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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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80日目-3



「……馬鹿な」



俺は軽く頭を振った。混乱は谷川に悟られただろう。しかし、それを気にする余裕はなかった。


田袋が、ここにいるはずはない。そんな命令は出していない。


「探しましょう、田袋宏樹を」


拒否する選択肢は、俺にはなかった。奴を捕まえないといけない。

俺は勘定となる2千円をテーブルに叩き付け、足早にカフェを後にする。


俺は、歩きながら午前のことを思い出していた。


#


「……これは何たい」


能面のような表情で、鎌田が俺を睨んだ。下から上へと睨み上げる三白眼は、まるで蛇のようだ。

事実、この男は蛇のようにしつこい。そのしつこさと残虐性で、この男は黒原の右腕にのし上がっていた。


「黒原と海甲組が繋がっているとしたら、どうする」



ジャキィッ



冷たい鉄の筒が、俺の眉間に当てられた。


「舐めたことぬかすかぁ?こんのダボがぁっ!?」


「殺せよ。それでどうなるかは知っとろうもん」


銃口を突き付けたまま、鎌田はニィと笑った。


「証拠隠滅なんて、容易い話たい」


「そうか。ならこの話はなしだ。お前が黒原に取って変わる機会も、永久に来ない」


「……お前のように、か?」


「さあな。だが、悪い取引をするつもりはない」


鎌田は、俺が那珂川を消したことに薄々気付いているようだ。しかし、その証拠はない。


「取引、なぁ??金ごときで、俺が動くとでも……?」


「お前が黒原に不満たらたらなのは聞いてるぞ?暗殺を実行しても実入りは少ない。ハイリスクローリターンな上に、逃げられない。

そこに持ってきての、今回のデータだ。黒原と海甲組の金のやり取り記録、そして向こうの人間との写真。この中に一通り揃ってる。

もちろん、解除のパスワードは俺を殺したら未来永劫手に入らない」


「……嘘じゃなかろうね」


「調べてみるといい」


鎌田が部下にUSBメモリを放り投げる。そいつはノートPCにそれを接続して、「嘘じゃなかとです」と告げた。


「……今日の戸倉巴の件から、手を引けいうん??」


「そうだ。一般人への被害は避けてえんだよ」


「何を眠いこと言ってる???そんなの言われて、手を引く馬鹿が……」


「ならこの件はなしだ。そして、戸倉が持つ隠し財産も」


「……何やと?」


これはブラフだ。だが、戸倉がまだ財産を持っている可能性は極めて高い。

もちろん、戸倉の隠し財産が俺の目当てではない。しかし、強欲な鎌田には効く。口では金では動かないと言っていても、その実何より金が好きなのが、鎌田という男だ。


「お前が手を引く代わりに、俺が戸倉を捕まえる。ただ、それは今日じゃないがな。

捕まえて金の在りかを吐かせたら、お前の取り分は7でいい。悪くないだろ」


「なぜ今日じゃない?」


「準備不足だ。それに、あいつはそう簡単には捕まらん」


「………8と2なら乗る」


「了解だ」



鎌田らに見張りの若衆をつけて解放した。それでもなお、結婚式での襲撃を行おうとするかもしれないが……その時は、田袋の力がものを言うだろう。

ホテル周辺には、田袋をはじめとした連中を忍ばせている。鎌田など、黒原派が入ろうとしたらすぐに連絡が行く仕組みだ。


#


そう、だから田袋はホテルの中に入りはしないはずだ。その時点で「外で待機」という命令違反だからだ。

外では、刑事や記者の姿もあったという。それを追った……にしてはかなり妙だ。


「なぜあなたはここに??」


早足で歩きながら、谷川記者が言う。


「……黒原の部下が来るかも知れねえからな」


それは半分は本当だ。戸倉を捕まえることも頭をよぎったが、結婚式という晴れの場をグチャグチャにするのは、俺の流儀に反する。


もう半分の、本当の理由は……戸倉辰夫に一度会いたかったからだ。

俺にはあの男が分からない。だからこそ、身分を隠し、少しだけでも話してみたかった。



それだけに、田袋が独断で動いたなら……止めねばならない。



それは俺のエゴだ。だとしても、戸倉が死ぬには、まだ早い。


披露宴会場前のホールに着いた。1組の男女とホテルの従業員が、受付の準備を始めようとしている。


「いますか」


「……いや」


田袋の姿はない。宮崎という女の、見間違いか?それならそれで問題はない。俺はスマホで奴を呼び出す。



……出ない。



やはりおかしい。田袋は、無口で実直な男だ。なぜ極道をやっているかすら分からない程度には。

こういう時、真っ先に1コールで電話に出るのが、田袋という男だ。だからこそ、余計に違和感がある。



……いや、違和感ならずっと前からあった。田袋は、那珂川の殺害にあまりに簡単についていった。普通なら、抵抗しそうなものなのに。

まるで、俺が那珂川を殺すであろうことを、知っていたかのような……



「……まさか!!?」



谷川が俺を訝しげに見る。


こいつらが戸倉を捕まえることは、恐らく無理だ。むしろ、無理して動いたなら……それこそ死人すら出かねない。

ただ、それは俺にとっては受け入れがたい事実だ。……俺はずっと、戸倉の掌の上だったとでもいうのか??


「どうしたんですか??」


俺は返事の代わりに、柵を思い切り蹴った。周囲の視線が、一瞬こちらに向けられる。



「田袋は……多分、戸倉の一味だ。確実に奴を守るための、盾だ」




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