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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
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7話 ダンジョンの守護者

ちょっと更新に遅れてしまいました。

このペースで書けたら良いなぁ。

では、また次話でお会いしましょう ノシ

 階段を下りていくと、地下二回で見たフロアのように祭壇が置かれていた。マップを確認すると一方通行となっており、このまま真っ直ぐ進むようになっていた。この部屋と守護者の部屋、そしてアイテム神像のある部屋の系三箇所の広大なフロアとなっているようで、目の前にある入口から何者かのうめき声が聞こえた。それに、その入口の床から緑色の炎が燃えたっており、ここから先が守護者の部屋――いや、ボス部屋なのだと教えてくれている。このまま潜入するのも良いのだが、念の為にこのフロアの探索を行なった。もしかしたら、部屋に入る直前に弓矢が飛んでくるとか、鉄格子が降りて脱出不可能と言うことも考えられる。こう言うときは、念入りに確認をするべきだ。俺はまだしも、ティエさんを生かすことを考えると、念入りに確認しなくてはならないだろう。


「どうやら、トラップらしきものはありませんね」


 このフロアに対しての確認は終わったので、これから守護者のいる部屋へと入るのだが、俺はティエさんの方へと体を向けた。ここからは純粋な殺し合いが始まるのだから、身長に越したことはない。だから、この先のフロアに入る順番を決めておくべきだ。この入口を見た限り、二人一緒に入れるほどの大きさではない。なので、俺の提案を受け入れてくれるか問題だが、ティエさんに提案を伝えることにした。


「そのようだな。ただ、この先のフロアに入った途端に作動するタイプもありえる。俺が先に入るから、十秒後に侵入してくれ。場合によっては、俺を置いて逃げてくれても構わない」


「十秒後ですか――はい、分かりました。どんな事があろうと、必ずイスズさんの下へと参ります。なので、無理だけはしないでくださいね」


「了解した。では、行ってくる」


 入口の方へと向きを戻し、燃え盛る緑色の炎の中へと入って行く。炎に触れているのだが熱さは感じられず、そのままフロアの奥へと無事に入ると目の前に広大な草原が広がっていた。先ほどのフロアでは、ところどころにランタンが吊るされて明るかったのだが、このフロアに関しては違った。天井の方を見上げてみると、太陽が昇っておりとても明るい。これは間違いなく『幻影魔法』の類だろうと予想はつくのだが、それにしてもマップのことを考えるとかなり広いフロアだったはずだ。戦闘に関して言えば、幻影魔法のせいでが『床のない場所』や『壁がどこにあるのか』が目視で確認できない。なので、戦闘にとっては此方が不利になるのは間違いないだろう。


「ティエさん!! こっちに入って来ないでください!! 幻影魔法が張られている!! 俺が、解除方法を見つけ出すまでは、入ってこないでくれ」


 ティエさんの返事を待たず、その場で指を鳴らしてからフロアの中心地へと歩き始める。今現在、俺の目には魔力の流れが見えており、このフロアの中心から魔力が噴水のように吹き出し、それが天井にぶつかる事で幻影魔法が発動していた。そこまで目視で確認が出来たので、魔力が吹き出している場所に着くと右拳を強く握る。吹き出している魔力を塞き止めるのには慣れているが、この世界でも通用するかが不安である。


(この一撃で、止まってくれれば良いのだが)


 深く深呼吸をしてから右拳を引き、右拳に気を込めていく。隊長から直々に教わった殺しの技であるが、この技は『体の中に流れる気を操り、魔力の流れを塞き止め内部から爆発させる』と言う技である。ただ、この世界でも通用するか解からないが、やらなければ『この幻影』がずっと続くことになる。守護者がどこにいるのか解からない状況で、このままの状態の戦闘は流石に――いや、別に問題はないか。部屋の右隅の天井に張り付いている大型の魔物が二匹ほど此方を見つめていた。その姿はチーターに似ており、獲物である俺をジッと見つめている。本来なら、先にそいつら潰してからでも問題はないのだが、折角なので幻影魔法を解除してから戦いたいと言う気持ちから、先にこの幻影魔法を解除することにする。


