15日目
「勇人、どうしたん?」
美里は会うなり僕の異変に気付いたようだった。
彼女には兄ちゃんのことや、藤木先輩のことは話していない。
変な心配は掛けさせたくなかったし、僕がそういう世界と関わりがあると知られたくもなかったからだ。
「……いや、何でもない」
「本当?どこか具合でも悪かと?」
「そんなことは……多分なかよ」
美里は釈然としない様子で、原チャリの後部座席に乗った。
「まあ、ええけど。ねっ、今日は海を見に行かない?」
「海?どこに行くと?」
「へへ……内緒。私の言う通り行ってね」
どういうことだろう?美里は、そこまで我儘を言う方じゃない。明るいし、遊びもエッチも全力で楽しもうとするけど、自分から強く「○○したい」というのは珍しいな。
首をひねりながら、僕は海の方へとハンドルを切った。
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「ここでいいっちゃ」
波頭の向こうには製鉄所の明かりが見える。日が沈んだばかりだけど、不思議に空は明るい。
「どうしてここに?」
「パパが、昔見せてくれたっちゃ。辛い時があったら、ここに来るんだって」
僕はもう一度、海をじっと見る。人工の灯りが水面に照らされ、それが空に映し出されているのか。
人の営みが作り出しているとは思えない、幻想的な風景だ。
「……きれいやね」
「でしょ?それ以来、私もたまに来るようになったっちゃ」
「辛い時?」
「……うん。あの時のパパも、辛かったんじゃなかったかな。あの後すぐに、入院したし」
寂しそうな顔で、美里が海を見つめた。そうか、小さい頃にお父さん亡くなってたんだっけ。
しばらく、二人で黙って海を見ていた。僕は美里の肩を抱き寄せる。何か、無性にそうしたくなったんだ。
「……勇人?」
「すまん、こうさせてっちゃ」
美里は何も言わず、僕に身体を預ける。訳もなく、目頭が熱くなってきた。
藤木先輩は、どういう思いで最期を迎えたのだろう。怖かったんだろうか。悲しかったのだろうか。
それは僕には分からない。ただ、一人で竹林に置き去りにされる最期は、とても寂しいものだろうというのだけは間違いなかった。
彼に同情はしない。でも、自分がああなったらと思うと……ぞっとした。
そして、辰夫兄ちゃん。……兄ちゃんは、大丈夫だろうか。兄ちゃんには、殺されて欲しくない。
当たり前だけど、普通に年を取って、結婚して、普通の人生を歩んで欲しい。
美里を見ると目が潤んでいる。そして静かに、目を閉じた。
チュッ
唇同士を合わせるだけのキス。でも、名残惜しくて僕は彼女からなかなか離れられなかった。
「勇人は……どこにも行かんよね」
「行くわけがないたい。心配なか」
胸の中にある彼女の柔らかな髪を、僕はそっと撫でた。
「そういえば、誕生日近かったんやな。何か欲しいものあると?」
「……1日、一緒にいたい。ゴールデンウィーク、予定ある?」
「……そんなに忙しくなかよ」
美里が、泣きながらニコっと微笑んだ。
「約束っちゃ」




