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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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35日目

「そうですか、それは良かった」


瑠璃叔母さんから勇人の手術が終わったことを聞き、私は安堵した。といっても、治療はこれからが本番だ。

ステージ3。治るか治らないかはかなり微妙だ。勇人は若いから、進行も多分早い。ステージ4であるとしたら、化学療法が間に合わない可能性もある。戦いは始まったばかりなのだ。


「で、お金のこと。ホントにええん?」


「そのぐらいはさせてください。微々たるものですが」


「それでも月に5万は多過ぎだっちゃ!洋君の生活もあろうもん」


「独身で無趣味の男なんで、預金はあるんです。これぐらいはさせてください」


治療方針は予想した通りだった。金銭的援助を行うのに躊躇いはない。

勇人にはこれからがある。そのためなら、増えていくだけの金を投じるのは全く惜しくはない。


「……分かったっちゃ。そっちは生活に慣れとるん?」


一瞬、辰夫のことを話そうかと思った。しかし、勇人の病気の件で叔母さんも弱っている。今はまだ、その時ではない。


「……まあ」


「そうね。洋君もいい年だし、いい奥さん見付けなあかんよ?……あ、先生に呼ばれたんで切るね」


電話が切れると、私は軽く溜め息をついた。……この一件が片付けば、そうなるのだろうか。

しかし、状況は決して良くはない。私は足早に待合室に戻る。



ここは清原刑事が入院しているS病院だ。事故から2日、ICUに入ったまま面会謝絶の状況が続いていた。



「どうでした?」


「手術は成功したそうだ。まあ、リンパ節を取るだけだから手術自体は難しくないんだが」


「そうですか……良かった」


言葉とは裏腹に、芙美の表情は暗い。相当事故がショックだったのだろう。睡眠をろくに取っていないのは、目の下の隈が物語っていた。


清原刑事はあの年で独身で、親しい親族もいないらしい。容態の説明は、彼の上司に当たる風間警視が聞いている所だ。


診察室から風間警視が出てきた。やはり顔色はさえない。


「まだ意識は戻りませんか」


「脳挫傷、だそうだ。植物人間になる可能性もなくはないらしい。少なくとも、事故前の記憶は失われている公算大、と言っていた」


「そうですか……」


私は唇を噛んだ。これは、私にも責任がある。勇人の彼女の情報を伝えたことが、彼が狙われる遠因になったのは明らかだったからだ。


「本来記者にこんなことをペラペラ喋るのはご法度なのだがな。君はこの事件の関係者でもある。

もちろん、記事にしないことを条件に話しているのは忘れないように」


「心得ています。……清原刑事が最後に会った人物は分かりますか」


「いや。清さんの人脈は謎だったからな。……ただ、宮東会の『しのぎ』には強い興味を持っていた」


「『しのぎ』?」


芙美が不思議そうに訊いた。


「ヤクザの商売、資金源のことだ。主に風俗やみかじめ料が多い。覚醒剤、麻薬もその一つだ。

こっちに来たばかりと聞いているが、このくらいは知っておいた方がいい」


「はい。それで、何でそこまで興味を持ってたんでしょう?」


「宮東会は風俗や用心棒でのしてきた組だ。ただ、どちらもそこまで羽振りがいい商売じゃない。

にもかかわらず、宮東会は九州最強の武闘派のヤクザであり続けている。その理由は謎だった。

そもそも、RPG……ロケットランチャーまで持っているのはおかしい。余程のツテと金がないと不可能だ。おそらく、それだけの金を生むしのぎをしていると考えられる」


「辰夫君は、その金を持ち逃げしたと?」


「そこまでは確定している。ただ、宮東会が辰夫を血眼になって追い始めたのは割と最近なんだ。

つまり、辰夫がしのぎの根幹に触れ始めた。株……仕手なのか、もっと別のものなのか」


私はベンチに座り直し、風間警視の目を見た。周りに誰もいないのを確認し、口を開く。


「辰夫が投資系の何かに手を付けたのは間違いないと思います。

ただ、それにしても額が巨額です。3000万円をポンと出すのは明らかにおかしい。

さらに、かなりの部分まで勇人の行動を把握していた。彼に彼女がいて、その家の経済状態まで把握していたのは異常です」


風間警視が考え込んだ。


「……まさか」


「心当たりでも?」


彼の表情が変わった。確信を持ったかのように、力強く頷く。


「ハッカーかもしれない」


「ハッカー?コンピューターに侵入する、あれですか?」


「そうだ。そうだとすれば、辰夫の弟の行動はスマホ経由で把握できる。そして、宮東会の口座からごそっと抜き出すことも不可能ではない」


「まさか!?辰夫にそんな技術があるなんて、聞いたことが」


そうだ。辰夫はごく普通の少年……それもいわゆる「やんちゃした」少年でしかない。

ハッキング技術なんて、持っているわけがない。


「誰か優秀な師匠がいて、教え込んだ可能性がなくはない。そして、清さんはそのハッカーの元を訪ねた……」


「そこに宮東会が危機感を抱いたと?」


「あり得なくはないな。……ただ、ハッカーは表には出ない。それに、下手に嗅ぎまわると今度は君たちが被害に遭う」


空気が冷えるのが分かった。芙美はひとまず私の家に上げ、極力単独行動しないようにさせている。

それでも、宮東会の過激さを鑑みると安全とは到底言いがたい。


芙美を見ると、細かく震えているのが分かった。私はそっと肩を抱き寄せる。


「……私たちとしても、極力慎重に、かつ確実に捜査を進めるつもりだ。

宮東会は警察にすら弓を引くことを躊躇わない。九経連会長の家に手榴弾を投げ込むことすらする連中だ。

全面戦争になり、互いに被害を出すことは避けたい。君たちも、慎重な行動を取ってくれ」


風間警視が立ち上がる。首筋に汗が一筋流れているのに気付いた。


「谷口さん……怖いよ……」


「大丈夫だ。私が傍にいる」


自分に言い聞かせるように、芙美に言った。しかし、こんな緊張状態に長く耐えられるとは思えない。芙美はもちろん、私もだ。


……ふと、柳澤のことが思い出された。彼は勇人を見逃している。……何故だ?



……ひょっとしたら。



可能性は薄い。しかし、これぐらいしか手がない。

明日には、勇人も話ができる状況になっているだろう。そこで柳澤隆光の連絡先を聞き出す。


あの男を、味方に付けるのだ。

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