「セイ」


 地面から吹き出す魔力へと向けて、体中を覆う気を全て拳へと集中させながら、吹き出す魔力へと向けて殴る。凄まじい衝撃波とともに地面が抉れ、そのまま六方向に五m程の長さの亀裂が入る。取り敢えず、地面から拳を離し周りを見渡した。幻影魔法によって作り出された光景は、先ほどの一撃で消えたようで『本来のフロア』の光景へと戻っていた。それに、地面を走っている亀裂が壁にまで入ってしまったようだ。衝撃波の影響か天井から何か落ちてくる音が聞こえ、左手で落下物を受け止めると目線だけ其方に向けた。左手に握られているのは『青紫色の水晶玉』で、どうやら『幻影魔法』の原因はコレのようだ。


(なるほどな。こいつが、原因か)


 右手の人差し指にはめられた収納指輪を使い、水晶玉を入れてから魔力を確認する。どうやら吹き出していた魔力も止まっており、もう幻影魔法の心配は起きないだろう。だが、天井に張り付いていた魔物の事をすっかり忘れており、其方へと身体を向けると天井ではなく地面に倒れていた。どうやら、先ほどの衝撃により隅っこにいた二匹の魔物が落下してしまったようだ。そして、先ほどの攻撃に警戒してか、ジッと俺を睨みつけながら震える足で立ち上がると此方へと歩いてくる。そのおかげか、ようやく魔物の大きさを再確認する事が出来た。足の長さだけで二mから三mほど有り、胴体の長さを見れば五mくらいはあるのではないだろうか。赤と黒のトラ柄模様の毛に覆われており、尻尾は大鎌の刃である。誰がどう見ても、この二匹を魔物と言うだろう。そんな二匹が唸り声を上げながら、俺を睨みつけている。


「さて、ティエさんの声が全く聞こえないのが気にはなるが、まずは現状の把握をするか」


 今度は両手を握りしめ、今度は拳に魔力を纏わせながらフロアの周りを見渡す事にした。先ほどの衝撃で地面に落下した二匹の魔物を除いて、特に変わっている様子は見当たらない。いや、一つだけある。フロアを見渡しても、アイテム神像へと続く道がないのだ。それについての疑問を除けば、フロア図面と変わらない。取り敢えず、このフロアに入って来た時の入口へと顔を向けると、入口前でジッと見ているティエさんの姿があった。もう十秒は経過しているはずなのに入ってくる気配はなく、まるで『このフロア以外の時間が止まっている』かのようだった。


(時が止まっている? いや、止まっているのではない!? ゆっくりと生唾を飲む動作が見えた。つまり、このフロアの時間が加速していると言うことか)


 現状を大体理解することができ、魔物の方へと顔を向けた。このフロアの時間が止まっている原因を考えると、この魔物たちが何か影響を与えているのではないかと予想をつける。だが、確証はない。もしかしたら、このフロア自体がそう言った構造を持つのかもしれない。ならば、確証を得るためにも現状の安全を確保するのが重要である。拳を纏っている魔力をさらに強めながら、魔物の方へとゆっくりと歩き始める。灰色の魔力が拳から肩へとかけて包むのを確認してから、そこで一時的にだが魔力の流れを止めた。その光景が異様だったようで、本来なら襲ってくるはずの魔物が一歩ずつ後退していく。


「さて、このフロアについての問題をさっさと片付けるか。まずは、この現状をさっさと終わらせるか」


 その場で指を鳴らすと、すべての光景が一瞬にして変わった。目の前の魔物は左右の壁に別れて打ち付けられ、何が起こったのか解からないような困惑した目で俺を見ている。そして、ティエさんのいるフロア方面の壁が完全に壊れ、時間加速の効果が完全に切れた。そのおかげか、ティエさんの驚く声が聞こえた。その声を無視して、両腕を組み二匹の魔物をただ見つめる。このまま一方的な攻撃を与えるのも構わないのだが、あまり進んで行ないたくはない。それに、俺の攻撃が見えていない時点で、勝敗は決しているに等しい。それでもなお、二匹は震える足を踏ん張りながら、必死に立ち上がる。そこに『生への執着』を感じ取り、ただ何もせずに見つめる。牙を剥け、襲いかかるのであれば殺すだけ。だが、先ほどの攻撃を受けても立ち上がろうとする勇気。その姿を見て、俺は『この二匹が欲しい』と言う気持ちになった。俺の魔力をその身で受け、力も思うように出ないであろうこの二匹が、よたよたと息を切らし、口元から鮮血を垂らしながら歩いてくる。その姿を見て、罪悪感で胸が痛む。だが、このまま放置するのも可哀想である。ただ、ダンジョンのモンスターに関して、連れて行くことが可能なのかが問題だ。それについては、後でティアさんに尋ねるとしよう。今は、このフロアの安全を確保するのが重要である。


