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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
35/125

33日目

「浮かねえ顔だな、谷口」


深沢支局長がチューハイの缶をあおって言った。


「ええ、まあ。私事で」


「恋愛か?てかNTVの若手とよく一緒にいるらしいが」


「……そういうのじゃないです」


私は小さく溜め息をついた。昨日の夜、勇人から受け取った電話がどうしても頭から離れなかった。


柳澤隆光。表向きは芸能プロダクション社長だが、実質はソープのオーナー。

そして宮東会若頭補佐でもある。まだ40そこそこだが、東京の大学を出たやり手であるらしい。

勿論、宮東会ではそれなりに重いポジションの人間だ。そんな男が、勇人に接触したのは決していい知らせではない。


しかし、不可解な点もあった。恐らく、柳澤はいざとなれば勇人を藤木同様消すつもりであったのだろう。

人気のない山林に行ったというから、その可能性はかなり高い。

にもかかわらず、勇人は解放された。それも、ほとんど勇人から情報を聞き出すこともなく。


もちろん、勇人が私に本当のことを伝えていないのかもしれない。しかし、勇人は嘘をつけるような人間ではない。少なくとも、嘘をつくのが上手くはない。

そうなると、柳澤ほどの男が手ぶらで帰ったことになる。明らかにおかしい。


清原刑事にメッセージを入れたが、連絡はない。胸騒ぎがした。



ジー、ジジーッ



ファックスが支局に流れてきている。警察からの事故・事件はこうやってファックスでマスコミに届くのが習わしだ。

私はそれを手に取る。……表情が凍り付くのが分かった。



「4月22日 午前7時21分 K市小倉北区××でひき逃げ事故

被害者はK市小倉警察署の清原義純警部(51)、容疑者は逃亡」



ブーッ、ブーッ



スマホが鳴る。見たこともない番号だったが、とっさに取った。


「もしもし」


「小倉警察署の喜村です。少しお話よろしいでしょうか」


「……清原警部の件ですか?」


「ええ。今ファックスを投げた所です。ご覧になられましたか」


「……はい。容態は」


一拍の間を置いて、喜村刑事が重たい口調で話す。


「……率直に言ってよくないです。意識不明、S病院に運ばれてます。

確か、清原さんとはよくお会いになられていたとか。少し署で、お話できませんか」


身体中の汗が噴き出す。月曜に何の連絡もなかったので引っかかってはいた。

しかし、こんなことになるとは……。一体、あの後清原刑事は誰と会っていたのだろう。


そして、一つ確信したことがある。



このヤマは、明らかに危ない。それも、想像よりずっと。



#


「……そういうことですか」


「ええ、何か心当たりは」


私は日曜のことを喜村刑事に話した上で質問した。

清原刑事が私たちと別れた後に会っていた人物。それが鍵を握るのは明白だったからだ。


喜村刑事は静かに首を振る。


「いえ。清さんは宮東会穏健派に人脈を持ってましたが、基本的にそれを明かすことはなかったです。

マル暴の連中ですら知らないことまで知ってましたが……」


「やはり、やったのは宮東会」


「恐らく。車の特定を進めてますが、宮東会ならどうせ盗難車でしょう。どこかの山に捨てられているのが落ちです。

それにしても、いくら過激な宮東会とはいえ、警察にまで手を出すことはほとんどなかった。……これは、宣戦布告です」


わなわなと喜村刑事が震える。怒りを必死にこらえているようだった。


「私が知っているのは、これで全てです。隠し事はありません」


「……助かります。戸倉辰夫が全ての鍵を握っているのは疑いありません。

そして、戸倉勇人君。柳澤が接触して、見逃したというのはかなり引っかかります」


「同感です。……彼に、もう少し話を聞いてみます」


勇人は明日から入院のはずだ。週末には何とか会えるだろうか。


「そうしてください。こちらも、全力で捜査しますので。

……それと、あなたも身辺には気を付けた方がいい。移動は全てタクシーで行うことをお勧めします」


「……心得ました」


私は芙美のことを思った。私はいい。辰夫の身内である以上、ある程度の覚悟はしていた。しかし、彼女は……


一刻も早く彼女に電話しないと。掌が汗で湿るのが分かった。


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