351:【TRI-PLETTE】量子の揺らぎ、心の揺らぎ。そして名も無き霊妙たる煌めき
前回までの「DYRA」----------
ハーランの言い分にもISLAの言い分にも我慢ならない。タヌは彼らの論理にド正論をもって反論する。だが、DYRAはその言い分に同意する。それでもISLAはミレディアの仇に繋がる者は根切りしろと主張。ここでRAAZは「その先」を尋ねると共に、「極端な思考に走るな」と告げ、ISLAを諫めた。
RAAZがISLAを説き伏せることができたのか。タヌは祈るような思いで二人を見る。これで解決の道筋がつくのなら、命さえ取られない限り、貧乏になるとか、小さな村から出てはいけないみたいな厳しい要求であっても受け容れていい、いや、受け容れる。それがタヌの本心だった。
「RAAZ。反論は色々ある。それでも」
ここで、ISLAがハーランとタヌへ厳しい視線を向けてから、もう一度RAAZへ向き直り、言葉を続ける。
「移りゆく長い時間、ずっと外の世界を見ていたアンタや、まだ感情の突合作業が終わっていないが、エイリアスボディの経験が大筋で最適解なんだろうとはわかった」
三つ編みのないマイヨに届いた。暴走しているのではと思うしかない振る舞いもこれで終わる。タヌがホッとした瞬間だった。
「……!」
突然、タヌは背後から口元を塞がれ、身動きも封じられた。
「……タヌ君」
抵抗しようとするより一瞬早く、耳元でハーランの声が聞こえた。
「……お父さんとキミはここから逃げるんだ。ちょっと荒っぽい手を使うが、俺が必ず逃す。いいね?」
(え……)
ハーランが自分を助けるとはどういうことなのか。自分はこれまでDYRAに、そして成り行きがそうした面もあったが、RAAZやマイヨに助けられてきた。なのに、ここにきてどうしてハーランが自分を助けるというのか。タヌは困惑の色を浮かべた。そんなことをあれこれ考えている先から、視界が完全に真っ暗になった。
「……!」
声を上げたつもりだった。
が、その声は爆音に消されて誰の耳にも届かなかった。
煙幕と炎が数か所に発生していた。千鳥がけの柵さながらに展開された半透明の壁を壊すべくハーランが隠し持っていた手榴弾を投げたのだ。
「RAAZ。アンタはハーランを。DYRAはあの親子を。絶対に外には出させない」
爆破で半透明の壁はすべて消えたのをモノクルディスプレイ越しに見ると、ISLAは黄金色の霧の中へと姿を消した。同時に、制御塔も黄金色の霧の中へと霞んでいった。
「タヌ君!」
声と共にタヌの身体が浮いた。
「うわっ!」
ハーランだった。彼はタヌの腕を引いて走り出し、フィリッポがいる、部屋の出入口へと向かった。
「アイツ、この建物の構造を、ある程度正確にわかるのか……!」
DYRAは蛇腹剣を手にすると、すぐに後を追う。RAAZも続く。その剣の刃にはプラズマの輝きが細い雷のように輝いている。
「ISLAは『逃がさないと』言った。つまり下へ下りる道はすべて封鎖している」
「あいつ、そんなことができるのか!?」
「ああ。超伝送量子ネットワークとは、ISLAそのものだからな。だから、あの部屋でハーランをぺしゃんこ寸前まで追い詰めることもできたんだ」
二人がハーランを視界から逃すまいとかなりの速さで走る。
「どういう意味だ!?」
「DYRA。ヤツこそがISLAで、そしてマイヨ・アレーシなんだ」
DYRAは言葉の意味を理解できない。
「キミやガキ、小娘が『マイヨ』だと信じて会っていたのは、エイリアスボディ。つまり、フルクローンなんだ」
初めて聞く単語でも、DYRAは敢えて聞き返さない。考えようとすれば立ち止まってしまうからだ。今は、タヌを追う足を止めてはいけない。前方で、ハーランとフィリッポが部屋を出て、廊下を走り出したのが見える。
「あの生体端末とかいうのとは別物なのか?」
「詳しい説明はしないが、まったく別だ。ISLAと案山子の関係は、言わば『一人の人間が二つの身体を持っている』状態だと思えばいい!」
もはや何を言っているのかさっぱりわからない。確かに、「身体がいくつあっても足りない」というのはおよそそれなりに忙しく日々を送る人間の口からほぼ必ず聞く言葉だ。それを本当に打ち破った存在とでも言うのか。DYRAはにわかに信じることができない。それでも、タヌへのあの仕打ちに納得できたわけではない。それとこれはまったく別の話だ。
「けれど、マイヨはタヌへ、あんな冷たくあたる男だったか?」