「さてと。まずは、そこの二匹の行動を封じることから始めるとしよう。取り敢えず、嗅覚と聴覚を狂わせるのと、視覚の封印だな。それと睡眠と回復魔法もセットで、そーれ」


 二匹に向けて指を鳴らすと、必死に動いている足がもつれ、地面に力なく崩れ倒れた。口元から流れる血も止まったようで、先程まで苦しそうに息を切らしていたのが嘘のように気持ちよさそうな寝息を立てていた。ようやく守護者を討伐し終え、フロアに静寂が包むのを感じ取り安堵すると、ティエさんが警戒しながら俺の下へとやってきた。


「こ、これは、い、一体」


 彼女が怯えるのも無理はない。なんせ、このフロアの惨状を見れば、誰だって警戒をするのは当たり前だ。そんな光景を見ながら震えている彼女の声が聞こえ、苦笑しながらも説明をした。最初は戸惑っていたが、そこで寝ている二匹を見て納得してくれたようだ。取り敢えず、ティエさんと一緒に寝ている二匹の傍まで近づくと、急に首をかしげた。何か問題でもあるのか気になり、ティエさんへと目線だけ向ける。そして、俺は信じられない一言を聞いてしまった。


「この魔物、フロアボスじゃない? 本来、ダンジョンの魔物や守護者を討伐、もしくは長時間このように身動きが取れなくなれば、光の粒子となるか、ドロドロに溶けて消えるはずなんですが――」


 その一言を聞いた瞬間、背後から何か重い物が落ちた音が聞こえた。その音に気がつき、背後を振り返る。そこには、銀色の皮膚――いや、皮膚というより岩だな。岩が一つ一つ組まれ、心臓の位置に赤黒い大きなコアを露出させた巨人である。世間一般から言えば、これはファンタジーの世界で言う『ゴーレム』だと言える。まぁ、俺の部下のゴーレム部隊の方がカッコイイに決まっているがな。マッハ5まで加速移動が可能であり、地震の肉体の大きさを変幻自在にすることで細かな作業もできる。それに、武器を自動精錬させることも可能で、侵入者の能力を無効化させるとある力も代用させている。そのおかげで、防衛や金庫番などにとても役立っている。まさに一家に一代は欲しいゴーレムさんを作り上げたわけだ。


「どうやら、あれが本当のこのダンジョンの守護者だったわけか。すまないが、ティエさんはこの二匹を頼む。もし、このままお持ち帰り可能なら、部下が撤退した後の集落警備用の番犬にしたい。目が覚めないように睡眠魔法をかけているが、いつ起きるかわからないから見張りを――ん? どうした、ティエさん」


 ティエさんに二匹の面倒を頼もうと説明をしている最中に、ティエさんが剣を地面に落とした音が聞こえ振り返った。その表情は青ざめ、唇は震えており必死に右手人差指で蒼色のゴーレムを指しながら言う。


「お、おおおお、オルハリコン、ご、ゴーレム!? に、ににげ――」


「うっし、彼奴をぶっ殺してくるから待っていろ」


 ティエさんの言葉を遮り、そのまま両手をコートのポケットにつっこみ、微笑みながらゴーレムのいる方向へと歩き始める。それを止めようとする声が聞こえたが、何も言わずに獲物である『オルハリコンゴーレム』とか言うゴーレムを観察する。名前を聞く限り、オルハリコンと言う鉱石の塊だ。それと機動性はどうか解らないが、武器は何も持っておらず拳での殴り専門のようだ。きっと、あのコアを破壊すれば終わりなのだろうが、そう簡単に壊れるようには見えない。コアを覆っている魔力を見ると、まるで人間の瞳のように瞬きをしている。つまり、此方が攻撃を加えれば魔力の層でコアを覆う。そこに物理や魔法は関係なく、ダメージを半減させるのだろう。


(ティエさんが怯えると言う事は、それなりに強い分類の魔物と言うことか。そう言えば、この世界に来る際の資料に、魔物に関することは載っていなかったな。まぁ、そこはギルドとかに入れば閲覧出来るだろう。今は、この馬鹿でかい鉱石の塊を壊すことから始めるか)


