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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
32/125

30日目

「……どうしたもんやろ」


僕はスマホを見ながらつぶやいた。画面には美里からのLINEのメッセージがある。返信はまだしていない。


『お兄さんのことについて訊きたいんやけど、時間ある?』


最初それを見た時、僕は混乱した。どうして美里が辰夫兄ちゃんのことを訊いてくるのか、全く分からなかったからだ。

僕は巴姉ちゃんの存在は伝えていたけど、兄ちゃんについては話したことがない。僕に兄がいることは、美里が知っているはずがないのだ。


ただ、僕は迷っていた。もし兄ちゃんのことを話せば、それは美里を巻き込むことになる。

喫茶店の閉店について何も言わなかったのも、それだけは避けたかったからだ。


癌については我慢できる。これは、僕自身の戦いだから。

でも、兄ちゃんの件については……できるだけ、誰にも知られたくなかった。母さんにすら。

洋さんはある程度仕方ないとはいえ、USBメモリについては何も伝えてない。

喫茶店「ライムライト」がいきなり閉店したのも、間違いなくあのUSBメモリが絡んでいる。危険が迫っているのは、もはや明らかだった。


今日は、洋さんが家庭教師に来る日だ。癌の治療はこれからだけど、治ったら受験が待っている。

前を向くためにも、勉強は必要だ。そう母さんを説き伏せ、洋さんには引き続き来てもらうことになっていた。


彼に、少し相談してみよう。何かいいアドバイスがもらえるかもしれない。


#


「身体の調子はどうだ?」


「あ、まあまあです。来週水曜に検査結果が」


「そうか。場合によっては来週も休みだな。あまり無理はするなよ」


母さんが休憩中に差し入れたお茶を一口飲んで洋さんが言った。


「はい。……それとは別に、ちょっと」


「何だ?」


「実は……俺の彼女が、兄ちゃんのことを知ってるらしいんです」


「……何」


洋さんの目が鋭くなった。


「彼女に辰夫のことは」


「話してません。だから、ビックリして」


「…………」


無言でお茶をもう一口飲むと、洋さんが「どういう方法かは分からないが」と切り出した。


「辰夫は思いの外勇人を見ていたようだな」


「え?」


「人を使って様子を見させていたんだろう。そして、その情報を基に君の彼女のことも知った。

気になるのは、恐らく辰夫が彼女に接触してきたであろう理由だ」


「それは……」


僕は指原のことを思い出した。美里の家が母子家庭で、生活に苦しんでいるのを兄ちゃんは知っていた……?

その推測を伝えると、洋さんの眉間のシワが深くなった。


「……奇妙だな。まるで探偵か何かを使っているような」


「探偵?」


「探偵は小説の中だけの存在じゃない。彼らはお話のように事件を解決はしない。その代わり、対象の身元を洗うことはする。

相手の経済状態を知ることぐらいは容易いさ」


「兄ちゃんが、そんなのを雇ってるんですか」


「多分。しかし、そんな金を辰夫が持っているのか……?

いかに株をやっているだろうとはいえ」


しばらく考えていた洋さんは、苦笑しながら首を振った。


「……いかんな、授業に支障が出る。とりあえず、彼女には連絡を取ってくれ」


「……でも!?」


「彼女を遠ざけておくのは無理だ。ある程度、正直に話した方がいい」


#


「もしもし」


「……ごめん、既読スルーして。兄ちゃんの件やろ。色々言わなあかんことが……」


「3000万」


「え?」


「3000万円もらったの。あなたのお兄さんから」


「……え!!?」


頭が混乱する。3000万円??そんな大金を!?

指原と同じようにお金の支援をしたのかもしれないとは思っていた。それにしても、そんな馬鹿げた大金を……!?


重い沈黙が流れる。


「……やっぱり知らんかったんね」


「知るわけないと。……でも、ちゃんと説明しないとあかんね。兄ちゃんのこと。

俺も全部知っとるわけやないと。ただ、正直危ない話もあるん。覚悟はいい?」


「うん、勇人のこと、信じとるから。何でも受け入れられるっちゃ」


「……分かった。じゃあ話すわ」


#


「……そうだったんね」


全て話し終えると、美里が小さく言った。ショックは相当あるだろう。

僕も正直動揺している。兄ちゃんが美里に接触していて、しかも3000万もの大金を渡していたなんて。


「……うん。だからその金、きれいな金じゃ多分ないと。受け取るなとは言えんけど……

それと、さっき言った通り兄ちゃん狙われとるん。だから、美里を巻き込ませたくなかったん」


「でも、それって……勇人も危ない目に遭うかもしれんよね」


僕は「ライムライト」のことを思った。あのマスターは無事なのだろうか。

そして、僕に宮東会の人間が再び接触しないとも限らない。そうなったら、僕はどうすべきなのか。


「……分からん。ただ、何か怪しい人がいたらすぐに教えて。刑事さんに伝えるから」


「分かった。でも勇人は……」


「大丈夫やから、俺は。ごめんっちゃ、兄ちゃんのこと隠しといて」


「ううん。……身体、気を付けてね」


電話が切れた。僕はすぐに、スマホを操作する。連絡する先は、洋さんだ。


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