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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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46日目

「思ったより体調がいい感じで、良かったな」


父さんが僕に微笑んだ。僕はビール缶をグラスに注ぐ。

こうやって晩酌の相手をするのは、正月以来だ。


「うん。退院してからは、落ち着いてきたっちゃ」


正直まだ身体は怠い。ただ、家の中をうろつける程度には動けるようにはなっている。

副作用が薄れたのか、それともリンパ節に転移した癌細胞が多少死んでいるのか。

リンパ節転移の症状も、身体の倦怠感などだという。今からしてみると、心当たりはあった。部活でミスが多かったのもそのためみたいだ。


どちらにせよ、気持ちは少しは楽になっている。明後日また簡単な検査をして、来週またオプジーボの投与だ。


「でも、油断しちゃいかんよ?免疫機能が過剰に働きやすいらしいけん」


「だな。明後日は俺もついていくよ。瑠璃、いいかい」


「もちろんだっちゃ」


僕は唐揚げを口に運んだ。食欲も気持ち戻っている、かな。


「それで、高杉さんとはどうなったん?上手く行ったって聞いとったけど」


「まあ、子供ができてしまったのは褒められることじゃないが……ただ、礼儀も正しいし巴には勿体ない人だね。

勇人も何回か会ったと聞いてるから、そこは分かってるとは思うけど」


「そやね。兄ちゃんができたみたい」


父さんの顔が少し曇った。


「……そうだね。彼が実の息子なら嬉しかったが」


辰夫兄ちゃんのことを思い出させてしまったみたいだ。僕はちょっと後悔した。


ただ、よくよく考えてみると3年前に何があったかを僕は詳しく知らない。

兄ちゃんが酷く荒れていたのと、父さんと大喧嘩になっていたのは分かっている。

ただ、深入りしたくなくて、喧嘩している時はずっと自室に引きこもっていた。姉ちゃんもそれは同じだったはずだ。


どうして、そんな大喧嘩になったのだろう。……知っておくべき時が来たのかもしれない。


「……3年前、何があったか教えてくれん?」


「勇人!?」


母さんの顔が青ざめた。父さんも表情が険しくなる。


「勇人には関係のないことだ」


「そうかもしれんけど……姉ちゃんも結婚するんよ?兄ちゃんと縁を切ったのは知っとるけど、このまま家族がバラバラになるのは、俺も耐え切れんけん。

大丈夫、俺も7月で18たい。もう大人やし、多少のことでは驚かん」


父さんが無言でビールを飲んだ。


「……辰夫が宮東会といざこざを起こしたのは知っているか」


「噂には」


本当はもっとずっと色々知っているのだけど、そこは敢えて黙っておいた。

もし今僕や洋さんの置かれている現状を知ったら、父さんは確実に何とかしようとするだろう。

それは父さんや母さん、姉ちゃんたちまでも危険に晒すことにもなりかねない。


……まだ、話すべき時じゃない。僕はそう判断した。


「辰夫は悪い連中とつるんでいた。中には宮東会の準構成員もいたらしい。

ただ、辰夫はいわゆる……『パシリ』だった。だから度々、足を抜けるよう私からも言っていたし、辰夫もそのつもりだった」


「……え」


辰夫兄ちゃんが、いわゆる「堅気」になろうとしていた?それは初耳だった。

ただ、兄ちゃんの性格上、そんな大それたことができる人じゃないとも思っていた。僕の知る兄ちゃんと、今の兄ちゃんは……明らかに、何かが違う。


父さんが小さく頷く。


「実は……あいつが一緒になりたいと言ってきた女性と一度会っている。ささやかだが幸せな家庭を作りたいという言葉通りになるものだと、その時は思っていた」


「そんなことが?」


母さんが伏し目がちになる。


「ごめんっちゃ。そのすぐ後に、あんなことになるなんて」


「あんなこと?」


「……その子、自殺したんよ」


……え??


「そう。自殺したんだ。辰夫は『奴らが殺したんや!!』と怒り狂った。それで……ああいうことになった」


「奴らって、まさか」


「宮東会だ。なぜ自殺したかは、大雑把にしか聞いていない。ただ、宮東会の連中にレイプされて、それで……死んだと」


ドクン。僕の心臓が跳ねた。そんな事実は、全く聞いていない。兄ちゃんの過去に、そんな重たいものがあったなんて……


父さんは話を続ける。


「辰夫は『宮東会を潰してやるっちゃ』と言って聞かなかった。だが、それは……自殺行為だ。そんなことをして生きていられるのは、不可能に近い」


「父さんはそれを止めようとして」


「……そうだ。でも、止められなかった。……だから、辰夫は……俺の中では死んだことになっている。不甲斐ない親父と、笑ってくれてもいい」


僕は母さんを見た。


「……あんなに自分の意思を見せた辰夫は、最初で最後だったっちゃ。怒りはよく理解できたけん……。

でも、死にに行こうとする息子を、止めるのが親やけん。頑張ったけど……」


「……でも、兄ちゃんはまだ、生きとるよ」


「……みたいっちゃね。たまに、辰夫名義のメールが送られてきたっちゃ。でも、返事をしても何も来ん。

だから、もうそれでいいと思っとる。生きてるだけで、十分っちゃ」


父さんも静かに頷く。


「あいつは、多分宮東会に弓を引くことを諦めたのだろう。そして、俺たち家族と縁を切って生きるのを選んだ。

それはそれで、仕方ないと思ってる。……ただ、お前も病気だし、巴も結婚式だ。本音を言えば、辰夫に一目でいいからお前たちに会ってもらいたい」


「そういう……」


兄ちゃんの行動の理由が、少し分かった気がした。兄ちゃんは、多分諦めてなかったのだ。

そして、3年間牙を研ぎ続け……ようやくそれを使うことを決意した。


とすれば、兄ちゃんはこれからどうするのだろう?僕や姉ちゃんの現状は、当然知っている。

だからこそ、いくらかは分からないけど僕にお金を託した。


その先に何があるのだろう。宮東会の金を奪うことが、兄ちゃんにとっての復讐なのだろうか?今の僕には、さっぱり分からない。



ただ一つ言えそうなことがある。


……やっぱり、兄ちゃんは死ぬつもりだ。




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