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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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64日目

「何だ、改まって話って」


ストロングゼロを片手にモニターを見ていた深沢支局長の手が止まった。


「少し、ご相談が」


「めんどいことは勘弁してくれ。長くなりそうなのか?」


「ええ、かなり」


しばらく深沢支局長が、じっと私の目を見た。数秒ほどして、「やれやれ」と苦笑する。


「しかたねえな、ちょっとそこのソファーで話そうや」


どかっと支局長が腰を下ろす。私はノート端末を彼に見せた。


「情報提供者からです。身元は明かせません。極めて刺激の強いものですので、不快でしたらすぐに止めます」


「……動画?」


「ええ」


昨日、勇人から送られた動画のアイコンをタップする。最初の30秒を見た所で、「止めろ」と支局長が告げた。その目は、今まで見たことがないほど鋭い。


「……こんなもん、どうやって手に入れた」


「繰り返しますが、身元は明かせません。しかし、信用のおける相手です」


「特大の核地雷だぞこいつは。現役大臣が宮東会、それも最高幹部の2人と一緒に映ってるとか洒落にもならねえ」


そこにいたのは川口財務大臣だ。そして、一緒にいるのは宮東会若頭の那珂川と、本部長の黒原。対立しているはずの2人が、一緒にいる。

これだけでも信じ難いのに、彼らは川口大臣に女を斡旋していた。これはスキャンダルという言葉では足りない。間違いなく、これだけでも政権を揺るがすスクープと言える。


「それだけじゃないです。この後がさらに問題です」


黒原が銃を撃ったところで、「もういい」と支局長が呟いた。


「……殺人じゃねえかよ」


「ええ。恐らくは」


「警察には持ってったのか」


「いえ、まだ」


支局長が腕を組んで考え始めた。


「どうされたんですか」


「警察の中には、宮東会とつるんでいるのがいる。マル暴は特にだ。

そして、福岡における川口の影響力たるや凄まじい。クリーンなイメージで売っているが、裏ではえぐいことをかなりやっている。

仮に持ち込んでも、『ディープフェイク』として証拠扱いされない可能性がある」


「……そうなれば」


「まあ、俺らは終わりだ。殺されるか、良くて適当なスキャンダルをでっちあげられて放逐が落ちだな」


「つまり……」


「裏を取らねえとダメだ。できれば、宮東会と川口の金の流れ、人の流れを押さえねえと話にならん。

というか、俺もこっちに来てずっとこれを追っていた。地道に人脈も作って、な」


私は目を見開いた。


「そうだったんですか!?」


「ただの飲んだくれだと思ってたろ?んなわけねえだろうが。川口の首を何とか取れねえかと探ってたんだよ。

その過程で宮東会3代目で今は隠居してる宮東公泰とも飲み友になった。『XYZ』はその伝手で知った店だ」


そういうことだったのか。驚いている私に支局長は苦笑する。


「とはいっても、決定的なところまでは掴めてなかった。お前が宮東会を突っついてるのは知ってたが、あまり手出しするなと言ってたのは俺の邪魔をされたくなかったからだ。

だが、お前は俺の想像よりずっと深くまで食い込んでいたというわけだ。正直、驚いたぜ。どうやった?」


私は目をつぶった。……そろそろ、本当のことを明かす時が来たのかもしれない。


「繰り返しますが、長い話になります。いいですか」


「いいぜ、話しな」


#


「……滅茶苦茶な話だな」


呆れたように支局長は呟き、とうに空になっていたストロングゼロの缶をあおった。話し始めてから、3時間が経とうとしていた。


「しかし、事実です。……どう思われます」


「どうってなあ……とりあえず、上司としては『本社に上げろ』と言うべきなんだろうが」


「ですが、川口大臣は……」


「次期総理候補本命だろ?政治部の奴らは丸め込まれてるし、社会部もこんなやべえネタは手を出したがらない。

何せ、川口がネクロフィリア(死体愛好者)のド変態で、しかもその片棒を宮東会に背負わせてたってことだからな」


「那珂川と黒原の対立は、じゃあ嘘なんですか」


「いや、それはガチだ。多分さっきの動画は、それなりに前のだな。黒原がコートを着ていたから、あれは冬に撮影されたやつだ。

あるいは、川口からの利権をどっちが取るかで揉めてるのかもしれねえな。その場だけ仲良さそうに取り繕うのはありそうな話だ」


支局長が缶を置き、マルボロに火を付けた。


「実は、こんな写真も」


私はそっと柳澤からもらった写真を差し出した。


「……川口と黒原か」


「ええ。これは宮東会の那珂川派からもらったものです。ただ、情報提供者曰くこれはフェイクだと」


深沢支局長が日光に写真を透かし、「あー、なるほど」と呟く。


「切り取られてんな。多分、ここに那珂川がいたんだろ」


「……つまり、那珂川派は川口と黒原を切りたがってると?」


「かもな。ただ、さっきも言った通りこれだけで記事にするには無理筋だ。ましてフェイクだからなあ」


柳澤はこれがフェイクだと知っていたのだろうか?ただ、一つ言えるのは……


「とにかく、裏取りですね」


「そういうことだ。警察で信用できるのは」


喜村刑事から、清原刑事の退院が近いのは聞いてた。しかし、彼を再び危険にさらすことにはならないだろうか?


……そもそも、なぜ清原刑事は柏木を訪ねようとしただけで命を狙われたのだろう。そして、なぜ黒原派は彼を監禁していたのか。

辰夫を見付けるため?それは多分その通りだ。しかし、何かが引っかかる。



ティロン



その時、私のスマホが鳴った。……辰夫からだ。


「何だこりゃ。……田川市××××……住所だな。これを送ったのは?」


「一連の騒動の中心にいる、私の従兄弟です。……日曜に、ここに来いと?」


そこに辰夫がいるのだろうか。……だとしたら、訊きたいことは腐るほどある。



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