表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
9/90

8話 アイテム神像に眠る者

なんとか8話を書き上げました。

さて、次話に向けて頑張るとしようかな(汗

 守護者のフロアを攻略してドロップアイテムも回収し終えたので、ティエさんと二匹を連れてアイテム神像のフロアの前で立ち止まっている。理由といえば、アイテム神像のフロアにもトラップが配置されている可能性もあるのではないかと考え、フロア前で止まっているわけだ。それに俺はこの世界のダンジョンについて、まだ詳しいことが分かっていない。なので、ここはティエさんに聞いてみるべきか悩んでいる。だが、ここで時間を浪費するのも無意味だと思い、ティエさんの方へと向きを変えて話しかけた。


「ティエさん、少々お聞きしたいことがあるのだが」


「はい、なんでしょうか? 私で解かる範囲で宜しければ、お答えします」


 瞳を輝かせながら俺を見つめるティエさんを見て、一体何があったのか一瞬だけ引いてしまった。なんと言えば良いのだろうか、俺に対して『憧れの目線』とでも言うべきか。そんな熱い視線と瞳を輝かせている。取り敢えず、俺の質問には答えてくれるようなので、ティエさんに質問をする事にした。


「ぁ、あぁ、ありがとう。質問は三点だ。まず一つ目だが、すべてのダンジョンに共通する話だが、アイテム神像に侵入者を排除するようなトラップは配置されるのだろうか」


「そうですね――まず、ないですね。基本、アイテム神像のフロアはダンジョンに住む守護者を倒し、攻略した者へのご褒美だと思って良いと思います。それに、トラップが配置されたと言う話は聞いたことがありません」


「なるほど、一つ目の疑問が解けた。ありがとう」


 経験者であるティエさんからの回答を聞き、アイテム神像内部では警戒する必要はないようだと少し安心した。ならば、このまま俺が先行してフロアに潜入する必要もなさそうだ。部屋の入り口は、俺とティエさんが横に並んでも余裕で通れるほどの大きさはある。なので、このまま並んだ状態でフロアへと向かうことにしよう。


「イスズさん、残り二つの質問はなんでしょうか」


 ティエさんが微笑みながら、残りの質問を聞いてきた。一瞬だが、ティエさんの微笑む表情が、殺人鬼と呼ばれていた頃に俺が殺した『あの少女の微笑み』と重なり、記憶がフラッシュバックした。綺麗だった漆黒の長髪は所々に白髪へと変わっており、茶色い瞳はジッと俺を見つめている。だが、左の瞳だけ『真紅色』に染まっており、両目の眼球は血走っていた。それに、少女の着ている白いワンピースには、赤黒い斑点模様のシミがところどころについている。ワンピースなため、アルビノの素肌が露出している。きっと、この研究棟に来る前は、人形のような可愛らしい少女だったはずだ。それなのに少女の右腕には、何度も繰り返し注射された痕が残っており、その部分が若干ではあるが黒ずんでいる。そして、左肩から指先にかけて、全部が壊死しているのか真っ黒になっていた。それを見てしまい、俺は怒りが込み上げてくる。

 しばらく少女を見つめていると、何を思ったのか「えへへ」と微笑みながら右手で頭を掻いた。だが、そのせいで髪の毛が数本――いや、多分十本以上は抜けただろう。それを見た少女は、涙を見せるどころか微笑みながら、俺に向けてたった一言を告げた。


『お願い、お兄さん。私を――うぅん。私たちを、殺して』


 少女の無垢な笑みから発せられるその一言に、手に握っているサバイバルナイフに力が入った。その少女の一言に対し「何故、俺はこの子たちを殺さなければならないのだ」と何度も心の中で叫んでいた。何とかして、少女を――彼女たち『実験体』を救いたかった。死ではない、生きて幸せになって欲しいという願いがあった。だが、少女の想いは強く、死を望んでいた。だから、俺は涙を流しながら、手に握っているサバイバルナイフで首を斬り落とした。彼女たちは何年もの間、生物兵器の実験体として度重なる苦痛を与えられたのだと思うと、俺は研究者たちに怒りを覚え、彼女のような苦しみ続けた人を救うことが出来なかった己を恨み、生物兵器に関わる全ての存在を一人残さず殺すと心に誓った。


