354:【TRI-PLETTE】名も無き霊妙たる煌めきと死神から、愛すべき愚民共への贈り物
前回までの「DYRA」----------
DYRAとRAAZはハーランを追い詰める。が、タヌはもうそこにはいなかった。そしてハーランの意味深長な言葉と共にゴングが鳴った、「次」なき死闘。一方、塔から脱出したアントネッラは、ディミトリたちに助けられ、生還を果たす。そのとき、塔の上に細長い雲を見る。
タヌを乗せた脱出ポッドは発射された。それを知ったRAAZは遠慮なくハーランを始末できると思った。だが、それは甘すぎた。
DYRAの背後で突然、扉にコツンとハーランが投げた何かが当たる音と共に爆発が発生した。
「!」
DYRAの背中に爆風が当たるが、一瞬早く舞い上がった青い花びらの嵐が彼女を守る。
「ったく! この部屋で爆弾とか正気じゃねぇなぁ。それに、そんなモンで壊れるワケがない。打つ手がなくなってヤケでも起こしたか?」
RAAZが口角を上げ、剣を振るおうとした。ハーランはすぐさま奥側の壁際へ行くと、機材が入っていると思しき大型ロッカーのような箱の取っ手に手を掛けながら、再び小型の爆弾を投げる。今度はアンダースローではなく、普通に。
「甘いなクソガキ。俺が今、何に手を掛けているかわかるか?」
RAAZが爆弾を斬って捨てる間にハーランは扉を開け、中から何かを取り出した。
「確かにこの壁は爆弾じゃ壊せない。そう。爆弾じゃ。だが、こいつはこの壁を壊すために作られている」
ハーランが笑いながら告げた。手にしたモノを窓代わりの耐圧ガラス脇の壁へ向けると、それまでなかった赤い光点がポツリと浮かび上がる。
「ま……!」
RAAZは彼が顔色を変えた。
「……非破壊検査用のレーザー!」
呟いた瞬間、一瞬前まで光点があった場所を中心に、僅かな粉塵が舞った。
「DYRA!」
パン! とも、バン! とも、何とも聞いたことがないような破裂音が響いたのと同時に、RAAZがDYRAを庇う。周囲に赤い花びらの嵐が舞い上がる。
「何だ……!」
部屋はそれまでとは一転、白い霧で覆われた。DYRAは窓際の異変に気づいた。まるで、窓脇の壁に穴が空き、そこからまるで花でも咲くように穴が広がっているのだ。
「──!」
「ぐっ!」
「はっ!」
広がる穴から空気の奔流が何もかもを吸い出していく。
ここで、DYRAはハーランが「逃げる必要もない」と言った本当の意味に気づいた。
脱出ポッドの射出口がある区画そのものが巨大な塔から切り離されるようにバラバラとなり、破片となって空へと放り出された。
ハーランも。
DYRAを抱き抱えたRAAZも。
大小様々な破片が飛び散り、猛烈な勢いで空へ散る。
その中のひとつが、先の方を飛ぶ何かに当たったのをDYRAは見た。
普通の人間なら、上空数千メートルに放り出された時点でとっくに凍りつくか気圧差にやられて死んでいる。だが、DYRAとRAAZは普通の人間ではない。ハーランも然り。
「RAAZ!」
凄まじい気流の中で、DYRAはRAAZを呼んだ。
「──聞こえている!」
身体を接触させているため、物理的に声は聞こえずとも、ナノマシンで経由してやりとりする。DYRAはそんな理屈はわからないが、声が届いているとわかったので話し続ける。
「──何が起こった!? それに、爆発なのか!? 破片、タヌに!」
「──キミは飛べる! 適当な場所に上手く着地しろ! ISLAに拾わせる!」
「──お前は!?」
「──決着を、つける!」
そう告げたRAAZが、視界の先にハーランを捉えていることをDYRAは把握する。が、次の瞬間にはものすごい速さで空を飛んでいる。花びらの嵐で障壁を展開して続けていられるからこそこんな無茶ができる。そうでなければ死んでいる。これでタヌのもとにたどり着けるのか。RAAZはハーランに追いつくのか。
銀色の何かが灰色の細い煙らしきものを引いているが見えてくる。DYRAはそれがハーランが言った、タヌを乗せて打ち出したものだと確信した。近くにはハーランが流されるように飛んでいるのも見える。
「──行け」
手を伸ばせば届きそうな脱出ポッドに届きそうな距離になると、RAAZがDYRAを離した。
「──!」
DYRAは反射的に銀色の塊に手を伸ばした。
「!」
U字の、足場を取っ手のように掴んだ。DYRAはそこから、脱出ポッドの隅の方に破片が刺さっており、そこから煙が噴き上がっているのを見る。
このままでは海に落ちてしまう。
海に落ちてしまえば、どうなるか。
仮に、救命ボートのようなものであるなら浮かぶのだろう。だが、それでは助けがいつくるかわからない。漁師たちが来ないような場所に落ちてしまえば──。
来ない場所に、必ず助けが来るように仕向けるにはどうしたらいいのか。
海の真ん中に落ちて、何日も待つなどと悠長な選択肢を講じることはできない。
(どうすれば……!)
