表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
PR
79/125

77日目

「冴えない顔をしとんね」


ニヤニヤと禿頭の男が笑う。銃を抜きたい衝動に耐えて、俺は言葉を絞り出した。


「……正気か」


「正気も正気っちゃ。この寛大な処置、よそではあり得んたい。まあ、うちの若いのも返してもらえるんやろ?その礼っちゃ。

それに同じ宮東会、今はいがみ合ってる場合じゃなか。そやな!?」


グイッと禿頭……黒原が身を乗り出してきた。俺はその目を睨み付ける。


「……叔父貴の件で疑ったのは、悪かった」


「ん?聞こえんねぇ。もっと大きな声で言ってみんかい」


「……悪かったと言っているだろうっ!!!」


うんうん、と頷いたかと思うと、黒原はおもむろにドスを抜いた。


「なら、誠意やな」


「エンコ(指)を飛ばせと?」


「そういうこっちゃ。悪くなかろうもん?」


ニヤリと黒原が笑う。……背中に、冷たい汗が流れた。


#


「……これは、何だ」


田袋から渡されたファックスを見て、俺は目を疑った。そこにあったのは、「2つの」犯行声明文。

1枚目は、川口の事務所に爆弾を送ったというもの。もう1枚は……那珂川の誘拐を告白するというものだった。

共に、差出人は「サマー」。言うまでもなく、その正体は戸倉辰夫だろう。


「分からんちゃです、俺には何も」


「貴様には聞いてなかっ!!」


田袋がビクッと硬直する。……なぜ今頃表舞台に出てきた?それも、「那珂川を殺ったのは俺たい」と嘘までついて。


「……同じものが、黒原のとこにも届いたとです。さっき、青葉本部長代理から同じような連絡が。それで、至急黒原が面談したいと」


「……分かった」


厄介なことになった。那珂川の誘拐と殺害は、黒原によるものに違いないと下には言っていた。誘拐は戸倉、殺害は俺と知っているのは田袋しかいない。

那珂川を守れなかったことは、俺の失態と言われるだろう。

俺の立場が危うくなるだけではない。黒原にどんな要求をされるか……少なくとも、それはろくなものではないはずだ。


「いいんすか?エンコ飛ばされるならいい方でしょ?」


「……だが、ケジメは付けないとな」


……考えろ。どう黒原を出し抜くか。


#


黒原の要求は厳しいものだった。癌で入院中の4代目に代わる、組長代理としての地位を認めること。俺の役職の剥奪。そして、那珂川派の吸収合併。

宮東会は、これで名実ともに黒原のものになるだろう。これでも、命を取らないだけ「寛大」ということらしい。


那珂川を殺すということは、ギリギリのパワーバランスの崩壊を意味する。

そのことを、俺はもっと真剣に考えるべきだったのだ。


だが、殺さなくても俺はいずれ沈められていただろう。狐と狸の化かし合いの間で右往左往する、愚かな猿が俺だったというわけだ。


とすれば、何をどうすればいい?


目の前に、抜き身のドスが光る。エンコを落としたとしても、俺が許されるわけではない。かといって、ここで黒原を殺しても先は見えている。



……やはり、これしかないか。



「……エンコ落とす前に、言いたいことがある」


「ほう、言ってみ?」


「お前と叔父貴、そして川口の関係だ」


ニヤついていた黒原から表情が消えた。


「一応言うが、俺は大体を知っている。お前が何をしたか、叔父貴が何をしたか。そして、川口が何をしたか。

決定的証拠となる動画は、俺の所にある。Youtubeにアップする準備も」


「……何やて!!?」


「川口とは深い付き合いなんだろう?恐らくは先代からの。

その利権で、お前はRPGを買った。海甲組とも繋がった。だが、これが流れればどうなるかな?」


ジャキイィッ


銃口が俺に向けられた。


「……脅しっちゃ?それは」


「そうだ。俺が殺されたら、若い衆に動画をアップするよう指示を出している。宮東会の生殺与奪の権利は、俺が握っている」


黒原は短気な男だ。これを怒りのままにぶっぱなす可能性は相当にある。

だが、俺が宮東会を本来の形に戻すなら、これしかない。



1分ほど、俺と黒原は身動ぎせず向かい合っていた。

先に動いたのは、黒原だ。



「……そっちの要求は」


「戸倉辰夫の捕縛、殺害での全面協力。そして、お前の言う『寛大な』処置の取り下げ」


「ぶっ殺すたい」


「どこかのチンピラか?」



パァン



テーブルの一部が砕けた。


「次は当てちゃる」


「繰り返すが、お前と川口の命運は俺次第だ。ただ、一つ譲歩してやる。俺がお前を追い落とすことはない。敵対関係の解消と、組長代理の就任は認めてやる」


「……お前に得があるんか」


ある。戸倉はもう少し生かしておく。実の所、あのぼんやりした動画は決定的な証拠には足りない。黒原は騙せるが、川口は騙せないだろう。

もう少しすれば、戸倉はさらに動くだろう。それを待つのだ。そして……その時に黒原を殺す。


欲しいのは、その仕込みのための時間だ。黒原を油断させるのだ。


俺はククッと笑った。


「ある。まあ、そのうち分かるだろう」


しばらくすると、黒原は銃口を下に向けた。


「……分かった。それでいいなら、取引に乗っちゃる」


これで、当面の敵は戸倉辰夫だけだ。……あいつには、訊きたいことと言いたいことが、腐るほどある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