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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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82日目

「そうか、よろしく頼む」


私は電話を切ると、ふうと息を吐いた。これがどれだけの効き目があるかは分からない。

ただ、宮東会内部に不協和音を起こすことは疑いなかった。


「誰に電話だ?」


「知り合いのゴシップ誌記者です。『週刊群衆』の」


「『週刊群衆』?何でそんな連中に?ネタが取れたら手前で書けばいいだろ」


深沢支局長が眉を顰めた。


「ヤクザネタは新聞には書けませんよ。週刊誌でも、『群衆』クラスのレベルじゃないと扱ってくれません」


「ヤクザネタ?宮東会の話か」


「宮東会と海甲会の密約の話です。写真もあります。明々後日掲載の最新号にねじ込むとか」


「ネタ元は?」


「柳澤です。意図は何となく」


「利用されてるの、分かってるよな??」


語気を強める支局長に、私は小さく頷く。


「これで黒原を追い落とすつもりでしょう。『群衆』は、ヤクザではそこそこ読まれてますから。

そして、黒原の力が落ちることは、こちらの目的にも繋がる」


「川口か。そっちの動向はどうなんだ」


「ある程度は」


読み通り、川口は一斉に証拠の抹消に動いていた。要となるのは、金の動きだ。その情報が、一気に手に入りつつあった。

何重にもダミー団体を通し、川口は宮東会との取引をしていたと推測される。そして出納記録からかなりの部分は把握できた。ただ、記事化するにはまだ足りない。

そもそも、「ホワイトハッカー」を使っての情報収集をどこまで上が証拠として認めるか。そこは、全く自信がない。


とすると、宮東会内部からの情報が鍵になる。彼らがこちらの味方に付くとすれば、それは黒原が失脚した時だ。

柳澤には柳澤の都合があるのだろうが、こちらも彼を利用させてもらう。


……それにしても、この状況は辰夫にとってはどうなのだろうか?

彼の仲間だという、田袋という男も気になる。どこまでが彼らの狙い通りで、どこまでが予想から外れているのか。


私は、ストロングゼロの缶に口を付けた。どうにも支局長の悪癖が移ってしまったらしい。



気掛かりなことは、この他にもある。……勇人の容態だ。



結婚式の後、勇人は具合を悪くした。肺が良くないというのに全力疾走したツケが回ってきたのだ。

38度の発熱と咳、そして呼吸困難。今は自宅で療養しているが、明日病院で検査を受けることになるらしい。


オプジーボは極めて効き目がある薬だが、副作用も相応に重い。

その一つが……間質性肺炎。一度なったら完治は困難だ。投薬をやめれば進行は止まるが、しかし肺機能の劣化は避けられない。

勇人は肺機能の低下にもかかわらず、オプジーボの投薬を続ける決断をしていた。それが裏目に出てしまったのだろうか。


間質性肺炎だとしたら、勇人の寿命はそう長くはない。たとえこれを乗り切っても、そして癌が寛解しても……


「……クソっ」


悪態が思わず口を付いた。支局長が、渋い顔で私を見る。


「やはりあまり芳しくはねえか」


「すみません。ちょっと、整理がついていなくて」


「……お前、明日休んでいいぞ」


「え?」


「根を詰め過ぎだ。ろくに寝てもいねえだろ」


そこは芙美にも指摘されていた。確かに、ずっと辰夫の件のことばかり考えていた気がする。


「お前の従兄弟のことと川口のことは、焦っても何も動きゃしねえだろ。だったら時が来るのを待つしかねえ。

何、1日休んだところでそう問題もねえよ。従兄弟を見舞うなり、自分のことに時間を使いな」


「あ、ありがとう、ございます……」


確かに支局長の言う通りなのかもしれない。私は大きく、頭を下げた。


#


「よかったじゃない、やっと休めて。休日も、ずっと作業してたし」


「ありがとう。明日は勇人の見舞いに九大に行こうと思う。そっちは大丈夫か?」


芙美がギネスビールとビターチョコレートを俺の前に置いた。少し遅めの晩酌だが、明日は休みだし問題はないだろう。


「一応。というか、明日は福岡で取材なの。お見舞いについていってもいい?」


「面会謝絶でないなら。福岡で取材か」


「うん。SBドームで、神楽坂グループのコンサートが。川口財務大臣の講演会に、福岡支社の主力が取られちゃってて」


「アイドルの取材もやるんだな」


「テレビだからね。デスクも、『あんなことがあったから、少し息抜きできるネタでもどうだ』って」


……神楽坂グループ……?



ガタッ



私は思わず立ち上がった。神楽坂グループの多くが所属する芸能プロダクション「ベストファン」は……久住美里を「スカウト」した連中だ。

川口が福岡にいるタイミングで彼女たちがいる、ということは……川口はこの期に及んでも次の獲物を探している?


標的は誰だ。芙美が依然狙われている可能性はゼロではない。だが、芙美の警戒は非常に強い。幾ら何でも無茶が過ぎる。

とすれば、コンサートに来ている若い子か。そこを宮東会の連中が言葉巧みに拉致するとなれば……



パズルのピースが繋がっていく。ひょっとしたら、辰夫たちはそこを狙うのか?



「……どうしたの?」


「善村刑事に連絡する。明日、彼にも福岡に来てもらわないと」




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