 つい笑みがこぼれてしまった。この世界でティエさんが怯える程の存在と戦えるのだ。笑みがこぼれてしまうのは仕方がないことであり、此奴を壊したら何が貰えるのかが楽しみで仕方がない。オルハリコンゴーレムとの距離が七mくらいのところで立ち止まり微笑みを向ける。俺の攻撃をどこまで防ぐことができるのか、何発でその硬いオルハリコンで出来ている皮膚が砕かれるのか。それを想像するだけで、笑みがこぼれ楽しくなる。今思えば、こんなにも戦うのが楽しみなのは何年ぶりだろうか。殺し合いとか、そう言ったのを抜きにして考えてみるが、もう思い出せなかった。


「まぁ、いっか。さて、頼むから簡単に死んでくれるなよ? 俺を楽しませてから死んでくれや」


 俺の言葉を理解できているのか、オルハリコンゴーレムは勢いよく右腕を引くと、俺を殴り殺すために拳を振り下ろした。だが、その拳は俺には届くことなく、激しい轟音と共に途中で止まった。当然だが、俺はポケットから両手を抜いていない。だが、攻撃はまったく届かなかった。何が起こっているのか解からないらしく、自分の拳を見つめているオルハリコンゴーレムに俺は攻撃の手を緩めなかった。凄まじい轟音と共に、オルハリコンゴーレムの腹部に拳の跡が打ち込まれると、そのまま後方へと吹き飛ばされていく。これは『居合拳』と言い、俺の体に纏わせている気を居合で打ち込んでいる。ちなみにだが、魔力を使用しての居合拳も可能である。ただ、その場合はいろいろと大変なことになるのであまりオススメしない。


「さて、続きを始めようじゃないか。簡単に死ぬなよ――鉱石人形」


 その一言を告げて、オルハリコンゴーレムの右肩へと向けて居合拳を放つ。居合拳を目視できるはずもなく、簡単に右肩へと居合拳が当たる。俺の一撃で右肩が砕けたが、完全に壊れたわけではなく、拳の跡がくっきりと残った状態だった。どうやら手加減しすぎて、完全に壊すことはできなかったようだ。


「なんだ? 手加減してやってるのに、この程度で砕けるのか」


 先ほどの一撃の反動で、オルハリコンゴーレムが一瞬のけぞった。その隙を見逃すはずもなく、続けて左腕へと攻撃を放つ。左腕と言っても人間で言う『二の腕』の部分へと居合拳で殴っているのだが、手加減しているにも関わらずなんとも簡単に砕け散る。皮一枚分だけ残したまま二の腕部分が砕かれたが、やはり腕の重さに耐えられなかったのだろう。左腕が地面に落下し、地面が少しだけ振動した。何が起こったのか理解できていないようで、落下した己の腕を一瞥すると、右腕を掲げ潰そうと右手を握った状態で振り下ろした。だが、その拳も居合拳にて弾き返す。その間に、先ほど壊した左腕を修復しようと砕かれた破片が宙を舞いながら、オルハリコンゴーレムの壊れた二の腕の箇所に集まり始めていた。



Side ティア


 私は今、信じられない光景を目の当たりにした。両手をコートのポケットに突っ込んだまま、あの『オルハリコンゴーレム』の拳を止めた。Sランクの冒険者ですら、オルハリコンゴーレムの拳を避けると言うのに、イスズさんは、それを封じたのだ。どんな技を使ったのか解らないが、彼は確かにあのオルハリコンゴーレムの拳を止めた。オルハリコンゴーレムとは、その名の通り『オルハリコン』の塊で作り出されたゴーレムである。遭遇すれば、Sランク冒険者ですら逃げ出す。何故なら、体を覆っているオルハリコンの肉体に傷を付けることが出来ないからである。上級の束縛魔法を使用し、物理系のコアを破壊する以外に方法はない。だけど、今目の前に見えている光景に絶句するしかなかった。見えない攻撃でオルハリコンゴーレムの右肩や左腕を、石ころでも砕くかのように簡単に砕け散った。そのような光景を目の当たりにすれば、誰だってイスズさんをこう呼ぶだろう。


「私は、夢を見ているのかな? まるで、救世主様みたい」


 三百年前、邪神が目覚めたあの日。魔神族や人間族――いえ、この世界に住むすべての生き物が、死を覚悟したあの日。突如現れた『灰色のコートを着た人間族の青年』とイスズさんが重なった。私たちですら傷を与えられなかった邪神に対して、紙を裂くかのようにいとも簡単に傷を与えた『旅人』と名乗る青年と同じ攻撃をしている。あの青年は、最後に邪神を封印し『三百年後、俺の部下が必ず邪神を殺す。それまでは、このまま封印を解かないでくれ』と言い残し去っていった。私たちは、彼を救世主であり、我らの神だと崇め奉った。


