4日目
「何か冴えねえ顔してんな、勇人」
隣の席からニヤニヤした顔で茶髪の少年が言う。僕ははあと溜め息をついた。
「話すと長くなるから、後にしてくれん?」
「美里ちゃんと喧嘩か?あの子、束縛強そうやもんな」
「そんなんちゃうわ。翔琉こそ、彼女と上手くいっとんのか」
「……それ言うか。『受験なんで後で』言われたわ」
むすっとした顔で翔琉が言う。確か、彼の彼女は小倉の進学校やったっけ。
「まあ、俺らも4月から受験生やもんな。翔琉は決めたか?」
「いや、まだや。てか大学にするか専門にするか、就職にするかも決めとらん。勇人は?」
「……俺も分からん。この街を出たいとは思っとるけど、学力がなあ」
「……まあ、出たいよな。福岡の方が楽しいしな」
翔琉は小学校の時からの幼馴染みだ。元は大阪に住んでたらしく、あまりこの街が好きではないみたいだ。
兄ちゃんの影響で街が嫌いになった僕とは違うけど、そういうのもあって不思議と仲は良かった。
「で、気分が冴えない理由はなんなん?」
「話せば長いって言っとろうもん」
「せやかて、簡単には言えるやろ。で、なんなん?」
僕はプイッと窓を向いた。
「……姉ちゃん、結婚するらしいん」
「ふあっ?姉ちゃんって、巴さんか?……また急やな」
「……子供できたらしいん。2ヶ月やて。6月6日に結婚式やるつもりやって、昨日言われた」
昨日はあれからギクシャクしたまま終わった。母さんは喜んでいいのか怒っていいのか分からず、僕もどう反応したらいいか思案してるうちに時間が来てしまったのだった。
高杉さんは大手のH食品の人で、給与的には問題ないらしい。それでも、いきなり言われたこっちとしても戸惑うばかりだ。
翔琉はポカンと口を開けたままだ。
「……また随分急やな。大丈夫なん、それ」
「分からん。とりあえず、来月末に父さんが帰ってくるからその時家族会議」
「まあ、そうやろな。にしても、久々に驚いたわ」
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。2年生も、今日を入れて残り2日だ。
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部活が終わると、LINEのメッセージが2つ入っていた。一つは美里で、「タピってるよー」という文とゆるキャラのスタンプがあった。後で返信しとこう。
もう一つは……えっ??
「明日、O尾駅の近くのサ店で会えんか。無理にとは言わん。19時頃に待ってる」
辰夫兄ちゃんだ。