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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
55/125

53日目

「……解せないな」


「何がですか?」


芙美がハムエッグの皿を置いた。いつの間にか彼女は我が家に居着いてしまったが、こうして暖かい朝食が取れるのはホッとする。

特に、こういう不安定な状況の下では。


「昨日夜に、勇人から連絡があった件。なぜ辰夫は、LINEのIDだけを彼の彼女に告げたのだろう。しかも、直接会うという危険を犯して」


「……確かに妙ですよね。勇人君から教えてもらうだけでいいのに」


「それに、彼は彼女の母親のメアドすらどこからか入手していた。LINEのIDぐらい手に入れるのは簡単なはずだ。……何か変だな」


芙美がバターロールをかじり、うーんと唸る。


「美里ちゃんに会いたかった?弟の彼女がどんな子か、一目見たかったとか」


「そんな理由じゃないんじゃないか。そもそも、オタクの扮装をして、毎日格好も変えて見ているとか……」


どうにも変だ。まるで、美里という子を監視しているみたいな……

それに、なぜ連絡先を教えた?彼女からメッセージを送る保証もないのに。


「……論点、整理しません?」


「そうだな。まず、私たちの置かれている現状だ。勇人は闘病中でほとんど家からは出ない。登下校は瑠璃叔母さんの送迎付きだ。

私たちは基本仕事だが、出社と退社ではなるべく単独で動かないようにしている。柳澤の部下が見張ってもいる」


「ですね。そして、美里ちゃんと勇人君の後輩も多分同じです」


「黒原からの攻撃は、美里さんへの誘拐未遂のみ。その後その実行犯は逃走して、警察も行方を掴めてない。

柳澤はこちらを監視してもいる。辰夫からの接触があったら、すぐに対応できるように」


「……彼ら、信用していいんですか?」


私は少し悩んだ。しかし……


「……多分。柳澤が大島で言った言葉からして、辰夫を見付けてもすぐには殺さない。

柳澤は、自分と辰夫を重ねている。辰夫が勇人に何かしらしてやり、回復のメドが立つか……あるいは死ぬまでは動かないはずだ。

同じ兄として、どこかシンパシーを感じているように思うんだが」


「……でも、それって柳澤の部下が知ってますかね」


「どうだろうな。柳澤は宮東会の幹部候補だが、あくまで幹部候補だ。そこまでの権力があるかどうか……。

それに、ちんたらしていると柳澤の上司で若頭の那珂川から圧力がかかるかもしれない。柳澤も、実は結構難しい立場……」



……これか??



「どうしたんですか谷川さん」


「……辰夫の意図が分かったかもしれない。辰夫は、やっぱり美里さんを監視していた」


「どうしてですか?」


「柳澤の部下が暴走する可能性に備えてだ。柳澤が辰夫の件で後手を踏んだと那珂川が判断すれば、黒原より先に美里さんや指原君を確保しようとするだろう。

もちろん、黒原と違い殺したり傷付けたりはしないだろうが。ただ、それを材料に辰夫に圧力をかける可能性はある。

それを懸念していたからこそ、辰夫は美里さんを見ていた。LINEのIDを教えたのは、そのタイミングを辰夫から教えるため」


「……でも、直接渡すのは危なくないですか?」


「それもそう、か……」


まだ何かが引っ掛かる。そして、この推察が正しいなら……柳澤が切られる可能性がある。



ティロン



その時、スマホが鳴った。……辰夫から??



「今日の夜、柳澤と話させて下さい。交渉をします」



#


「……戸倉の話、マジだろうな」


「XYZ」で久々に会った柳澤には、僅かに疲労の色が見えた。私は小さく首を縦に振り、朝来たLINEを見せる。


「ご覧の通りです。恐らく、彼は私のスマホからこちらの行動を『見て』います」


「俺の立場も見透かされている、とでも?」


「……多分」



ヴー、ヴー



まるで会話を聞いていたかのように、スマホが鳴る。柳澤が素早く「受話」をタップした。


「柳澤だ」


「戸倉です。初めまして」


「……三下が何の用だ」


怒気を孕んだ声で、柳澤が言う。何かが弄られているのか、会話はスピーカーでこちらにも聞こえていた。


「取引です」


「舐めてんじゃねえぞてめぇ……!!」


「いえ、取引といってもこちら側にメリットはあまりなかです。こちらができることから言いますけん」


「……言ってみろや」


「まず、俺が盗んだ仮想通貨50億円分。組にお返ししますけん。口座番号とウォレットは、明日しっかり教えます」


「……それだけか」


「黒原と海甲組の裏取引の記録。RPGの発注記録もあります」


柳澤の顔が真っ赤になった。


「……野郎っっっ!!!」


海甲組は関西の一門で、日本最大の暴力団だ。独立独歩でやってきた武闘派の宮東会にとって、それは……不倶戴天の敵でもある。


「悪くなかでしょ?」


「……要求は。命乞い以外なら聞いてやる」


「まず、柏木悠人を救出して欲しいです。居場所は把握してるとです。黒原の部下に軟禁されてますけん」


「冗談にも程がある。黒原と全面戦争しろと?」


「だから、いぶり出して彼らがいなくなった隙に、でよかです。勿論疑われるでしょうけど、知らぬ存ぜぬで。詳しくは明日にでも」


「柏木はどうする」


「できれば、解放を。監視付きでも構いませんけん」


柳澤がマルボロを大きく吸った。


「まず、と言ったな。他の要求は」


「俺を殺すのは、6月末まで待ってくれんとですか」


「何故だ」


「理由は2つ。勇人がどうなるか、大体その辺りまでには分かりますけん。ちょうどオプジーボも第5クールで、効き目があるならとりあえず一服できる局面ですから。

その頃までによくなっていれば……多分助かります。そこまでは見届けさせて下さい……お願いです」


淡々としていた辰夫の声色が、はじめて揺れた。柳澤が渋い顔になる。


「……もう一つは」


「黒原派を抗争なく潰すまでにかかる時間が、その辺りだからです。抗争はあなたも那珂川さんも望むところではない。違いますか」


「どうやって潰す」


「それはおいおい。ただ、この要求を飲まないなら……50億円も宮東会も終わりっちゃ」


柳澤が鬼のような形相になった。


「……お前を、裏切り者を信用しろと?」


「それ以外に手があるとですか?」


拳を固く握った柳澤が震えている。私は本能的に、一歩引いた。



黙ること、30秒ほど。



「……分かった」



柳澤が声を絞り出した。

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