「もしかして、あの青年の部下って」


 すごく余裕な表情で、あのオルハリコンゴーレムに攻撃を与え続けている。その光景を見て、私は確信した。イスズさん――いえ、イスズ様こそが『あの青年の部下』なのだと。そして、この世界を救う為にこの世界へと舞い降りた救世主なのだと。私はイスズ様達のことを何も知らない。イスズ様は「この世界に呼ばれた」と言う説明をして、私が納得してしまった以外、詳しく聞こうともしなかった。だけど、今は目の前で戦っているイスズ様を、ただ見守ることしか出来なかった。それは、私のそばでその光景を見ている『パンサーサイズ』も同様だ。私の隣にやってくると、その場でお座りしてイスズ様の戦いを見守っている。戦意はとうに失っているらしく、イスズ様の戦闘風景をジッと見つめている。


「凄い、ね」


 私の言葉を理解したのか、二匹とも黙って頷き見守っている。このダンジョンの最深部にパンサーサイズがいることに驚いたけど、三百年間も生きていたと言うことの方が驚きである。本当に守護者ではないのか疑問ではあるが、そのことは置いておくことにした。今は、この戦闘が終わる瞬間を絶対に見逃さないために、私はただ黙って戦うのを見届けることにした。



Side 五十鈴


「ほれ、もう一撃だ」


 修復しようとする左腕を見て、左肩へと居合拳をぶち込んだ。今度は完全に肩を破壊することに成功し、左肩が地面に落下した。この程度の威力でこれだけのダメージを与えられることを理解し、なんだか弱い者いじめしているようで気分が萎える。これなら、まだ竜仙とスパーリングしていた方がまだマシだ。だが、ミーアもいずれはこの魔物と戦うことになる。俺だからまだ良いが、この世界の住人が怯えるほどの魔物だとすると、やはりこのダンジョンを残すのは止めた方が良いだろう。折角の三百年ものだが、ここは諦めた方が良いと結論づけた。まぁ、俺と竜仙が一緒にいれば問題はないだろうが、やはりこのダンジョンは危険だ。それにダンジョンコアを再利用すれば、また若いダンジョンになるだろう。だが、三百年もののダンジョンコアと考えると、再利用するよりかはコレクションに加えたいような気もする。故に、今回はダンジョンコアを回収し、他のダンジョンを探して一緒に潜ることにしよう。


「取り敢えず、このダンジョンは今日で終わりにしておくか」


 そんな事を呟きながら、今度は右ふくらはぎ辺りへと居合拳を放つ。凄まじい轟音と共に右ふくらはぎが砕かれ、右足と胴体が完全に別れてしまった。片足だけで全体重を支えられるはずもなく、うつ伏せするように倒れ込んだ。もう左腕と右足が使い物にもならず、起き上がることすら出来ないのであろう、起き上がろうと必死にもがいていた。どうやらオルハリコンゴーレムには、自己再生能力がないようだ。もしくは回復に間に合っていない可能性もあるが、砕かれた箇所の破片がオルハリコンゴーレムの下へと戻ってくる気配はなかった。


(もしかして、俺の攻撃を受けすぎて回復機能が麻痺したのか? もしくは、回復を常に行なっていたが、それを上回る打撃を与えていた事で回復機能が壊れてしまったか。どちらにしても、もう動けそうにないか)


 オルハリコンの欠片が地面に転がっているのを見ながら、動けなくなったその姿を見つめる。このまま放置しても良いのだが、ここで息の根を止めるのが情けだろう。一方的な戦いではあったが、こうして俺と戦ってくれたのだ。ならば、その礼として一撃でその命を抹消する。大地が揺れ、空気が一瞬にして熱せられる。気を魔力へと変更し、空気が一瞬にして重くなった。体中に灰色のオーラが覆うのを確認し、対象であるオルハリコンゴーレムのコア部分へと向けて居合拳を振るう。轟音は消え、その一撃は無音。すべてを一瞬にして屠る灰色の拳にて、オルハリコンゴーレムのコアは完全に砕かれた。だが、それだけではなかった。オルハリコンゴーレムの硬い肉質――いや、鉱石ごと、地面に直径約十m、深さが約五十cmの巨大な穴を開けた。その一撃により、オルハリコンゴーレムは完全に死んだ。そして、光の粒子になって消滅する姿を見届け、放出している魔力の流れを閉じオーラを消した。穴の空いた場所へと向かい、ドロップしたアイテムを確認する。約五十cmの深い穴に光の粒子が集まると、ドロップアイテムが出現した。いや、出現と言うより生えてきたと言ったほうがしっくりくる。なんせ、目の前に『蒼色のインゴット』の山が急にニョキッと生えてきたのだ。まぁ、これだけあれば鍛冶屋担当の部下も喜ぶだろうし、持って帰ることにしよう。まず、これを使って何を作るかが問題なのだが、そこは部下たちに任せる。


