80日目-1
「うわあ……きれいや」
薄いピンクのウェディングドレスに身を包んだ姉ちゃんが、はみかんだように笑う。
「もう、勇人。お世辞言ってもしょうがないっちゃ」
「でも、本当にきれいよ。ね、あなた」
父さんが微笑んだ。
「……そうだな。辰夫も、見に来るだろうか」
「……きっと来るたい」
そう、きっと兄ちゃんは来る。そして、僕らが捕まえる。兄ちゃんを救うのは、僕らしかいないのだ。
ホテルの入り口近辺で張り込んでいる洋さんと宮崎さん、そして善村刑事からの連絡はない。
既にホテルの内部にいるのだろうか。前泊しているなら、あり得なくはない。
結婚式の披露宴まではまだ3時間ある。これからすぐにチャペルでの結婚式があるけど、兄ちゃんが現れる可能性はかなり低い。これは互いの親族だけしか出席しない。
いくら何でもここに現れるのは目立ちすぎる。来るなら、人がそれなりに多い披露宴だ。
心臓がもうバクバクといっている。最近は大分体調がよくなっているけど、それでも緊張からか既に疲労を感じ始めていた。
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結婚式自体は、何事もなく終わった。生まれて初めて結婚式に出たけど、こんなに緊張するものだとは思わなかった。
姉ちゃんも高杉さんも、ガチガチになっているのがよく分かった。姉ちゃんがウェディングドレスの裾を踏まないかと、何度も思ったほどだ。
それでも、トラブルは何もなかった。それは当然喜ばしいことではあったのだけど……兄ちゃんは、やはり現れなかった。
僕は溜め息をついた。そう、ここまでは分かっている。問題は、ここからだ。
「よう、勇人」
翔琉たちが控室に現れた。
「早かったちゃね」
僕は辺りを見渡す。兄ちゃん捕縛作戦については、姉ちゃんはもちろん父さんや母さんにも伝えていない。
人気のない場所に移動して、僕は切り出した。
「とりあえず、今の所動きはないっちゃ」
「本当に来るんか?」
「多分。入ってきたという情報はないから、もうホテルにいるとは思うけど」
「従業員に成りすましとるって、そんな簡単にできるもんなのかな」
「分からん。服を用意するとこまではできると思うけど」
僕はプリペイド式の携帯を取り出した。兄ちゃんに聞かれないために、連絡用に洋さんが用意したものだ。
披露宴まで残り1時間。まだもう少しある。
その時、携帯が鳴った。洋さんからだ。
「もしもし?」
「動きがあった。少し予想外の展開だ」
「え?」
「柳澤が来た。状況がかなり変わりそうだ」