「あの、イスズさん? 顔色が悪いですが、大丈夫ですか」


 ティエさんの声が聞こえ、現実に引き戻された。あの日のことを思い出すたびに、一瞬だが殺意が湧いてしまう。もう過ぎたことなのだが、未だにその怒りが収まることはなかった。だが、今ここで感傷に浸っている場合ではないので、その場で深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして、いつものように頭を掻きながら、苦笑しつつ答えた。


「あぁ、大丈夫だ。ちょっと考え事をしていただけだから、心配しないでくれ。では、残り二つの質問について、聞かせてくれ。アイテム神像と言うフロアについて初めて聞くのだが、アイテム神像とは『何を祀っている』のだろうか? 神像と言うのだから、何か神を奉るために作られた部屋なのだろか。そして、最後の質問だが、アイテム神像のフロアだ、魔物などの侵入は許されるのだろうか?安全な場所だとは思うのだが、魔物が侵入して来る事はないのだろうか」


「なるほど。確かに初めての方なら、そう思いますよね。では、その疑問について説明させてもらいますね。もともと、ダンジョンは女神『メルト』様が創り出すのです。そして、ダンジョン最深部に居る守護者を倒した者に対して、そのご褒美として『アイテム神像』と言う宝物部屋を創り出したのです。ちなみに、アイテム神像にはメルト様の像が置かれており、その像の下に宝箱が配置されております。また、ダンジョン内にいる魔物に関してですが、アイテム神像には入って来ることはありません。ダンジョンに住んでいる魔物は、侵入者を排除すると言う命令に従っているらしく、守護者を倒されると『その日だけ』ダンジョン内にいるすべての魔物が消滅してしまうのです。なので、アイテム神像に入ることは絶対にありえません。ただ、外部――つまり、ダンジョンの外から侵入した魔物については、ダンジョンの魔物とは別枠なので消滅することはなく、アイテム神像内に入ることが可能です」


「なるほど、そう言うことなのか。ティエさん、俺の質問に答えてくれてありがとう。これで、疑問が晴れたよ」


 ティエさんの説明を受け、後ろにいる二匹の魔物も連れて入れることが解かった。そして、俺がこの世界に来て最初に殺した『神々』の事も思い出してしまった。死刑執行したとは言え、彼ら神々が犯した罪は重い。特に、アリアへの説明もせず、あろうことか苛め行為を行なったこと自体が間違っており、彼らは全く反省する姿勢を見せなかった。だから、見せしめにまず一人目をその場で殺した。確か、その最初に殺したのは女神だった気がする。そう言えば、その女神の首を掴んだとき『メルトを守るぞ』とか言って、何人かの神が此方に牙を向いて来た覚えがあった。まぁ、その場で女神の首をへし折り、そのまま牙を向けた神々を一瞬で皆殺しにしたので、どれが何の神様なのかなんて覚えてもいない。ただ、その女神の首を掴んだときにアリアが「メルトちゃんだけは、殺さないで」とか叫んでいたような気もする。


(まぁ、あの後、嬢ちゃんに全て一任しているわけだし。多分だが、神々を生き返らせているだろう。この世界を救うとなれば、神々の協力も必要だろう。はぁ、面倒なことにならなければ良いのだが)


 災厄なことが起こらない事を祈りつつ、入口の方へと体の向きを戻した。此処からでもアイテム神像部屋の内部が見え、宝箱が置かれている「祭壇」を確認することが出来た。ピラミットの様に五段の階段を上った先に、宝箱が置かれた台座がある。そして、どういう原理で浮遊しているのか解らないが、ダイヤモンドのような綺麗なクリスタルが宝箱に挟まれるように配置されている。宝箱と同じ高さはあろう巨大なクリスタルの美しさに、あれがダンジョンコアだと理解し目を丸くしてしまった。確かに、これほどの大きさで輝くダンジョンコアなら売買の金額が高額になるのも頷ける。それに、三体のクリスタルで造られた女神像が、二つの宝箱とダンジョンコアを見守るように置かれているのを見て、この場所が神聖な場所なのだとすぐに理解できる。取り敢えず、ティエさんが安全な場所だと言っていたのだが、守護者のフロアの件もあり、何が起こるかわからないため警戒をしながら内部へと入る。


