84日目
「田袋の様子は」
「大人しいものですよ、ただ必要以上は喋らず、黙秘してますが」
風間警視がふうと息をつく。ヒビが入った肋骨が軋んだ。
田袋は公務執行妨害と傷害、そして「銃刀法違反」の現行犯で逮捕された。
彼の懐には、ペン型の小型銃があった。それで黒原を殺すつもりだったのだろう。
「にしても、ペン型の銃ってあるものなんですね」
「弾は2発、精度も最悪、威力もたかがしれている代物ですがね。至近距離で撃てば、当然致命傷になる。
あなた方や善村に撃たなかったのは、一般人に危害を加えたくなかったからというだけじゃなく、あまり意味がないことを知っていたからかもしれませんな」
「そんなものをどこで?」
風間警視が苦笑した。
「私が聞きたいですよ。オーダーメイドの特注品、あるいはこの3年の間に作ったのかもしれませんね」
「辰夫のグループが?」
「ええ。それにしても、大騒ぎにならずによかった」
確かにそうだ。田袋が黒原を殺せたとしても、宮東会は実権争いで大混乱に陥っていただろう。
柳澤も無事ではあり得ない。絶縁したとはいえ、元部下の犯行だ。責任は取らされていただろう。……それこそが辰夫の狙いだったのだろうが。
とにかく、やっと辰夫の裏をかけた気がする。明日炸裂する「週刊群衆」の「爆弾」の方が、より平和裏に宮東会を弱体化できるはずだ。
川口財務大臣を罪に問い、宮東会の力を削ぎ、その上で辰夫を保護する。それが理想的な形だ。
このまま、彼が思う通りに死なせるわけにはいかない。
ズキン、とまた骨が痛む。痛み止めをもう少し飲んだ方がよさそうだ。
「警察内部での取り扱い方は」
「ただの暴行事件として扱う予定です。その代わり、いつまでも勾留はしておけませんが。
田袋の名は隠しています。川口の手の内にある警察官がいないとも限りませんので」
「勾留期間は確か……」
「13日間。さらに10日加算することも可能ですが、そうなると上も騒ぐでしょう。恐らく、起訴猶予が妥当と判断されるでしょうし、ただの銃刀法違反でそこまで留め置くのはレアケースです」
タイムリミットは6月23日か。それまでに、ある程度の決着を付けねばならない。
田袋は絶縁中の身だ。宮東会がまだ機能していたなら、彼はそう長くは生きられまい。23日までに、川口を何とかしなければ。
「田袋への面会は」
「明明後日から一般面会ができます。当然、同席させてもらいますが」
私は頷いた。
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「何で休みだってのにじっとしてられねえのかね」
深沢支局長が渋い顔でストロングゼロの缶をあおった。
「すみません。やむを得ない事情が」
「肋骨にヒビって、どうせ例の従兄弟絡みだろ?警察に任せとけよ……と言いてえがな」
深く溜め息をつかれる。
「まあ、警察も動きにくい事情があるのは分かるがな。あまり派手に動くと、今度はヒビじゃすまねえぞ」
「……承知しています」
パサッ、と私の前に数枚の紙が置かれた。……これは、原稿だ。
「……支局長が書かれたんですか」
「言ったろ?俺は俺で川口の尻尾を掴もうとしてたってな。まあ、読んでくれや」
そこには、宮東会が北から薬と武器の調達を行っていた旨が書かれていた。それだけではない。そこに川口の親族が出資するダミー会社が絡んでいたという事実も。
「こんなの、どこで??」
「公安だよ。本社にいた時の伝手を使った。川口と北の話は、公安では知られてるらしくてな。ただ、証拠が乏しくて泳がせていたらしい」
「これ、本社には……」
「上げてない。というか、そいつは未完成品だ。所々、虫食いになってるだろ?
マネーロンダリングについては、お前の方が迫っている。もうちょいすれば、本社を説き伏せられる代物になるはずだ」
確かに……これなら川口の喉元に食い付けるかもしれない。
黒原が失脚すれば、隠されていた情報が出てくるはずだ。恐らくは、それが最後のピースになる。
あとは、明日の「週刊群衆」で宮東会がどうなるか次第だろう。黒原失脚の鍵を握るのは、柳澤だ。