「逆だ。あれが本来の姿なんだ」
「本当か!?」
「キミが知っている案山子は、データとしての記憶は言わば焼きつけで覚えているが、感情や思い出を『自分自身のもの』として理解していない。だから学習していたんだ」
「意味がわからない!」
「要するに、外の世界で人生経験を積み重ね、齟齬や差を埋めていくんだ」
話している間にも、ハーランとフィリッポが二手に分かれて逃げる様子が視界に飛び込む。
「機械では感覚を、『肉体が受けた電気信号』としてしか残せない。それ故、経験の差からオリジナルとクローンの間にはズレが出る」
DYRAはいったん割り切った。わからないことを探求するのは、タヌを取り返し、ハーランを仕留めてからでいい。
「おいどうする?」
「私は、ハーラン、キミはガキとクソ親父。どうする? どっちがいい?」
RAAZの言葉の裏に含まれたものを理解したDYRAは即答する。
「タヌだ!」
DYRAとRAAZはハーランを追い、走る。
「あの男、何をしたいんだ!?」
「大方、ガキの命を楯に逃げるつもりなんだろうよ」
RAAZの言葉に、DYRAは疑問を抱く。
「だが、そもそもハーランはこの状態で……」
「超伝送量子ネットワークを乗っ取ることがヤツの勝利条件だった」
RAAZは前を走り、話を続ける。
「ところが、私とISLAで乗っ取りを防いだ。おまけにキミがヤツの手駒になった愚民共を残らず潰し、最後はあの双子の片割れに裏切られた。この時点で敗北確定だ」
「あの大公は」
「あれはハーランやクソ親父にはどうでも良かったってことだ」
「どうでも良かった?」
「ニムローテじゃないからな。家畜が持つには過ぎたものとして処分されたんだ。もっとも、そこはあの双子もそうだ。ま、あの兄貴はISLAを撃ちはしたが、マトモな神経が残っていたのと、小娘に免じて許された幸運の塊だ。残った時間から優先順位をつけたISLAが体よく追っ払った形だ」
ニムローテでないなら、どうでもいい。
その論理にDYRAは改めて驚いた。血を過信する理由が理解できなかった。確かに、DYRA自身、腹に落ちないという意味でよくわからないものの、親子とはそれなりに大切な守るべき尊い関係、くらいはわかる。が、何代も続いてそこまで、というのがわからない。同じくらい、顔もあわせることすらないであろうほど離れた子孫でも追い掛け回すのもわからない。もっとも、その有り得ないが起こってしまったから追い掛け回す結果だが。
「まさか、タヌとハーランが親戚だったとはな」
「私もそれだけは想像すらできなかった」
タヌを連れたハーランが階段を上がっていくのが見える。
「上だと? 上っていった先は何がある?」
「このタワーには建造中に万が一が起こったときを想定した脱出システムがあった。そいつを使うつもりなんだろうな」
聞いた途端、DYRAは舌打ちをした。
351:【TRI-PLETTE】量子の揺らぎ、心の揺らぎ。そして名も無き霊妙たる煌めき2026/04/07 20:00
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マジであったかいっすね。皆様いかがお過ごしでしょうか。
改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。
また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。レビューとか感想とかいただけると、作者は小躍りして喜びます。珈琲にケーキセットつきそうなくらいに!
一気に形成逆転な前回でしたが、ここに来て、何というまさかの「組替えか?」ってな塩梅です。
ラストまであと僅か!(フェラーリのナンバリングで終わる予定)
唯一無二のゴシックSF小説、最後まで一層の応援を、どうぞよろしくお願いいたします!
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Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とは違う、おまけに素晴らしいビッグサプライズなシーンもあります。
こちらは、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)と一緒に読むと面白さ一万倍です。
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