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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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52日目

「極黒ハンバーグとライスのセットです、ごゆっくりどうぞ」


私がお皿を置くと、その2人組のお客は小さく頷いた。


夜のファミレスは長く滞在するお客が多い。ドリンクバーは廃止されたけど、それでもコーヒーとケーキだけで閉店まで数時間粘る人も少なくない。

このお客も、もうシフトに入ってから2時間ぐらいいる。見た目は普通のサラリーマンみたいだけど、会話もせずに黙々とスマホを弄り続けていた。


彼らの正体は分かっている。宮東会の、柳澤という人の部下だろう。


あれ以来、私には日替わりで「ボディーガード」がついていた。

昨日勇人から入ったメッセージによれば、「美里がさらわれてしまうのを防ぐというのもあるけど、兄ちゃんが美里に近付いてくるのを狙っている面もあるかもしれない」という。


辰夫さんは、何かしらの手段で私たちの行動を見守っているらしい。少なくとも、勇人についてはスマホに何かしらの細工をしたみたいだ。

ただ、私についてはそうではない。直接見ているのかもしれないのだという。「それにしてもリスキーやし、そこまでする理由は分からん」と勇人は言ってたけど。


とにかく、こんな日が既に10日以上続いていた。彼らが何をしてくるわけではない。

ただ、やはり不快だし、落ち着かない。早くこんなの終わらないかな。


私はふうと溜め息を付いて、窓際の席に座る客を見た。


こちらもこちらで、ちょっと変わったお客だった。ダサいチェックのシャツにバンダナ。そして眼鏡と典型的なオタクっぽい人だ。

テーブルには漫画……にしては随分薄い本が何冊か積まれている。


もちろん、そういう人がいていいとは思う。稀にだけど、このファミレスにもそれっぽい人が来ることもある。



ただ、奇妙だったのは……毎回来るたびに印象が違うのだ。



今日はオタクっぽいファッション。別の日はアロハシャツ。またある時は高級スーツ。

よくよく見ないと、それが同一人物だとはまず思わない。しかし、注文を取りに近くに来る私には分かる。あれは同じ人物だ。


化粧や服装で、人の印象はまるで変わる。でも、そう大きく変えられないところがある。……手だ。

手の甲の黒子の配置や肌の質感。それで同じ人物かは判断できる。

人の顔を覚えるのが苦手だった私に、店長が教えてくれたテクニックだった。



とすると、あれは……勇人のお兄さん??



その考えに思いが至った時、私は勇人のメッセージを思い出した。「気付いても接触するな」と。


私は2人組を見る。オタク風のお客に注意を払っている様子はない。



ピンポーン



呼び出しのチャイムが鳴った。番号を確認すると、あのオタク風の客だった。


「ご注文は?」


「抹茶のミニサンデー」


本の表紙には随分と露出の多い……というよりほぼ裸の女の人のイラストが載っていた。他の人も見るかもしれないのに、よく堂々とこんなの読めるわね。

辰夫さんの性格は知らないけど、さすがにこんなデリカシーや常識のない人が勇人のお兄さんであるはずがない。きっと気のせいだろう。


#


そうして1時間が経ったころ、そのお客はそっと去って行った。

サラリーマン風の男たちがちらりと彼を見たけど、それ以上追うそぶりはない。やっぱり、違うのかな。


オタクのお客のテーブルを乾拭きする。……テーブルの下に、何かが落ちていた。


「これって……」


何かの薄い本だ。同人誌、というのかな。表紙からしてエッチなのとすぐ分かった。こんな落とし物、保管しておくのも困る。

私は息を吐き、表紙だけでも周りに分からないようそっと胸で隠した。


「どしたのそれ」


ホール担当の先輩でチーフの優華さんが訊いてきた。地元の大学生で、ちょっとヤンキーっぽいけど頼れる人だ。


「あ、さっきのお客様の忘れ物みたいで。……ちょっとこれ、どうしましょう」


フロアの隅に行き、そっと表紙を見せると「うわぁ」と渋い顔をされた。


「いやいやいや、無理っちゃこれ。何でこんなのファミレスに落とすわけ?」


パラパラと中身を読むと、やっぱりいわゆる18禁のシーンばかりだった。相当マニアックなプレイもある。


「こんなの家で読めや。ありえんわ。……何か挟まっとるね」


「レシートですか」


「いや、ちゃうね。……封筒?」



ドクン。



妙な胸騒ぎがした。無地の封筒の中身をそっと見る。そこには、1枚の紙があった。


「何なに……これ、LINEのIDじゃない?」


「え」


確かにLINEのIDだ。まさか、私に気があるとかそういうんじゃないよね。

優華さんは「うげえ」と吐く真似をする。


「やっぱオタクあかんわ。何をどうしたら18禁のエロ同人の間にLINEのIDを挟むとか考えるんかね?きしょくてたまらんわぁ」


「そ、そうですね……」


全くだ。ただ……何か変だ。回りくどすぎる。こんなの、直接そっと渡せばいいだけだ。


IDは比較的覚えやすい。私はそれを一応暗記しておいて、封筒の中身ごとゴミ箱へと捨てた。


#


家に帰り、スマホを弄る。あのID、やはり気になる。とりあえず、勇人にメッセージを送ることにした。


「今日ファミレスで、こんな客がおったん」


一通り経緯を説明すると、勇人も「あり得んなぁ」と気持ち悪がっていた。ただ、IDのことを持ち出すと急に態度が変わった。


「それ、一応送ってくれへん?」


「いいけど。DRAGON0909ってID」


しばらく間があって、電話が鳴った。


「どしたん?」


「それ、兄ちゃんや」


「え」


まさかという思いと、やっぱりという感情が入り混じる。


「でも、どうしてこんなこと」


「分からん。でも、ただのオタクのキモイアプローチと偽装したかったんかも。

で、IDだけ送ったということは……連絡を取りたがってるということたい。ちょっと連絡してみて」


「うん……分かった」


すぐにIDを打ち込む。「戸倉辰夫さんですか」とのメッセージも送った。すると、これだけ返ってきた。



「状況が確定したらこちらから連絡します。ひとまず、直接の連絡手段だけ確保できたので返信は不要です」



一体どういうことなのだろう??

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