しているといろいろなものが溢れ出しそうで怖い。でも、来ずにはいられない。だから、掃除をしてすぐ帰るようにしている。


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