「此処が、アイテム神像のフロアか」


 アイテム神像に入ると、そこはダンジョンとは異質な場所だった。綺麗な草花が咲き乱れ、水の流れる音が聞こえる。それは、まるで『憩いの広場』とでも言えば良いのだろうか。とても綺麗な場所で、ここがダンジョンなのかすら忘れてしまいそうなほど、とても長閑な空間が目の前に広がっていた。


「白き竜に恋焦がれ、我唄う。白き君の歌を」


 フロアに入って数秒後に、本来ならありえないはずの声が聞こえた。それも女性の声である。いや、正確に言えば『少女』の声と言えば良いのだろうか。そのくらい若い声が聞こえた。その声がどこから聞こえたのか探るために、周囲を見渡してみたのだが誰もいらなかった。それだけでも不気味なのだが、このフロアを覆う不思議な力を実際に感じ取り、懐かしい感覚に襲われた。それは、なんと言えば良いのだろうか。そう、嬢ちゃんと隊長たちの放つ「あの力」にどことなく似ていた。つまり俺と同じ旅人か、同胞かの二択になるわけだ。


「黒き姫に恋焦がれ、我叫ぶ。黒き君の名を」


 そのフレーズを聞き、俺はあまりの動揺から周囲を警戒した。そして、気がついてしまった。俺の隣を歩いていたはずのティエさんや二匹のパンサーサイズの姿がなかった。どうやら結界か何かで、俺以外の侵入を封じたようだ。だからだろう、今は俺以外に誰もいなかった。ティエさんの気配はするのだが、あの二匹の魔物の気配がなかった。一体何が起きているのか分からず、状況を判断するために二通りかの思案を出した。一つは、先ほどの守護者との戦闘前に起こった『幻影魔法』である。だが、今この場所に魔力反応が一切なく、この思案は必然的に間違いである。もう一つは、俺たち旅人が扱える『隔離空間』と言う能力だ。これは魔力を使用せずに発動が可能であり、旅人なら誰もが使用できるポピュラーな能力だ。もし、この空間がそうだとすれば、旅人の誰かが能力を発動したのかもしれない。だが、この世界には俺たち以外に旅人が来る話は聞いていない。


(まさか、ここは隔離空間の中と言うのか? しかし、このような芸当が出来るのは旅人だけ――いや、一人いるか。嬢ちゃんが此処に来たという確証もないのだが)


 いろいろと考えていると、どこからか視線を感じ振り返る。すると、そこには二人の少女が此方を見て笑っていた。二人の少女は黒いフリルのドレスを着ており、真紅の瞳は俺を見つめ、背中まである白髪は三つ編みに編まれている。先程まで誰もいなかったはずなのだが、今は二人の少女が俺の目の前に立っている。


「あら、その歌を知てるなんて悪い子ね。それとも、死にたがりなのかしら? その歌は禁忌であり、破砕の歌よ。その歌を歌えば、その身を滅ぼすと知っているのかしら」


 背後から聞こえる懐かしい声が右耳の方から聞こえ、俺は溜息を吐きつつ何も言えずにいた。なんせ、この場所にいるはずがない声が聞こえたのだ。俺はどう反応すれば良いのか解らないが、取り敢えず言えることがある。なので、懐かしい声の主の方向へと顔を向けてから溜息を吐いた。


「ハァ。嬢ちゃん、仕事はどうした」


「あら、ダーリンじゃない。この場所で会うなんて、私たちの愛の深さの賜物かしら? 後、仕事のことなら、ダーリンが心配するような問題はないわ。アリアは試験会場に行っているし、他の部下たちに私の仕事を任せているわ。それに、この世界の駄神を復活と説教をして、今さっき送り返したところなのよ。で、少し暇になったからダーリンのお気に入りの『ミーアちゃん』だったかしら? その子へ会いに行こうと思ったのだけど、この場所から懐かしい気配を感じてね。このまま放置すると危険だと思って、仕方がなくこの子たちに会いに来たのよ」


