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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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88日目-1

「……警察じゃなかったんすね」


坊主頭の男は、小さな声で切り出した。


「戸倉辰夫の親族でね。色々あって、捜査に協力をしていた」


「……親族」


私は頷く。


「従兄弟だ。辰夫が何をしようとしているかは聞いているよ。君が何をしようとしていたかも、大体分かってる」


田袋が黙った。このまま面会時間が終わるのではないかと思うほどの長い沈黙の後、彼が小さく息をついた。


「……なら、何で俺を止めたとです」


「人が死ぬのは、どんな理由であれ嫌なものだ。辰夫もそう言ってたんじゃないのか」


「従兄弟、ですか。やっぱよう似とるもんですね」


「私には彼ほどの度胸はないよ」


「……俺に会いに来たのは」


「辰夫がどこにいるか知りたい。あいつも死ぬつもりだろう?」


田袋が目を閉じた。


「……まず、今戸倉さんがどこにいるかは知らんとです。確信は持てんです。

それに、川口は本気で戸倉を消しに来るでしょう。宮東会も」


「宮東会なら、クーデタが起きたぞ」


「えっ……!!?」


「黒原は失脚したと聞いてる。鎌田という奴の部下が、若頭になった。柳澤は本部長らしい。

海甲組との裏の繋がりが明るみになり、黒原には絶縁状が出た。君が殺さなくても、一応は望み通りの結末になりそうだな」


「柳澤さんが……」


「辰夫にとって柳澤は敵だが、川口を倒すという目的では共通している。だから、宮東会は対川口の点では敵ではない。まだ」


そう、宮東会は旗熾を鮮明にはしていない。ただ、鎌田という男が川口に抱き込まれる可能性は、決して低くはなさそうだった。

だから、その前に川口を潰さないといけない。


#


既に「川口財務大臣、北関係団体から献金か」というニュースは流していた。深沢支局長の尽力もあり、かなり分厚い記事になったと自負はしている。

ただ、川口の関係者、そして「本社の一部」から記事を取り消せと早くも強烈な圧力が掛かっていた。取引記録を突き付けてもなお、だ。

他社の「追っかけ」も今のところない。このままだと、こちらの「暴走」ということにすらなりかねない展開だ。


予期はしていた。しかし、これほどまでに圧力が強烈とは思わなかった。

次の矢を撃たねばならない。そのためには、川口による「殺人」を立証する必要がある。


既に辰夫と思われる人物が黒原の独白と例の動画を流していた。

ただ、メディアの反応は鈍い。芙美の所も黙殺で通すという話だ。クーデタの話含め、荒唐無稽に過ぎるということもあるのかもしれない。


幸い、ネット上では凄まじい騒ぎになっている。問題は、これがいつ削除されるか。

ネット世論は、往々にして燃え盛るのは一瞬だ。フェイクとレッテルを貼られれば、沈静化はそう難しくはない。

打つ手は打ったが、どこまで川口にダメージが入っているか。それは正直読みきれない状況だ。


#


「柳澤さんと、戸倉さんは組めるんですか」


「……どうだろうな。ただ、宮東会全体としてはともかく、柳澤自身は川口を敵と認識している。私としては、可能性なしとはしない」


「……柳澤さんは、戸倉さんを殺さんでしょうか」


「……分からない。柳澤が辰夫を殺す動機は、一連の騒動の『落とし前』を付けさせる以外には考えにくい。

ただ、それでもなお、奴はやるかもしれない。頭が堅い男のようだから」


田袋は小さく頷いた。


「それに、戸倉さんは死にたがっとります。それは、俺も嫌です」


「私もだ。そこで話を戻す。辰夫の居場所は」


田袋が少し逡巡した。


「……さっき言った通り、確証は持てんとです。ただ、恐らくここだという場所は分かります」


私の背後にいる善村刑事が何かを取り出したのが分かった。田袋の話す住所は、やはり飯塚だった。


「……行くんですか」


「当然。今から即向かいます」


善村刑事が面会室を出る。辰夫については、彼に任せるしかない。


「捕まえるんですね」


「ああ。辰夫が『サマー』と分かれば、動機が復讐にあることも知られるはずだ。それ自体が、川口への打撃になるかもしれない」


「……本当に、それで川口を捕まえられるんですか」


私は口ごもった。……確証は、ない。


「とにかく、辰夫は死なせない。だから、私たちに住所を教えてくれたんだろう?」


「……頼みます」


#


面会室を出ると、着信履歴が2つあった。1つは芙美からだ。


「もしもし」


「洋さん?……今、会社から呼び出しを食らったの」


声が酷く怯えている。嫌な予感がした。


「呼び出し?」


「……多分、洋さんとの関係もあると思う。この前の神楽坂の取材は一応はしたけど、読日とつるんで何かをやってるんじゃって疑われてる」


「圧力だな」


「多分……どうしよう」


芙美が懲戒処分を受けるぐらいならまだいい。しかし、一番怖いのは……呼び出しを食らった帰りに、芙美が消されることだ。


「今、自宅だよな。私も同行する」


「……え?」


「もう背に腹は変えられない。ボディーガードとしては心許ないが、いないよりマシだろう」


「……分かった、待ってる」


電話を切り、もう1つの着信履歴を確認した。……柏木?


「どうしました」


「……いや、興味があったので調べてみた。川口たちが殺した、無数の死骸はどこに消えたのかと」


言われてみれば謎だった。確実な被害者は、辰夫の彼女だけだ。恐らく数十人単位で死んでいるはずなのに、どうして死体が出てこない?


「分かったんですか」


「ああ、恐らく……」


彼からの説明を受ける。……これは確かに有力な情報だった。


「よく分かりましたね」


「宮東会の人脈を辿ったまでさ。……頼む」


「了解です」



その時、邪悪な考えが頭をよぎった。……これか??



やってできなくはない。芙美しかできないことでもある。彼女が呼び出されたのは……むしろ好都合かもしれない。



そのためには、彼女の上司を説き伏せねば。




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