3日目
「あんた、今日元気なかとね」
大根の味噌汁を啜りながら、母さんが言う。
「い、いや。何でもなか」
「……ならいいけど。巴のことで気に病んでる?」
「……違う。もうええやろ」
僕は納豆ご飯をかきこんだ。
藤木先輩に殴られたことが、僕の気分を落ち込ませていた。彼のいる世界は、あまりに危ない。近寄りたくもない。
でも、辰夫兄ちゃんのせいで、どうしても絡まれる。距離を置こうとしても、この街にいる限りは逃げられない。
……早く、高校を卒業して、ここを出たい。
問題は、それができる学力が僕にないことだ。
福岡にいる洋さんとは、次の週末に会うことになっていた。忙しいだろうけど、家庭教師とか紹介してくれないかな。
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「勇人、元気してた?」
2ヶ月ぶりに見る巴姉ちゃんは、驚くほどきれいになっていた。恋が人を変えるって、本当なんだな。
「あ、ああ。まあ、うん。その人が?」
「うん、お付き合いしてる、守君」
ペコリと、姉ちゃんの後ろの男性が頭を下げた。
「はじめまして。高杉守です」
その人は背が高く、とても優しそうだ。筑豊や博多の訛りはないから、東京の人かな。
ただ、表情はどこか堅い。緊張しているのかもしれない。
「ど、どうも。母がお昼準備してますんで、こちらへ」
なんかこういうの、僕まで緊張するな。というか、こんなにちゃんとした人だなんて思わなかった。
「あら!!あなたが守君ね。母の瑠璃です。巴がいつもお世話になって」
「いえいえ、僕こそ巴さんには助けられてますよ。ね、巴」
「ふふ、守君ったら」
パチパチと、脂の跳ねる音がする。高杉さんは、キッチンにいる母さんを微笑みながら見ていた。
「どうしたの?」
「いや、唐揚げっていいよね、ってね。実家が大分だから、懐かしくなった」
「あ、中津だったね。そっかそっか」
そう言いながら、姉ちゃんは高杉さんの腕を引き寄せている。
「仲いいね、姉ちゃん」
「……うん。付き合って3ヶ月だけど、こんなに合う人初めてかも」
高杉さんの顔が赤くなった。
「お、お世辞はいいよ」
「ううん、本当」
母さんが唐揚げの盛り合わせを運んできた。
「あらあら、早速お熱いわねぇ。私もそういうのあったわぁ。これは孫も早く見れそうかしら、なんて」
2人が顔を見合わせた。……やけに真剣な表情だ。
話を切り出したのは、高杉さんだ。
「……実は、大事なお話が」
「……え?」
巴姉ちゃんも、見たことがない深刻そうな顔になっている。
「お母さん、ごめんなさい。実は、その……今、2ヶ月なの……」
「……え」
僕と母さんの表情が、凍り付いた。




