表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最終回】DYRA ~焼かれた村、謎の鍵、そして「死神」と呼ばれた美女との旅の果てに~  作者: 姫月彩良ブリュンヒルデ
XVII 悪意の手を逃れたどり着いた先

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

353/355

353:【TRI-PLETTE】継がれる思いの強さと愛故の執念、名も無き霊妙たる煌めきの輝きの下で……

 塔から脱出するためにタヌを連れて逃走するハーランを、DYRAとRAAZが追う。脱出ポッドが設置された部屋へ逃げたとわかったとき、DYRAはタヌから預かっていた『鍵』をRAAZへ渡し、決着を自分に委ねてほしいと願ったが、断られる。

 そして、タヌを脱出させたタイミングで、ついに運命の瞬間を迎える。


 DYRAとRAAZが、ついにタヌとハーランが逃げた先へと足を踏み入れた。

「お嬢さん。タヌ君ならもう無事に脱出だ」

「何だと? お前は逃げなかったのか? まさか突き落としたんじゃないだろうな!?」

 広いとは言えない部屋に、DYRAとRAAZ、そしてハーランが対峙する。部屋には小窓がいくつかあり、外が見える。といっても、景色は見渡す限り空と雲だけだが。

「俺は今さら、逃げる必要もない」

 言いながら、ハーランはタヌの首から取ったものを見せた。チョーカーの先に、真鍮の鍵がついていた。DYRAもRAAZも、それがメレトの屋敷の、どこかの部屋の鍵だとすぐに見破った。

「なるほど。ガキは私との約束を、DYRAと別れる時点で守ったわけか」

 返す約束のことだ。

「『鍵』はどこへ?」

「遅かったな」

 せせら笑うような口調でRAAZは答えた。

「マッマの遺産が……」

 ハーランが無念さを滲ませた。

「まるで、お前のために残されたもののような言い方だな?」

 DYRAが冷たい口調で告げた。

「RAAZが愛した女は、お前のために残したんじゃないんだろ?」

 そのとき、部屋がほんの僅かではあるものの揺れた。同時に、それまで空だけが広がっている窓の外に広がる光景に、一瞬とはいえ、細い線が二本、水平線の彼方へ向かって走り出すのが見えた。

「……タヌ君を乗せたポッドは無事に射出されたようだ」

「ならば、言い残すことも、思い残すことももうないな?」

 DYRAは自身の右手の周囲の青い花びらを舞わせると、直列状の蛇腹剣を顕現させる。尖端をハーランへ向けようとしたときだった。

「キミは、見届け人(・・・・)だ」

 RAAZが言いながら、DYRAの右手首を軽く押さえて彼女の剣の切っ先を下げた。

「いいか? 何があるかわからないからな。身も守り続けていろ?」

「え……!?」

 DYRAが何かを言い返すより早く、RAAZはハーランとの間合いを詰め、斬り掛かっていた。

 ハーランはナイフを持っている。広いとは決して言えない、むしろ狭い部屋だ。それなりの広さがあるなら剣の方が有利だろうが、いかんせん狭い。DYRAの目にも、これはRAAZに有利とは言えないのでは、と考える。が、杞憂だった。

 RAAZの剣の周囲に赤い花びらが舞うや、ルビー色の刃輝く諸刃の剣から、剣身の半分にカバーが掛かり、刃の部分がプラズマのような光を放ち続けるものへと姿を変えた。

「──!」

「──!!」

 二人の男が互いの武器を使って斬り合う。DYRAは開かないとわかっているが、万が一を考え、逃げられないように扉際へと走る。

 RAAZが剣を振り切る瞬間を狙い、ハーランが懐に入ろうとする。それがわかるからか、RAAZも大きく振らない。DYRAはその様子を注視する。

 ここで、ハーランが懐から何かを取り出す。DYRAは投げられるかもと蛇腹剣を構え、青い花びらを舞わせる。

「クソガキ。俺はもう、引き継ぎ完了(・・・・・・)したからな」

「何だと?」

「そう。俺が今ここで倒れても、ニムローテは必ずまた、よみがえる。あとはクソガキ。せめてお前を──」

 そう言って、ハーランが口角を上げた瞬間だった。彼はすぐに身を屈めると、アンダースローの構えでDYRAの方へ何かを投げた。アイスホッケーのパックのようにRAAZの足下をすり抜け、DYRAの方へと床を滑っていった。

「!」

 だが、RAAZの背後へ行ったもののDYRAの下へは到達しなかった。

「──!」




「何あれ!」

 意識のないルカレッリの肩を抱いて塔の下までたどり着き、ようやく外へ出ることができたアントネッラは、ワインのコルクが開くような音を天から聞くと、顔を上げて空を見た。

