12日目
「……よう」
部活から帰ろうとしていた僕の原チャリの横に、大型バイクが横付けられる。フルフェイスのヘルメットの中から除く三白眼は、藤木先輩だ。
「……何ですか」
「ちと、面貸せっちゃ。大事な話があるけん」
嫌な予感がした。でも、断れば……仲間を呼ばれる。
一度、それで僕は痛い目に遭っていた。文字通りの。
あの時、たまたま警察が河川敷をパトロールに来なかったら……僕はどうなっていたか分からない。
それ以来、僕はできるだけ一人で行動しないようにしていた。でも、今日に限って……油断していた。
「……どこに行くんですか」
「そこのガストたい。何、取って食いばせんけん」
妙に声色が優しい。……何を訊かれるか、予感はしていた。兄ちゃんの件だ。
#
「で、辰夫や」
パフェのクリームをすくいながら、藤木先輩が切り出した。
「……何か知っとるんじゃなかと?」
「……知らんです」
藤木先輩がにこーっと笑みを深くして身を乗り出して来た。
「……嘘はすぐばれるけん、な?」
「知らないもんは知ら……」
ベシィッ!!!
パフェ用のスプーンが、鼻先に叩き付けられた。鼻の奥から、鉄臭い何かが拡がってくる。
「嘘はすぐばれるけんなぁ!?おお!!?」
視線で助けを求めたけど、そもそも客がほとんどいない。……藤木先輩の縄張りだから、客を締め出すなんて簡単なんだ。
「ッッ……!!」
「辰夫が消えたんや。飯塚にも、田川にも、どこにもおらん。
浅尾の叔父貴が匿っとったらしいことは、最近知ったと……だから、叔父貴が死んだ今どこかに隠れとるのは間違いなか。
お前のとこ、会いに来とったんやろ??お??」
目からは涙が、鼻からは血が流れている。恐怖で震えが止まらなかった。
凄んでいた藤木先輩が、再び微笑んだ。
「正直に言えば、もう絡まんたい。だから、な?」
……兄ちゃん、ごめん。
「……一週間前、O尾で会い、ました……」
「おお、やっぱりな。……一週間前?」
僕は小さく頷いた。藤木先輩は訝しげに僕を見ている。
「はい……それで、顔を見に来たって。それだけだって……」
「なわけがなかろうもんッ!!!おいこら、何か渡されたりしたんやろ!??」
「な、何もないですっ!!本当なんですっ!!!」
「あ゛??舐めたこと言わんと、しょうちせんぞ!!?」
「ほんどうでずっ……!!しんじで、ぐだざいっ……」
胸倉を掴む先輩の手が緩んだ。
「……どこに行ったかぐらい、聞いとろうもん」
「……東に……電車で……」
「会ったのはいつと?」
「夜、でずっ……」
先輩の顔色がサッと変わった。
「……まずいっ……!!もう、九州にはおらんっ……!!!」
「え゛……!?」
何故彼がそこまで慌てているのか、僕にはまるで分からなかった。
藤木先輩はバンッと立ち上がる。
「上に連絡や……本当に、まずいことになったたい……」
そうして、お金を払わないまま、彼はどこかに去っていった。
#
それが、僕が藤木先輩を見た最後だった。




