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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
92/125

83日目-3



……やっとここまで来た。



オレは窓越しに福岡ドームを見た。どれだけ待っただろう。どれだけ我慢しただろう。

姉さんを喪った日のことを、そして義兄さんが殺された日のことを、今でも鮮明に覚えている。それ以来、オレは宮東会への復讐しか考えていなかった。


それが、ようやく実を結ぶ。


形見のキーホルダーを、オレは握った。まだ、時間じゃない。コンサートが終わるまで、あと1時間。その時、オレは下に降りる。

あとは下劣な黒原の手下たちが、段取りしてくれるはずだ。


大丈夫、この姿でオレと分かることはない。オレは自分の女々しい顔が大嫌いだが、今日ばかりは感謝した。

鍛え上げた筋肉は、タイツとゆったりとしたこの服が隠してくれる。この時のために、変声法も身に付けた。3年間、ずっと鍛えてきたことだ。


戸倉さんは、オレが単独で黒原を討つことをずっと拒んでいた。何も死ぬことはなか、と。

だが、彼が死ぬならオレが死なない道理はない。オレも彼と同じく、命を捨てる覚悟はとうにできている。

そして、戸倉さんは遂に根負けした。だから、オレは彼とも宮東会とも切れた上で、ここにいる。


「得物」は懐にある。多分、ギリギリまでこの存在に黒原は気付かないはずだ。

大丈夫、逸るな。オレはすぐにでも下に行きたくなる衝動を、必死でこらえた。今行ったら疑われる。

あくまに自然に、「釣糸の先にある餌に食らい付く」のだ。そして、リールが巻かれたその先には……黒原がいる。


スマホを見た。まだ15分しか経っていない。


オレはブラックコーヒーを口にした。……まだ高揚感が消えない。


柳澤さんは、今頃どうしているだろうか。あの人のことだ、何か手は打ったのだろう。

でも、黒原を殺すのはオレの役目だ。彼の手は汚させない。

ずっと騙してきたことへの罪悪感は、ある。だからこそ、オレが責任をもって、黒原を殺すのだ。


#


コンサート終わりのマークイズももち入口前は、人でごった返していた。待ち合わせとおぼしき少女たちの姿が、幾つもある。

芸能スカウトは、こうした少女を狙う。特に、こうした大規模イベントの際は、若い女の子が九州中から集まってくる。格好の狙い目というわけだ。


川口、そして宮東会はこのチャンスをフルに活用する。そして、その中から見た目麗しく身寄りがあまりない者をその日の「獲物」に定める。

基本、狩られるのは女の子だ。ただ、黒原は趣味で中性的な男を選んでいたらしい。そのことは、戸倉さんが調べてくれていた。


オレは待ち合わせを装った。端からは、誰かを待つパンキッシュな少女にしか見えまい。


スマホを弄ること数分。後ろから急に声をかけられる。30過ぎくらいのスーツの男がそこにいた。


「やあ、君。センスのいい服してるね?とても似合ってるよ」


「は、はあ……」


「警戒しなくていい。僕は『ベストファン』の、こういう者だ」


名刺をそっと渡される。あまりに自然で、彼が本当にスカウトに来たのかと思ったほどだ。

だが、ベストファンの上層部と川口、そして宮東会は繋がっている。勿論信用なんておけるはずない。


そのことに悟られないよう、オレは演技を始めた。


「お……私、男ですけど」


「それでも構わない。むしろトランスジェンダーが話題だからね、女装アイドルがいてもいいくらいさ」


「女装、ですか……」



その時だ。



「ちょっと失礼」


オレたちの間に、誰かが入り込んだ。


「だ、誰ですかあなたはっ!!?」」


そこにいたのは、ガッチリとした体格の男だ。

……見覚えが、ない。男は懐から何かを取り出す。



警察、手帳??



「福岡県警小倉署の善村です。任意同行願えますか」


「えっ……」


スカウトの顔が青ざめる。……まずいっっ!!



ダッッッ!!!



オレは駆け出した。警察??まさか、オレのことを察知していた??


「キャッ!!?」


「あぶねっ!!」


コンサート帰りの客たちの間を、オレはすり抜けるようにして走る。

……黒原を殺すAプランは失敗だ。警察がマークしていたなんて……

懐にある「得物」を使うべきか、一瞬考えた。しかし、弾数は少なく、しかも人混みの中では到底撃てない。


もはや無茶を承知でBプランに切り替えるしかない。黒原はヒルトンにいる。どこの部屋にいるかは知らないが……そこを急襲するしかないっ!!


ヒルトンまでは数百メートル。後ろから善村という刑事が追ってきているが、こちらの方がずっと脚はある。撒いて、ホテルロビーに辿り着くのだ。そこで仕切り直しだ。



ドスッ



「キャアアッッ!!?」



女に派手にぶつかると、そいつは勢いよく吹っ飛ぶ。……しまった。

しかし、気にする余裕はない。もう少しで、完全に撒けるはず……



「捕まえたぞ」



男がオレの手首を握っていた。……こいつも警察か?



「クソッ!!!」



手を振り払い、左ボディを放った。男は「ぐうっ!!?」と呻いて倒れる。クソ、時間を取られたっ。



「ひったくりよっ、捕まえてっっ!!!」



さっきの女が叫ぶ。まさか、こいつもか!!?


辺りが騒然とする。どうすべきか、数瞬躊躇した。



「田袋ぉぉぉっっ!!!」



叫びが響く。刑事がオレに突っ込んできていた。

再び逃げを選択しようとしたオレの足首が、何かに掴まれている。



「逃がすか……よ」



さっきの男かっ!!?引き剥がそうとした刹那、刑事がオレを組み敷いた。



「公務執行妨害っ、並びに暴行の現行犯だっ!!逮捕するっっ!!」



カチャリ、という音が響くと、オレの力は一気に抜けた。

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