 塔のずっと上の方から、細く白い線が見える。文明が文明なら、飛行機雲と呼ばれるものだ。当然、アントネッラはそれが何ものかも、何故発生するかもわからない。

 白い子犬は海を挟んだ向こうで何かに気づいたのか、猛スピードで走り出した。

「ビアンコ! 溺れちゃう!」

 アントネッラは止めようとしたが、ルカレッリを抱えているのでそれができなかった。

「あっ……」

 海を走った(・・・)子犬が途中、海の真ん中で足を止めた。それを見て、アントネッラはハッとした。

「そっか!」

 ビアンコは海の浅い場所を知っている。それに気づくと、追うように歩き出す。

 海に足を踏み入れたところでアントネッラは、ルカレッリ共々、足首よりすぐ上のあたりまで濡れた。それでも向こう脛より上まで浸かることはない。

「ビアンコ! お願い」

 アントネッラが近づくと、子犬は少し進んで行く。それを何度か繰り返していく。ルカレッリがいないなら、走ることもできる程度の水深だ。一歩一歩、着実に進む。

 いよいよ岩場のような海岸線がハッキリとみえてきたときだった。

「誰か……いる!」

 ここで、先行する子犬が一気に岩場まで走った。走って、人影に向かって吠える。

「──ぞー!」

「──でー!」

 何か、大声が聞こえてくる。

 今度は子犬が近づいてくる。続いて、その後ろから人影が近づいてくる。

「……!」

 近づく人影の背格好が少しずつ見えるようになる。

「──だいじょぶかー!」

「あれ、ディミトリよね……」

 子犬が明るい声で吠えながらアントネッラの足下まで戻ると、また、先導役を再開する。

 一〇数歩ばかり進んだところで、岩場側から走ってきたディミトリとキリアンだとわかった。それからほどなくして、男二人がすぐそばまで来た。

「無事で良かった!」

 キリアンがすぐさまルカレッリの介抱役を引き受けた。アントネッラはここで、安堵から深い息を漏らすと、海に膝を落とした。

「無事で良かった!」

 ディミトリがアントネッラに手を貸して立たせると、そのまま肩を貸した。

「皆、無事なのか!? タヌは!?」

 アントネッラは首を横に振った。

「わかんないのよ。私がわかるのは、塔の中にマイヨの双子のお兄さんがいて、その人が『帰り道を教えるから二人とも出ていって』くれって。タヌ君は残ってた。っていうか、残された? って感じ」

「オッサンとかは?」

「それもわからないわ。でも、あの会長は、その、ラ・モルテとそっくりな、大切な奥さんを殺した犯人が髭面絡みだったのがわかって、すごい怒っていた」

「何てこった……!」

「んで、大公サンとかタヌ君のお父さんとかは?」

「そこまで余裕なかったから、わかんないわよ。ただ、あの悪魔みたいなクリストとか、態度が悪い方のタヌ君のお父さんを、その、マイヨの、双子のお兄さんが何て言うの? 晩ご飯に使う豚とか鶏でも殺すような感覚で……」

 アントネッラは言葉を濁した。

「オネエチャンは? タヌ君のそばにおったんやろ?」

 キリアンが問うと、アントネッラはこれにも首を横に振った。

「髭面が会長を殺そうとしたとき、彼女、自分の命ごと全部、会長にって感じで……」

 ここでもアントネッラの言葉は最後まで続かなかった。

「あのオネエチャン……あの会長サンのこと、大好きそうだったからな」

「でも、会長は、奥さんのことで必死になっていた」

「何だよそれ」

 ディミトリも話に入った。

「じゃ、何だよ。あのDYRAって彼女は、会長、その、RAAZにとって」

「どうでもいい、とかじゃなかったわ。その、奥さんのことでケジメをつけるまでは、って感じの話だった」

「つまりー」

 キリアンが言い掛けたとき、先を行く子犬が岩場まで着いた。アントネッラたちも岩場まですぐそこのところまで来ている。

「会長サンは、死んだカミサンのことをこう、心の中でアレしないとってことか」

「そんな感じ」

「会長サン、ロマンチストやな。タヌ君もき……」

 キリアンが言い掛けた言葉は、天高くから聞こえてきた、ワインのコルク栓を抜くよう音で遮られた。

 全員、空を見た。

「さっきも見たわ、あの細長い、白い雲みたいなの……!」

 アントネッラが指さしたときだった。

「ああっ!」

 ディミトリだった。

 塔の上部から細く、黒い煙が微かに見えた。続いて、真っ直ぐ伸びる白い雲が黒い何かと重なり、()の字のように曲がると、そのまま見えなくなった。

「何や……」

 キリアンが岩場までたどり着くと、いったん視線を戻し、比較的平らな場所にルカレッリを横たえた。

「何が起こっているの……?」

 ディミトリと共に岩場にたどり着いたアントネッラは、岩場であることなど気にもしないとばかりに、ぺたんと膝を落とした。ディミトリも一緒に屈んだ。子犬もアントネッラの傍らで、心配そうに空を見上げた。


353:【TRI-PLETTE】継がれる思いの強さと愛故の執念、名も無き霊妙たる煌めきの輝きの下で……2026/04/20 20:00


-----

 あっという間に東京は初夏の陽気です。如何お過ごしですか。


 改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。

 また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。レビューとか感想とかいただけると、作者は小躍りして喜びます。珈琲にケーキセットつきそうなくらいに!


 最後の戦いが始まりました。ハーランは謎めいた言葉を残して、何かを投げたのですが……

 ラストまであと2回(つまり、355話がファイナルナンバー)ですね。

 次回、ついに決着へ!


 唯一無二のゴシックSF小説、最後まで一層の応援を、どうぞよろしくお願いいたします!


-*-*-*-*-

【宣伝】文学フリマ東京42 出店します。

5月4日に東京ビッグサイト南館で開催の「文学フリマ東京42」に参加します。

ブース番号はF01-02です。

広々2スペース分。

ゴシックSF小説「DYRA」文庫版全巻投入です! 是非よろしくお願いいたします。


-*-*-*-*-

【宣伝】冬コミ新刊「DYRA 16」 BOOTHにて通販開始


https://sbrynhildr.booth.pm/items/7754629


 Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。

 今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とは違う、おまけに素晴らしいビッグサプライズなシーンもあります。

 こちらは、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)と一緒に読むと面白さ一万倍です。

-*-*-*-*-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