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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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80日目-4

「新郎、新婦のご入場です!!」


司会の女性が高らかに言うと、式場の照明が落ちた。スポットライトが姉ちゃんと高杉さんに当たる。

チャペルの時とは違った、青いウェディングドレスに身を包んだ姉ちゃんはキレイだった。少し膨らんだお腹が強調されるデザインになっている。

美里も呼べばよかったなと、ふと思った。


僕が作った折り紙のバラが敷き詰められた花道を2人が歩く。司会の人が「バラは新婦の弟さん、勇人君が1人で作りました」と紹介すると、「おおっ」とどよめきが起きる。

それは誇らしいと同時に照れ臭いのだけど、その感情は焦りですぐにかき消された。



兄ちゃんを捕まえる計画は、白紙になった。



仮にここに兄ちゃんが現れたとしても、追うことはできない。ここで兄ちゃんを「救う」のは不可能だと、洋さんが告げていた。



#


「何でっちゃ!!?」


僕は披露宴直前、洋さんの胸倉を掴んで叫んだ。彼は、すまなそうにゆっくり首を横に振る。


「状況的に、多分無理だ。辰夫には、ボディーガードがついてる」


「ボディーガード??何ねそれ!!?こっちは3人がかり……」


「私も詳しく知らないが、ボクシングでは相当有望視されてた奴らしい。宮東会でも戦闘力は高いと聞いた」


「誰からね??」


「……柳澤だ」


僕は立ちすくんだ。後ろにいる翔琉たちも、思わぬ事態に怯えているようだった。


「……何であいつが」


「多くは語らなかったが、結婚式を邪魔するつもりはないらしい。ただ、奴の部下が辰夫に通じていたんだ。

計画を実行すれば、混乱はまず避けられない。辰夫はともかく、その男は君らを害することを躊躇しないだろう、と」


「……じゃあ黙って見てろ言うんね」


「……考えてはみる。だが……」


洋さんが深く溜め息をついた。こんな洋さんの顔は、初めて見た。


「柳澤は」


「そいつを探しに消えた。辰夫もいるかもしれないが……」


「じゃあ俺らも追わんと!!」


「巴の結婚式を放り投げてか??そんなことは辰夫も巴も、叔母さんたちも望んじゃいない!

……ただ、辰夫は必ず来る。それだけは、間違いない」


洋さんも苦しんでいるようだった。本当に、何もできないのだろうか。


#


式は何事もなかったかのように進んでいく。姉ちゃんも時折兄ちゃんがいないかと辺りを見たり落ち着かない様子だったけど、その気配は今の所、ない。

給仕にも、それらしき人はいなかった。……僕の読み違えだったのだろうか。


「それでは御祝いの電報を紹介いたします……」



その時だ。



カシャンッッ



「うわっ!!?」


「何これっ!!」


「演出?」



一瞬、照明が落ちた。……これは!?


30秒ほどして、パッと式場に明るさが戻った。司会の人も、呆気に取られている。


「た、大変失礼しました。……まず……え??」


司会の人が、ホテルのスタッフの人を呼んだ。


「これ……いいんですかね?え、ええ。じゃあ一応……

あ、改めて紹介いたします。最初は……DVDによる、ビデオレターです。送り主は……戸倉辰夫様」


「何っ!!?」


「嘘ッ!!!」


「まさかっ」


新婦の席から、様々な反応が起きた。僕自身も、呆然と司会を見ている。


そうか、照明が落ちた隙に、兄ちゃんは会場に入り込んだんだ。そして、DVDを……


スクリーンが下ろされ、照明が再び落とされる。そして、DVDが流れ始めた。


#


『よお。元気しとるっちゃ??」


出てきた兄ちゃんは、アロハ姿にサングラスだ。かなり姿はあの時から変わっているけど、この声は間違いなく兄ちゃんだ。

どこかの室内で録られたものみたいだ。古民家のようにも見える。


『巴、結婚おめでとう。やっぱりというか、先越されてしもたねえ。本当は俺もここに来たかったんやけど、『仕事』があってどうしても来られんかった。

妹の晴れ舞台に、本当にごめん。……兄貴失格だっちゃね。

ともあれ、こんなめでたいことは他にないたい。子供もおるらしいけん、二重にめでたいっちゃ。

俺から言えることは、あんまないっちゃ。ただ、一つだけ言いたいことがあるん』


兄ちゃんが一拍、間を置いた。


『……絶対に、悔いの残らんように生きてほしいんよ。どんな辛いことがあっても、2人なら乗り越えられるっちゃ。

だから、どこまでも、自分がやりたいように生き。子供にも、そうさせてやり。巴と守君なら、きっとできるし、大丈夫っちゃ。

それと、勇人。父さん、母さん。ここに来れんで、本当にごめん。俺は大丈夫やから、心配いらんっちゃ。悔いのないように生きとるから。

……じゃあ、また会う日まで。じゃあ』


そこでDVDは切れた。



「また会う日まで」……兄ちゃんは、また必ず現れるつもりだ。……でも。



騒然とした空気の中、僕は思わず立ち上がった。その「また」は、今日でなくちゃいけない。

さっき入ったなら、まだ遠くまで逃げてはいないはずだ。今なら間に合うっ!!



「勇人っ!!!」



僕は脇目もふらず、式場を駆け出した。

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