 とても楽しそうな声で説明する嬢ちゃんが此処にいた。いつものドレスではなく、今日はスーツ姿で来たようだ。腰まであった白髪は三つ編みにしており、瞳の色に触れなかったが今日は『深い緑色』だった。いつもなら俺と同じ瞳の色なのだが、今日の気分は緑色だったようだ。微笑みながら嬢ちゃんは俺へと目線だけ向けると、両手を後ろに組んで目の前にいる二人の少女へと問いかけた。


「ところで、貴女たちは『本物』かしら? それとも、ただの『偽物』かしら? それとも、ただの女神の生き残ろかしら」


「「?」」


 少女たちは俺たちを見ながら、不思議そうな表情をしたまま首をかしげた。どうやら嬢ちゃんの言っている意味を理解できていないらしく、俺に助けを求めるような目線を向けてきた。少女たちが理解できないのは仕方がないことで、俺ですら何を言っているのか理解できないでいる。それに気がついたらしく、嬢ちゃんは深い溜息を付いて説明を始めた。


「全く理解できていないのね。ハァ、わかったわ。貴女は、本物の狂い神なのか。それとも偽りの狂い神なのか。それとも女神なのかって、聞いているのよ」


 嬢ちゃんの問いを改めて聞いたのだが、二人とも首をかしげた。まだ言っている意味が解らないのだろうか。いや、解かっているからこそ『何故、その質問をするのか』と言う意味を込めての首をかしげているのだろうか。俺は何も言わず、このまま嬢ちゃんたちの会話に参加せずに聴き続けることにした。


「もしかして、貴女たち自身が何者なのかすら、解かっていないのかしら」


「その通りですの。私たちは三百年もの間、此処で寝ていたので忘れてしまったですの」


「でも、貴女を見ていると懐かしいですわ。何故なのかしら? 何か、大切なことを忘れているような気がするのですわ」


 少女たちは微笑みながら懐かしそうに微笑むのを見て、初めて嬢ちゃんと出会った時のことを思い出した。それに、微かにだが間違いなく『狂い』の力を感じ取れた。つまり、この少女たちは狂い神なのではないだろうか。だが、微かに感じ取っただけで、本当に狂い神なのか解からない。そう考えると、どうして忘れているのかが疑問である。三百年間も眠っていても、狂い神は絶対に記憶を失うことはありえない。


(もしかして『記憶の書架』が機能していないのか? 故障しているから、忘れてしまったと言ったのか……。仕方がない、俺の力を使用するべきか)


「記憶の書架に異常が出たのかもしれないわね。ダーリン、此処は私が彼女たちと話をしているから、この隔離空間をどうにかする方法を見つけ出して欲しいの」


 どうやら俺の考えていることが解っていたらしく、少女たちのことを任せて良いようだ。ならば、嬢ちゃんの言った通り隔離空間の解除に専念することにしよう。なんせ、このまま解除方法が解らないままだと、この空間から抜け出すことができなくなる。つまり、未来永劫ずっとこの空間に閉じ込められる事になるわけだ。他世界に戻るのならば問題はないのだが、また此方へと戻るとこの場所に強制的に戻されてしまう。なので、すぐにでも解除しなければならない。


「解かった。だが、彼女たちの記憶について解かる範囲で良い。この世界の情報が今は欲しいんだ」


「あら、アリアからの情報では足りなかったのかしら? ちゃんと本にして渡したと思うのだけど」


 不思議そうな表情で俺に言う嬢ちゃんを見て、その場で一度溜息を吐いてからアリアから貰った情報について抜けていた情報について嬢ちゃんに説明をする。


「あぁ、それなんだが――ちょっとばかし欲しい情報が抜けていてな、追加と言う名目でもう少し詳しい内容が知りたい。種族については詳しい内容は解かったのだが、ダンジョンに関しての詳しい内容が書かれていなかった。出来れば、その情報も踏まえて欲しいんだ。情報が正しいかの裏取りは此方で行なう。だから、試験が終わったあとで良いから、情報の提出をお願いしたい。後は、彼女たちの情報も頼む。もし、彼女たちが本物なら、邪神についての情報の正当性が怪しくなる。隊長は、俺に『一人の狂い神』を封印したと言っていた。だから、詳しい情報を頼む」


