60日目
「よお、美里」
久々に会った勇人は、気持ち痩せて見えた。肌の色も悪い。まるでおじいちゃんみたいな肌だ。
「勇人、本当に大丈夫っちゃ?」
「……平気。一応、学校にも通えとるし。今日から送り迎えなしで通学できるようになったと」
ハハハと笑う彼の表情は、やっぱりどこか弱々しい。胸の奥で、嫌な記憶が頭をもたげていた。
「無理してなか?」
「うん……多分。抗がん剤は効果あるみたいやし、このまま頑張ればって先生が」
「そうなんか……」
バイトのシフトは、少し変えてもらっていた。この前のこともあったので、怖くなったのだ。
こうやって放課後に勇人に会うのも久し振りだ。色々訊きたいことはあるんだけど、上手く口から出てこない。
「少し、ゆっくり話さん?あまり、人がおらんとこの方がいい」
一瞬邪なことを考えた自分を恥じた。そんなことができる体調なわけがない。
……本当は、勇人に甘えたいんだと思う。触れ合って、胸の中で思い切り泣きたい。不安なことが多すぎる。
そんな私を察してか、勇人はポンポンと頭を軽く叩いた。
「……大丈夫たい。この前行った、埠頭でよかね」
「大丈夫」。まるで自分に言い聞かせてるみたいだなと、私は思った。
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「……で、どうなん?本当のところ」
「本当のところって、何が」
「身体と、お兄さんのこと」
勇人がビットに腰をかけた。日が長くなったからか、6時過ぎでもまだ明るい。夕焼けが彼を照らしていた。
「……身体は、よう分からん。よくはなってるみたいやけど、気分はあんまよくなか。学校にも、ちょっと無理して通ってる。
息も、ちょっと苦しい。そこまで不便じゃなかけん、気のせいだと思うけど」
「……副作用?」
「って聞いてる。オプジーボって、結構副作用重いらしいん。頭が禿げたりはせんけど、無理矢理身体の免疫上げとるから。
でも、これは俺が頑張らなきゃあかん話たい。美里は気にせんでええよ」
「……うん」
勇人は微笑んでるけど、きっと相当無理してるなってのは分かった。私の前だから、余計に。
「話したいのは、こっちっちゃ。……兄ちゃんが、色々動いとる。知ってるとは思うけど」
「今、どうなってるの?」
「俺も詳しくは分からん。でも……宮東会と戦うつもりみたい。
兄ちゃんは『心配するな』言うとるけど、絶対に……危ない橋を渡ってるっちゃ」
「……勇人は、どうしたいん」
彼が視線を落とした。日がゆっくりと沈んでいく。
「救いたいけど……俺には力がないっちゃ。従兄弟の新聞記者の、洋さんにずっと頼りっきり。
何かしてあげたいと思うとるけど……何もできん。それが、歯がゆいっちゃ」
「……どうやれば、お兄さんの助けになるのかな」
「分からん。でも、兄ちゃんは多分死ぬつもりやと思う。
どういう方法かは分からん。でも、命と引き換えに宮東会をぶっ壊すつもりなんやろな、って」
勇人は下を向いたまま黙ってしまった。私はそっと彼を抱く。
「……ごめん。私はこうすることくらいしかできん」
「……いいっちゃ。……それだけでも、十分」
どれぐらいそうしていただろうか。日はすっかり沈み、工業地帯の灯りが水面を照らしている。
……私の頭に、ある考えが浮かんだ。
「……ねえ、今思ったんだけど」
「え」
「この前、バイト先にお兄さんっぽい人が来たって言ったっちゃ?」
「うん」
「多分、店のカメラに残ってる。今の顔が分かれば、対応できるかも」
勇人が顔を上げ、訝しそうに首をひねった。
「カメラって、防犯カメラ?」
「そう」
「誰に見せるん?そんなの、誰にでも見せていいものじゃ……あ」
私は頷いた。
「高校生じゃ無理やけど、警察なら?そして、警察に色々話できる人といえば……」
勇人が目を見開いた。
「洋さんか!!!」