「ふぅん。この程度の魔物で、これほどのオルハリコンを入手できるわけか」


 収納指輪を結晶柱へと向けると、指輪の宝石が赤く発行し光が放射された。インゴットに光が当たると、そのまま指輪の中へと収納された。指輪の中へと収納が終わると、突如フロアの何かが開く音が聞こえた。その音の方向へと顔を向けると、先程までなかった道があった。どうやら守護者を倒したことで、アイテム神像への道が開いたようだ。このままアイテム神像へと向かうのも良いのだが、今はティエさんの下へと向かうことにした。


「ティエさん、無事か? って、言うのも変な話か。怪我もしてなさそうだし、そこの二匹は良い子にお座りしているし。で、どうしてティエさんは正座しているんだ」


「い、いえ、なんでもありませんよ!! そのぉ、もしかしてですが、イスズ様は、あの旅人様の部下様でございますか」


「――ぇ、何故に様付け? あぁ、そう言えば急ぎの要件が多くてティエさんにちゃんと説明してなかったか。ティエさんが言った通り、俺はその旅人の部下だ。詳しい話は後でちゃんとする。それまでは、詳しい話は後でしよう。あと、俺のことは『五十鈴さん』で良いから、そんな緊張しないでくれ」


「わ、分かりました」


 緊張は未だに解けきれていなようだが、幾分よりはマシになった。なので、取り敢えず今は俺の事情について説明するのは止めた。ここはダンジョンの中である。このダンジョンに潜った以上、アイテム神像に眠るお宝の回収をしなければならないのだ。


「さて、そこの二匹も一緒に来るだろ? 来るのなら、首を縦に振れ。来ないのなら、首を横に振れ」


 どうやら二匹とも俺と戦ったことで逆らえないと思ったのか、つぶらな瞳で俺を見つめながら首を二度縦に振った。何故だろう、この二匹をずっと撫でまわしたいと言う衝動に駆られる。いや、ここは我慢せねばならない。まずは宝とダンジョンコアを入手し、地上に出てから集落の修復状況の確認。その後は、ミーアへの教育の進展状況と副隊長からの手紙の内容確認とティエさんに説明をせねばならない。あぁ、時間が足りん。足りないのなら作るまでだ。仕事を効率よく回した後に、この二匹を撫でまわそうではないか。

 ある程度、方針が決まった。俺はティエさんと二匹の魔物を見て頷いてから、アイテム神像のある部屋へと歩き始める。時間は有限だ、さっさと終わらすに限る。それに、今思い出したのだが、このダンジョンから発していた不思議な力についても解明せねばならない。もし、その力がダンジョンコアから放たれているのならば、さっさと回収して調査する必要がある。なので、さっさと目的地へと向かうことにした。


「よし。では、さっさと目的の物を回収して帰るか。行くぞ」


「はい!! さぁ、行きましょう」


「「ガウ」」


 先ほどの戦闘の傷跡により、ほとんどの壁に亀裂が入っているが崩れる気配はなかった。どうやら、ダンジョンコアによる修復能力で先ほどあけた穴が埋まり、壁の穴や亀裂が徐々に修復されている。だが、時折聞こえる砂が落ちるような音が気にはなるが、崩落することはもうないだろうが、今ダンジョンコアを抜けば確実に崩落するだろう。ちょっと遊びすぎたようだ。そうなると、完全にダンジョンが修復されてから回収する方が良いだろう。


(ダンジョンが崩落するようなら、拳で穴を開けて脱出する。まぁ、普通に殴れば巨大な穴を開けられるだろうし、さっさと終わらせるか)


 そんな事を考えながら、最後のフロアである『アイテム神像』のあるフロアへと向かった。


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