「そう言うことね――解かったわ、ダーリン。その件については、私がちゃんとしておくわ。では、お願いするわね」


 嬢ちゃんにすべてを任して、隔離空間の方に専念することになった。この隔離空間を創り出した者の意図を想像し、今すぐにでも隔離空間を発動させている物を特定しなくてはならない。隔離空間を長期間発動させると、力の影響を受けてアイテムに変化することがある。その力によって永久的に隔離空間を創り出すことができる。それがどれほど危険なのかを理解しているからこそ、すぐにでも見つけ出さなくてはならない。取り敢えず、今はそのアイテムを見つけ出すためにフロア内を探すことにした。

 しばらく探していると、フロアの隅々を探してみたが見当たらなかった。なので、アイテム神像の祭壇の方へと向かい、何かないか調べることにした。祭壇には二つの宝箱以外にめぼしい物はなく、クリスタルで作られた女神像がジッと俺を見下ろしている。女神像に何かあるのかと思い、左右の女神像を調べてみたがコレと言って変わった物は見当たらない。最後に、宝箱の背面に立っている女神像を調べる。


(ん? この像、なんか変だ)


 女神像の足元に触れて見ると、若干ではあるが『俺と同じ力』を感じた。ジッと女神像を見上げながら、足元――いや、ふくらはぎの場所を何度か触ると、旅人の持つ力を感じ取れた。つまり、この女神像が『隔離空間』を作り出している原因だと結論が出た。そうなると、この女神像をどうにかしなければならない。ただ、未だに話し合いをしている三人に一度相談をしなければならない。今、此処で回収や破壊をしたらティエさんになんて説明をすればよいのか困るからだ。いきなり居るはずのない少女が三人もいたら、誰だって驚くだろう。なので、今は三人のいる場所へと戻ることにした。


「あら、ダーリン。調べ物は終わったのかしら」


 いつ用意したか解からないのだが、白いテーブルに紅茶セットが置かれており、テーブルと同じ材質で作られた椅子に三人が座っている。貴族のお茶会とでも言えば良いだろうか、三人とも優雅に紅茶を楽しんでいた。嬢ちゃんは俺に気がついて、微笑みながら紅茶の入ったカップを指にかけ、口元へと寄せ紅茶の香りを楽しんでいた。


「あぁ、取り敢えずは終わった。この隔離空間を発動させているモノは見つかった。あのダイヤモンド女神像が発動させているようだが、回収するか破壊するかで悩んでいる。芸術的に良い物だから取って置きたいが、俺の家に置けるスペースあっただろうか。なければ壊すしかないのだが、どうするべきか。取り敢えず、発動させているモノは見つかったから、嬢ちゃんたちはこれからどうするか聞こうと思ってな。で、話し合った結果はどうなった」


「そう。今のところ、目覚めてから数日の事しか思い出せないらしいわ。取り敢えず、彼女たちを連れて帰ることにします。一様、名前と文字の書き方は忘れていないから、私たちの住んでいる世界への迎えるにあたっての書類に目を通してもらったところよ。あと、飾れる場所はあるから、持って帰ってきて良いわよ。ついでに、ココのダンジョンコアもお願いね」