飛び続ける脱出ポッドの外周についたU字を一つ一つゆっくり、確実にたどり、DYRAはポッドの前の方へ近寄る。少しでも気を抜いたら、あっという間に吹っ飛ばされてしまいそうだ。青い花びらの嵐の障壁すら吹っ飛ばされているのだ。最低限、自分の身を守るのが精一杯。このポッドまで包んで、などできるはずもない。
RAAZとハーランはどうなったのか。彼は本懐を遂げたのか。だが、視線を余裕はない。
銀色のポッドの前の方へ近寄ると、透明な素材になっている部分が見えてくる。
「──!」
DYRAの緊張の糸が一瞬、緩んだ。
最後に見たのは、不安の表情が和らいでいくタヌの姿だった──。
それから7日の時間が流れた。
浜辺には、銀色のポッドが打ち上げられていた。透明の部分は開いている。
ポッドのそばにはサファイア色の髪が美しい一人の女も倒れており、少年が必死に身体を揺すっている。
タヌと、DYRAだ。
「……DYRA、DYRAっ!! 起きてよ、DYRAっ!!」
タヌが泣き叫ぶような声で呼びかける中、砂を引きずるような音が少しずつ聞こえてくる。
足を引きずり、浜辺の方へと。タヌは気づかず、声を上げ続けている。
ざっ、ざっ、ざっ、音が耳にようやくタヌの耳に届いたとき、その音は止まり、長い陰が二人を覆った。
「……ああ……いた……!」
泣き叫ぶ声の間に、割り込むように聞こえた男の声。タヌはハッと顔を上げた。
見知っているはずの男が、そこにいた。銃を手に。
「……とう……さん……!」
フィリッポだ。ハーランの手を借り、父親もあの塔から脱出していたことをタヌは思い出した。
タヌは反射的にDYRAの身体をしっかりと抱きしめた。同時に男が銃を手に構えると、発砲した。大きな発砲音が響き、一発撃たれる度に、空に赤や緑、黄色、色とりどりの煙が上がった。
ひとしきり撃ち終わると、銃をしまい、二人の元へ駆け寄った。
「……ラ・ルネサン……! 再生の、女神だ……!」
DYRAを守るように抱きしめるタヌを、フィリッポはまるごと抱きしめた。
「……」
タヌは小さな声で、呟いた。
そして。
「……触らないでっ!!」
次に、意を決したように声を張り上げると、片腕でフィリッポを突き飛ばした。
「あっ……」
フィリッポは一瞬、狼狽えた。
「あなたは、DYRAに触っていい人じゃないっ!」
タヌは真っ直ぐフィリッポを見る。
「何を言って……?」
「ボクのために必死になってくれて……! ハーランさんに手を貸したあなたが、触っていい人じゃない!!」
「今のお前には、わからないかも知れない。でも、彼女は女神だ。お前を助けるために、この場所さえも創った」
「は?」
「お前は、ここがどこだか、わかるか?」
フィリッポの指摘で、タヌはそんなことを考える暇もなかったと気づいた。
「ここはほんの数日前まで、アニェッリからずっと南、海に浮かぶ島だった場所だ」
タヌはDYRAを離すことなく、フィリッポをじっと睨んだまま、耳だけ貸す。
「トレゼゲ島だった。けれど、あの塔から脱出したとき、その夜、南の海が盛り上がって、この地が現れたんだ」
「何、言っているの?」
「父さんは、あの方が逃がしてくれたおかげで、レアリ村の東にある浜辺に着いた。その日の夜、地震が起きて、翌朝になったら、南西側の景色が一変していた。だから、船でここまで来て──」
「要するに──」
フィリッポの言葉を遮るようにタヌは被せようとしたが、それも遮られた。
フィリッポの背後から人が数人、こちらへ走ってくる。二人、見知った人影がある。けれども、それが誰かわかったとき、視界はふわりふわりとどこからか風に乗って舞ってきた、赤い花びらに遮られた。
「──そこまでだ」
タヌとフィリッポの間に、赤い花びらが木枯らしのように舞うと、大柄な人物が姿を現した。
赤い外套姿。手にはルビー色の諸刃の大剣。タヌは圧倒的な強さを感じさせる、見知った背中をじっと見た。
「RAAZさん……!」
「随分、探したぞ。海に落ちて、ISLAでさえ見失ったときはさすがに肝が冷えた」
「バケモノ……生きていた……」
フィリッポが呟いた。このとき、タヌは駆け寄る人のうち、見知った男女二人がフィリッポのすぐそばまで来ているのに気づいた。
「ガキを助けたさにDYRAが起こした場所だ。この地は彼女から愚民共への『手切れ金』としてくれてやる。代わりに私は、お前のクビを貰う」
354:【TRI-PLETTE】名も無き霊妙たる煌めきと死神から、愛すべき愚民共への贈り物2026/04/28 18:12
354:【TRI-PLETTE】名も無き霊妙たる煌めきと死神から、愛すべき愚民共への贈り物2026/04/27 20:00
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GWにはいりました。如何お過ごしですか。
改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。
また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。レビューとか感想とかいただけると、作者は小躍りして喜びます。珈琲にケーキセットつきそうなくらいに!
多くは語りません。
次回、ラストです。
唯一無二のゴシックSF小説、最後まで一層の応援を、どうぞよろしくお願いいたします!
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Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とは違う、おまけに素晴らしいビッグサプライズなシーンもあります。
こちらは、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)と一緒に読むと面白さ一万倍です。
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