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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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43日目

「そろそろっちゃね」


母さんが案内板を見上げる。台北発福岡着の飛行機は、そろそろ到着の頃合いだ。

今日は父さんが4ヶ月ぶりに日本に帰ってくる。仕事人間ではあるけれど、基本的に父さんは優しい人だ。

そんな父さんは、僕らに会ったらどんな反応をするだろうか。


この4ヶ月で、家族には色々あった。いいことも、そして悪いことも。

父さんは母さんから僕と姉ちゃんの話は聞いているはずだ。でも、兄ちゃんの話は知らない。


兄ちゃんのことをちゃんと皆に伝えるべきかは、迷っていた。

兄ちゃんが僕に託したらしいお金についても、まだ黙ったままだ。洋さんからは「危ないから触らない方がいい」と聞いている。


いつかは伝えなきゃいけないことなのだろう。でも、それを伝えた瞬間に皆は日常には戻れなくなる。

既に「癌」という非日常にある僕はいい。でも、父さんや母さん、姉ちゃんたちに余計な心配をかけさせたくはなかった。


案内板が「到着済み」へと変わった。待つこと10分弱で、日に焼けた父さんが現れる。


「瑠璃、巴、勇人!!今帰ったよ」


大きく手を広げると、母さんが父さんの胸に飛び込んだ。


「……お帰りっちゃ、あなた」


「うん……色々大変だっただろう。1人で背負わせて、すまなかった」


「……仕事やけん、しょうがないっちゃ。……そうそう、こちらが」


「は、はじめまして。義父さん」


高杉さんが、深々と一礼した。カチコチに緊張しているのが、僕にも分かる。


「君が、高杉君かな」


「はっ、はい!!娘さんと、結婚を前提にお付き合いを」


「まあ、巴が選んだんだ。きっと大丈夫だろう。今度お酒を飲みながらゆっくり話そうか」


父さんは穏やかに笑う。父さんはいつも落ち着いているけど、身長が190近いので結構な威圧感はある。高杉さんの額に、汗が滲むのが分かった。


父さんの顔に、少しだけ翳りができる。視線は僕に向いていた。


「勇人、具合は」


「うん……元気、言うたら嘘になるっちゃ。昨日よりいいけど、まだ身体は怠いけん」


「……そうか。勇人のことを伝えたら、再来週までこっちにいていいことになった」


母さんの顔が輝く。


「本当っちゃ!?」


「うん。うちの会社もそこまで鬼ではないみたいだ。15日には戻らないとまずいが、今度の病院にはついていけると思う。

そう言えば、洋君もこっちに来ているんだっけか」


「週1で家庭教師してもらってるっちゃ。今はお休みもらってるけど。5日か6日には、賢雄さんに会いに来るって」


僕はドキリとした。その話は初耳だ。

洋さんはまさか、兄ちゃんのことを伝える気なのだろうか?


父さんは静かに笑った。


「そうか。爺さんの葬式以来だから、結構久々だな。会うのが楽しみだね。

ここで長々と立ち話しても仕方ないから、軽くご飯にしようか。一度博多に出るかい?」


「そうね。阪急のレストランならちょうどよか。落ち着いて喋れるし」


「了解。じゃあ、行こうか」


#


「……なるほど。洋君には色々お礼を言わなきゃな。治療代を支援までしてくれるとは」


カルボナーラをフォークに巻きながら、父さんが言う。


「うちはいいって言ったんだけど。月5万は馬鹿にならないけん」


「そうだね。それにしても、オプジーボという薬がそんな薬とは知らなかったな。入院がこんなに短く済むのはありがたいね」


「うん。だから、ある意味経済的みたい。副作用もあるけど……勇人、大丈夫っちゃ?」


「うん、平気」


僕は短く返した。気分はあまり良くはないけど、何とか耐えられる程度だ。

目の前にある糸島産しらすのペペロンチーノは、半分ぐらい残っている。ちょっと食欲はない。


「……辛かったら、辛いと言っていいんだぞ。そのために、父さんや母さんがいるんだから」


「そうっちゃ。勇人は頑張り過ぎよ」


僕は「うん、ありがと」と作り笑顔を浮かべた。美里と同じようなことを言われて、ドキリとする。

父さんは勘の鋭い人だから、いつまでも隠し事はできない。問題は、いつ打ち明けるかだ。


父さんがふと、窓の方を見た。……男性が2人、食事をしている。


「どうしたの?」


「……いや、気のせいだな」


僕もそっちの方を見る。……男2人がこちらをチラチラ見ているのに気付き、冷や汗が一気に流れた。



あれは……多分宮東会の誰かだ。こんな時まで、僕らを見張ってるなんて。



洋さんが言うには、柳澤の派閥は今のところ僕らを守ってくれているらしい。

しかし、もう片方は……僕らを殺しかねない。そう思うと、不安が一気に湧いてきた。



「勇人、すごい汗……!!」


姉ちゃんが心配そうに僕を見た。その場に倒れそうになる誘惑をこらえ、僕は彼女に笑いかける。


「……本当に、大丈夫っちゃ」



僕らの日常は、既に冒されている。そのことを、僕は改めて思い知った。




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