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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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56日目

「どうもありがとうございました」


笹川教授に一礼し、僕は父さんと診察室を出る。身体は凄まじく重たい。この分だと、明日は学校を休まなきゃいけないだろうな。


「大丈夫か」


「うん。……とりあえず、寝るっちゃ」


僕は助手席ではなく、後部座席のドアを開けた。そこに体を横たえるためだ。

検査結果は、ひとまず順調とのことだった。全部で5クール、つまりあと3回オプジーボを投与すればひとまずの治療は終わり、らしい。


重い副作用が何も起きなければ、の話だけど。


車はゆっくりと動き出した。目を閉じているけど、とてもだるいのに寝付けない。それがたまらなく苦痛だ。


「勇人、気分は悪くないか」


「うん、平気……」


車内が暑くなってきた。エアコンが利いているはずなのに、これは……しんどい。


朦朧とした頭で、昨日夜に洋さんから送られてきたメッセージを反芻していた。


一昨日の爆発事故は、兄ちゃんがやったものらしかった。あの近くに、柏木さんという人が囚われていたという。

そして、あの爆発で外に出た柏木さんを柳澤が連れ去った……そういうことらしい。


柏木さんは、兄ちゃんの友達か師匠に当たる人のようだ。兄ちゃんがどこにいるかを突き止められる人でもあるという。

あるいは、既に知っているのかもしれない。とすれば、彼に会えれば……兄ちゃんに再会できるかもしれない。


ただ、洋さんの言うことが正しいなら、柏木さんは依然柳澤の監視下だ。当然、柳澤は兄ちゃんの居場所を知ろうとするだろう。

「すぐに兄ちゃんは殺されることはない」と洋さんは言っていたけど、それでも放っておけば兄ちゃんの命はない。だから僕らが先に兄ちゃんがどこにいるかを探り当てる必要がある。


……ただ、どうやればそれができるのか。それはさっぱり分からない。

オプジーボの副作用でぼーっとした頭の思考能力なんて、やっぱりたかが知れているのかもしれないけど。



「勇人、まだ起きとるか」



突然、父さんが口を開いた。


「うん、何」


「父さん、明後日に一度クアラルンプールに戻ることになった。転属願いは受理されそうだが、まだ半年は向こうみたいだ」


「……そうね」


「すまない。来月の巴の結婚式には出れるようにするけど」


「……ええっちゃ。俺は、大丈夫だから」


父さんが、ふと黙った。


「……辰夫のことだが」


「……!」


僕は運転席の父さんの顔を見るために身体を起こそうとした。でも、身体がだるくてそこまでできない。

諦めて、もう一度身体を後部座席に投げ出す。


「兄ちゃんが、何ね」


「あいつ、今どこにいるんだ」


「知らん」


「……本当か」


父さんの声が、少しだけ低くなった。父さんは、何かを感付いている。


「……本当っちゃ」


「そうか。せめて、巴の結婚式ぐらいは出てほしいと思ったんだがな。

あいつ、今どこで何をしているんだろうな」


「さあ……」


「車いじりでもしてるんちゃう?」と嘘をつこうとしたけど、言葉が引っかかって出てこない。


「後輩の指原君。彼は、辰夫の恋人の弟だろう」


「……そうなん」


「知っているんだろう?」


「……何をね」


父さんがふう、と息をついた。


「親だから、子供の嘘くらいは分かる。母さんには伝えたくない何かがあるんだるう?

そのことについては母さんに黙っているから、話すといい。抱えていると、ろくなことにはならないぞ」


……やはり、父さんには隠し通せなかったか。


本当は今、全部を洗いざらい話したい。でも、そんな気力はありそうもなかった。


「……分かった。明後日、洋さんと俺とで話す。母さんには、黙っといて」


「そうか。……洋君も絡んでいるのか?」


「うん。……色々、助けにはなってもらっとるん。でも、絶対に驚かないで。俺らも、まだ分かっていないことは多いん」


スマホからは何の反応もない。兄ちゃんはこの会話を聞いているはずだけど。


「……俺から言えることは少ないが……くれぐれも、無茶はするなよ」


父さんはそう言うと、無言でアクセルを踏んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめから最新話まで、一気に読ませていただきました。ここではかなり異色の作風ですが、これほどのめり込めた作品は初めてです。辰夫が喫茶店の植木鉢にUSBを隠したり、IDのメモをわざと落として…
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