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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
62/125

60日目

「よお、美里」


久々に会った勇人は、気持ち痩せて見えた。肌の色も悪い。まるでおじいちゃんみたいな肌だ。


「勇人、本当に大丈夫っちゃ?」


「……平気。一応、学校にも通えとるし。今日から送り迎えなしで通学できるようになったと」


ハハハと笑う彼の表情は、やっぱりどこか弱々しい。胸の奥で、嫌な記憶が頭をもたげていた。


「無理してなか?」


「うん……多分。抗がん剤は効果あるみたいやし、このまま頑張ればって先生が」


「そうなんか……」


バイトのシフトは、少し変えてもらっていた。この前のこともあったので、怖くなったのだ。

こうやって放課後に勇人に会うのも久し振りだ。色々訊きたいことはあるんだけど、上手く口から出てこない。


「少し、ゆっくり話さん?あまり、人がおらんとこの方がいい」


一瞬邪なことを考えた自分を恥じた。そんなことができる体調なわけがない。

……本当は、勇人に甘えたいんだと思う。触れ合って、胸の中で思い切り泣きたい。不安なことが多すぎる。


そんな私を察してか、勇人はポンポンと頭を軽く叩いた。


「……大丈夫たい。この前行った、埠頭でよかね」


「大丈夫」。まるで自分に言い聞かせてるみたいだなと、私は思った。


#


「……で、どうなん?本当のところ」


「本当のところって、何が」


「身体と、お兄さんのこと」


勇人がビットに腰をかけた。日が長くなったからか、6時過ぎでもまだ明るい。夕焼けが彼を照らしていた。


「……身体は、よう分からん。よくはなってるみたいやけど、気分はあんまよくなか。学校にも、ちょっと無理して通ってる。

息も、ちょっと苦しい。そこまで不便じゃなかけん、気のせいだと思うけど」


「……副作用?」


「って聞いてる。オプジーボって、結構副作用重いらしいん。頭が禿げたりはせんけど、無理矢理身体の免疫上げとるから。

でも、これは俺が頑張らなきゃあかん話たい。美里は気にせんでええよ」


「……うん」


勇人は微笑んでるけど、きっと相当無理してるなってのは分かった。私の前だから、余計に。


「話したいのは、こっちっちゃ。……兄ちゃんが、色々動いとる。知ってるとは思うけど」


「今、どうなってるの?」


「俺も詳しくは分からん。でも……宮東会と戦うつもりみたい。

兄ちゃんは『心配するな』言うとるけど、絶対に……危ない橋を渡ってるっちゃ」


「……勇人は、どうしたいん」


彼が視線を落とした。日がゆっくりと沈んでいく。


「救いたいけど……俺には力がないっちゃ。従兄弟の新聞記者の、洋さんにずっと頼りっきり。

何かしてあげたいと思うとるけど……何もできん。それが、歯がゆいっちゃ」


「……どうやれば、お兄さんの助けになるのかな」


「分からん。でも、兄ちゃんは多分死ぬつもりやと思う。

どういう方法かは分からん。でも、命と引き換えに宮東会をぶっ壊すつもりなんやろな、って」


勇人は下を向いたまま黙ってしまった。私はそっと彼を抱く。


「……ごめん。私はこうすることくらいしかできん」


「……いいっちゃ。……それだけでも、十分」


どれぐらいそうしていただろうか。日はすっかり沈み、工業地帯の灯りが水面を照らしている。


……私の頭に、ある考えが浮かんだ。


「……ねえ、今思ったんだけど」


「え」


「この前、バイト先にお兄さんっぽい人が来たって言ったっちゃ?」


「うん」


「多分、店のカメラに残ってる。今の顔が分かれば、対応できるかも」


勇人が顔を上げ、訝しそうに首をひねった。


「カメラって、防犯カメラ?」


「そう」


「誰に見せるん?そんなの、誰にでも見せていいものじゃ……あ」


私は頷いた。


「高校生じゃ無理やけど、警察なら?そして、警察に色々話できる人といえば……」


勇人が目を見開いた。


「洋さんか!!!」

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