13日目
「勇人、ちと面貸せや」
部活に向かおうとする僕を、時代錯誤のリーゼントが呼び止めた。
「……何、佐崎」
「藤木さん知らんと?昨日、会ってたらしいやん」
「……会ってたけど」
佐崎はうちのドロップアウト組の一人だ。柄が悪いのと付き合っているということだけど、僕に対して攻撃的というほどでもない。
僕はドロップアウト組とは適度な距離を置いていた。兄ちゃんの件で僕の名は知られてるけど、僕自身の性格が彼らに合わないと知っているのか、必要以上の接触はこれまでなかった。
それだけに、佐崎が呼び掛けてきた時は身を堅くした。……何かあったんだろうか。
佐崎の様子は、どこか落ち着きがない。
「連絡が取れんと。スマホ鳴らしても出ん。あそこのガストにいたのは知っとるけど、行き先聞いとる?」
「し、知らん……でも、何か焦ってた」
「焦ってた??……どういうことやろ」
首を捻って、佐崎はその場から去っていった。藤木先輩が、消えた?
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「勇人、何やったと!?」
家に帰るなり、母さんが血相を変えて飛び出してきた。
「……え?」
「刑事さんが来とるんよ!?あんたはまともに育ったと思うとったけど……」
「け、刑事?」
心当たりは勿論ない。リビングには、2人の背広の男性がいた。一人は中年、もう一人はガタイのいい30過ぎっぽい人だ。
ガタイのいい刑事が切り出す。
「戸倉勇人君だね」
「は、はい……俺が何か」
「昨日、藤木駿に会っていただろう。何を話したか、聞かせてくれないか?」
「え、藤木先輩が何か……」
スー、と中年の刑事がアイコス……いや、プルームテックかな……を吸う。
「今日の昼、遺体で見付かったたい。宮若の竹林で撃たれてたと。もちろん、君は被疑者じゃないけん、安心し」
「……え」
藤木先輩が、死んだ?
彼には良い想い出なんて一つもない。大体兄ちゃんの居場所について訊かれて、殴られるか、蹴られるかだ。
昨日も鼻っ柱を叩かれた。いなくなって欲しいと思ったのは、一度や二度じゃない。
でも、昨日あれだけ元気だった人が、死んだ?
喜村というガタイのいい刑事が身を乗り出す。
「君との会話内容を知りたい。彼の死の背景が何か分かるかもしれない」
僕は唾を飲んだ。……兄ちゃんの失踪に関係がある??
僕はちらっと母さんを見た。
「母さん、黙っててゴメン。1週間前に、兄ちゃんと会ったと」
「辰夫と!!?どうして、それをはよ言わんね!!?」
「ゴメン、兄ちゃん、伝えてほしくなさそうだったから。……刑事さん、俺が先輩に伝えたのは、兄ちゃんと会ったということだけです」
刑事たちが顔を見合わせる。清原という中年の刑事が静かに言う。
「戸倉辰夫と会っていたんか」
「はい。……それが」
「君の兄貴は、犯罪者じゃなかと。多分。ただ、宮東会からすれば、不倶戴天の男たい。
藤木は、兄貴を捕らえられなかった責任を取らされたのかも知れんと」
「えっ……??」
「3年前の宮東会組長暗殺。それに関わった人間は、皆殺されたんよ。でも、情報伝達係やった戸倉辰夫だけが生き延びた。
おまけに、組長が持っとった金か何かを持っとる。それで宮東会はずっと奴を追っとった」
母さんが衝撃の大きさから、その場にへたりこんだ。……そんなことを兄ちゃんはやってたのか!?
「まさか、それで」
「まあ藤木も多額の借金抱えとったからの。それで詰め腹切らされたのもあるんじゃなかね。
ただ、宮東会が戸倉を追っとったのは確実たい。……で、兄貴と君は何を話したと?」
「ほとんど、何も……中部地方に行くってだけで。行く前に、俺と会いたかっただけらしいです……」
「中部……!?確か、戸倉の後見人はこの前死んだ浅尾泰……」
喜村刑事に、清原刑事が頷いた。
「こりゃ大事やね。君の兄貴、なかなかのタマやな」
……辰夫兄ちゃんは、この3年間何をしていたのだろう??
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疑問と不安で、その日は眠れなかった。
そして突然身の回りに転がってきた「死」という現実が怖くて……あれだけ嫌いだった藤木先輩の死に、僕は泣いた。




