83日目-1
「ぜーっ、ぜーっ……」
僕はただ天井を見つめている。寒気と熱が入り交じり、凄まじく不快だ。
喉の中が、そして胸の中が痒くて仕方ない。咳をしてもしても、ゼェゼェという異音は消えてくれない。
呼吸もろくにできない。鼻のチューブからの酸素がなかったら、とっくに死んでいるだろう。
笹川教授が下した診断結果は、間質性肺炎。
このままだと、当座を乗り越えたとしても……1年は生きられないということだった。
父さんや母さんはショックでうちひしがれていた。笹川教授も痛恨の表情を浮かべていたけど、僕にはどこか悲壮感がなかった。
熱と呼吸困難で朦朧としていたというのもあるけど、多分それだけじゃない。
……ああ、遂に来てしまったか。
僕は賭けた。自分が治るために、できるだけのことをしようと思った。
だから、オプジーボの投与を続けた。次を越えれば僕の勝ちだったけど……僕の身体は、耐え切れなかった。
僕は愚かだっただろうか?肺の異変に気付いた時、無理を言ってでも投与を止めてもらうべきだっただろうか?
でも、これは僕が選んだことだ。笹川教授も、父さんも母さんも悪くない。僕は、治るために自分がこれと思う手を打った。それに、後悔はない。
……なら、このまま死んでいいのか?
そんなわけはない。僕には「まだ」1年の時間が残されている。だったらせめて、その期間は……悔いが残らないように生きたい。いや、生きなきゃいけない。
……兄ちゃんが、今しているように。
遠くで、面会を謝絶しているという看護士さんの声が聞こえた。きっと、見舞いの誰かだ。……誰だろう。
看護士さんが僕の右腕に刺さっている点滴の袋を取り替えた。そして、「手紙預かったから」と小さく呟き、脇のテーブルに置いた。
手足はろくに動かせない。ただ、その内容がどうしても気になった。震える手で、それを開く。
そこには、走り書きでこうあった。
「戸倉さんが生きる理由に会いたかった。死なないでくれ」
その送り主が誰かを知るのは、少し先のことだ。




