63日目
「勇人、ご飯ここに置くっちゃ」
「うん……ごめん」
部屋の外でカタリ、と音がした。今日は特に気だるさが強い。学校に行こうと思ったけど、身体がそれを許さなかった。
……いや、身体だけじゃない。心もだ。
目をつぶると、昨日の動画の光景が頭をよぎる。
最初の5分しか見てないけど、あれは……この世の地獄だ。
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「あ、再生できた」
wmv、mp4と拡張子を変換ソフトで試す。3回目、aviでそれっぽい感じになった。
昔、Youtubeにバレーの動画をアップしようとしたことがある。その関係で、少しはパソコンのことは知っていた。
動画は、ある部屋を上から映していた。何かのお店のようだ。赤めの照明のせいか、全体的に赤っぽい色合いだ。
「何やろ、これ」
部屋の片隅にはベッドがある。壁にはベルトのようなものが幾つかあった。……何だろう、これ。
そう思っていると、男の人3人が入ってきた。皆結構年が行っている。一人はスキンヘッド、もう一人はオールバック。見るからに堅気じゃない。
そして、もう一人は背広姿だ。……この人、どこかで見たことがある。
すぐに女の人が3人入ってきた。皆、ヤクザっぽい男たちが後ろについている。酷く怯えた表情だ。
「……………!!」
スキンヘッドの男が満足そうに何か言う。音声は録音されていないようだ。
どこかで見たことがある人は、どかっとソファーに座り、背広とネクタイを脱ぎ捨てた。そして、女の人たちと一緒に来た男たちが、一人の女性を床に押さえ付ける。
……何か、凄く嫌な予感がした。今から思えば、ここで動画を止めるべきだったのだ。
女の人がバタバタと何かを叫びながら喚きちらす。オールバックの男が、しゃがんで何言かを呼び掛けると、彼女のもがきがさらに強くなった。
背広の男が何かを言う。そして……オールバックの男が注射器を取り出し、乱暴に女の人の腕に突き刺した。
「…………………!!!!!」
叫びは一瞬だった。すぐにぐったりして、女の人は動かなくなった。
別の女の人が、叫びながら逃げ出そうとする。それを男たちは殴って止めた。
そして、スキンヘッドの男は拳銃を取り出し……彼女に向けて撃った。
そこから先は、おぞましくてよく覚えてない。注射で動かなくなった女の人の服を、背広の男が乱暴に剥ぎ取ったこと。
撃たれた女の人は、それきり動かなくなっていたこと。残された女の人は抵抗する気力を失い、男たちに弄ばれ始めたこと。
……耐えきれなくなった僕は、そこで動画を止めた。
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……あれは、一体何だったのだろう。そして、兄ちゃんはなぜあんなものを僕に預けたのだろう。
一つ言えそうなのは、あの2人は……多分、もう生きてはいないだろう、ということだ。
人が死ぬところなんて、見たくもない。ハッキリと、悪趣味な動画だった。
ただ、兄ちゃんがファイルを簡単に見れないようにした理由は分かった。多分、僕や母さんの目に触れさせたくなかったのだ。
……だとしたら、なぜあのタイミングで僕らにファイルのパスワードを教えたのだろう?
そして……多分、僕がファイルを開けたのは、兄ちゃんにとって想定外だったはずだ。それに対する兄ちゃんの反応は、ない。
僕が何をしたか、兄ちゃんは多分知っているにも関わらず、だ。
「ケホケホッ」
軽い咳が出た。具合はやっぱりよくはない。
ぼんやりとした頭で考えた。あれは、兄ちゃんからしたら何かしらの「武器」だ。だから、あれには何かしらの意味がある。
だとしたら、それはなんだ?あの店にいたのは、間違いなくヤクザだ。宮東会関連の話であるのは、間違いない。
じゃあ、あの背広の男は??そもそも、何で見覚えが……
「あ」
……思い出した。そう、あの人は確か……
それに気付いた時、悪寒が身体を走り抜けた。
……これは、とんでもないものを持たされてしまった。
僕は急いで洋さんに電話をかけた。……これは、明らかに僕の手に余る。




