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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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28日目

「どうやった?」


一通り検査を終えた僕を、心配そうな顔をした母さんが出迎えた。


「……あんまいい気分じゃないっちゃ」


検査のほとんどは健康診断の延長に近いものだった。血を抜かれたり、心電図を取られたりというものに、CTでの検査が加わった程度だった。

何でCTなのかと訊いたら、「転移している場合は脳か肺が圧倒的に多い」かららしい。脳転移だけは絶対にごめんだと強く思った。


この程度なら良かったのだけど、「センチネルリンパ節生検」はやっぱりかなり痛かった。

脇の下に局所麻酔を打つのだけど、それがとても苦痛なのだ。そして、リンパ節という部分をまるっと摘出し、それを調べるらしい。

なお、もしリンパ節に転移していたら、「リンパ節郭清」といって脇の下の脂肪から何まで全部取るのだそうだ。1週間の入院が必要だというのは、どうもその可能性もにらんでいるからしかった。


そして、検査の後遺症として脇がとても痛む。手術後も少し腫れた状態が続くかもしれないとのことだ。右手中指の痛みは結構治まってきたけど、今度はこっちか。かなりうんざりする。


「そうよねぇ……せっかくだし、美味しいもの食べて帰るっちゃ!ね、何がいい?お金持ってきてるから、何でもええよ」


母さんが無理して笑顔を作る。僕を喜ばせようと必死なんだな。

寿司や焼き肉が食べたいと言いたかったけど、うちにはお金がそんなにあるわけじゃない。そもそも、僕自身贅沢には慣れてないし。

前に秀哉たちと博多に来た時、「一番博多で旨い」と話題になったお店がある。そこにしよう。


「じゃあ、ラーメンがいいっちゃ」


「ラーメン?そんなの地元で食べれるっちゃ。何で?」


「日本で一番旨い豚骨ラーメンがあるらしいん。そこに行こ?場所は教えてもらっとるけん」


#


「本当にここなん?」


母さんが訝し気なのも無理はない。そこにはのれんもなく、店らしい看板もない。ただ自動ドアと、ピンク色のバケツがあるだけだ。

僕も秀哉から教えてもらわなかったらここがそれだと気付かなかっただろう。2、3人店の前で並んでいるので、そこに続くことにした。


「うん。ほら、母さん」


店の前からは豚骨特有の臭いがする。ただ、そこまでどぎついものでもない。

K市だともっと強烈な臭いがする店があるから、これはちょっと意外だった。


待つこと5分。店に入ると壁に貼られたうんちくとルールが目に入った。


「……『うちはスープに絶対の自信を持っています。是非スープからお召し上がりください』って。

『携帯禁止、写真撮影禁止、従わない場合は出ていって頂きます』……なんねここ?」


「昔の名残りらしいっちゃ。今はそうでもないたい」


店内を見ると、スマホで話したりする人こそいないけど、出てきたラーメンを撮影する人はちょこちょこいる。

昔はスープを最初に飲まなかったり、いきなり辛子高菜を入れた人は即退場という厳しい店だったらしいけど、今は店主が丸くなったのかそうでもなくなったらしい。


K市のラーメン屋に比べ少し高めのラーメンを注文する。店員さんははきはきして、接客もいい感じだ。

秀哉が「色々噂はあるけどそう怖がることはなか」と言っていた通りだな。


しばらくすると、真っ白に白濁したラーメンが出てきた。……これは美味しそうな香りだ。


「……スープから飲まなきゃいかんとね」


「そうでもないみたいだけど、そうする」


レンゲにスープをすくい、一口飲む。


「うおっ!?」


思わず声が漏れた。こんな濃厚でマイルドな豚骨スープ、飲んだことがない。


「うまか!!久留米のより、さらに濃いっちゃ!」


「俺は久留米ラーメン食べたことないけど……これは美味しい」


まるでポタージュのような濃厚さだ。そして麺。豚骨ラーメンによくある極細のじゃなくって、もう少し太めの麺だけど……これがまたよく合う。

ずずっ、ずずっとあっという間に麺が消えていく。包帯が巻かれた中指の使いづらさも気にならない。


「もう食べたと?」


「うん。替え玉頼むっちゃ」


替え玉も普通のラーメン屋とは明らかに違った。……何か黄色い。カレーかな?


これをスープに投入すると、味が一気に引き締まった。スパイシーな替え玉の味がクリーミーで甘いスープにアクセントを与えてくれる。

チャーシューもしっかりしてて、本当に美味しい。秀哉が絶賛するだけのことがある店だな。


大満足して、僕らは店を出た。


「本当にうまか店ねぇ。勇人が行きたいと言うわけだっちゃ」


「やろ?秀哉に教えてもらったん。駅からちょっと歩くのが大変やけど」


博多駅に向けて僕と母さんは歩き出す。少しだけ息苦しい気がしたけど、替え玉まで頼んだからだろうとその時は気にしなかった。



そう、その時は。





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