「あぁ、解かった。二人とも、嬢ちゃんの誘いを受けたって事で良いんだな? 後悔はないと思って良いんだな」


「「えぇ、構わないわ」」


 二人の少女が息の合った返答をした。双子の姉妹なのかもしれないが、詳しい内容は後で嬢ちゃんに聞こうと思ったのだが急ぎのようで、指を鳴らしてゲートを開いていた。いつもなら俺が開くのだが、今回は嬢ちゃんがゲートを開いた。つまり、この件は急ぎの要件なのだと理解した。ならば、此処は今一番聞かなければならない事について聞くことにしよう。何を聞くかと言うと、嬢ちゃんが『何故二人を連れて帰ることになったのか』についてだ。検査なら、この世界でも可能なはずだ。それでも連れて帰らねばならない理由とは何か。それを聞く必要がある。


「そうか。ところで、念の為に聞いておきたい。何故、二人を連れて帰るのか理由を教えてくれ。検査なら、この世界でも問題なく出来ると思うのだが、何故連れて帰らねばならないんだ? それ程、彼女たちの状況が拙いのか」


「そうねぇ。ちょっと、彼女たちに精密検査を受けてもらう必要があるの。この子たちは間違いなく私たちと同じ存在なのだけど、偽物が生まれた事で本物である彼女たちに深刻なダメージを受けた可能性があるの。そのダメージが原因で、一部分しか記憶を思い出せないと判断してね。この世界での検査中に、偽物が接触するのは拙いと思うの。だから、今回は彼女たちを連れて帰り、偽物の狂い神を『本物』へと進化させる必要があると判断したわ。だから、その間に彼女たちを検査して、体や精神へのダメージがどの程度なのか、回復までにどれだけの時間がかかるのかを、確認しなくてはならないの」


 嬢ちゃんが真剣な表情で言うのだが、この子たちを連れて帰ることが可能なのだろうか。それについて疑問が過ぎったのだが、嬢ちゃんの事だから問題は起こらないだろう。嬢ちゃんとは長い付き合いだから、この子たちを任しても問題はないだろう。それに、記憶を一部しか思い出せない状況はかなり拙い。もしも嬢ちゃんが言っていた通り、この子たちが『本物』ならば、保護するのは絶対に必要が出てくる。それに、偽物を本物に進化させれば、此方としても仕事がやりやすい。この世界を救うのが不可能と言う理由が、この子たちに関するのならば、この世界を救える可能性も少しは出てくる。


「そうなの。私たちもちゃんと回復して、この世界を見守るの」


「でも、それが現状不可能と言われたのですわ。だから、私たちは始祖様の下で回復をし、本来の私たちの姿に戻る必要があるのですわ」


「本来の姿か。解かった、今回は嬢ちゃんに一任する。嬢ちゃん、竜仙以外の部下全員は帰還させるつもりだ。今後は、脳内での情報のやり取りをメインにしてくれ。なにかあり次第、随時報告を頼む。嬢ちゃんなら、大丈夫だよな? なんてたって、俺の妻なんだから」


 嬢ちゃんに向けて伝えると、嬉しそうに「あら、ようやく認めたわね。嬉しいわ、ダーリン」と言って、微笑みながら頷いた。そして、そろそろ時間のようで、二人の少女は椅子から降りてゲートの方へと体を向けた。何やら思うことがあるようで、手をつなぎながら俯いていた。そんな二人を見てか、嬢ちゃんは椅子から降りると指を鳴らしテーブルや椅子などを消し、少女たちの間に入り握っている手を優しく両手で包んだ。その表情は慈愛に満ちた聖母のような、とても優しく微笑むと二人に向けて言った。


「大丈夫よ。貴女たちは私がちゃんと守ってあげる。それに、この世界はダーリンが何とかしてくれるから問題はないわ。だから、安心して一緒に行きましょうね」


 嬢ちゃんの言葉を聞いて黙って頷くと握っている手を離し、嬢ちゃんの手を握りゲートの方へと歩き出した。どうやらもう心残りは無いようで、迷いなくしっかりと大地を踏みながら向かっていく。彼女たちが記憶を思い出すまでに、どれほどの時間かかるのだろうか。知る限り、記憶を失うほどのダメージを負うなど聞いたことがない。だからこそ、どれほどの時間がかかるのか予想ができない。今は嬢ちゃんに二人のことを任せるしか、俺には方法が思いつかない。取り敢えず、三人がゲートの中へと入りゲートが消えるのを見届けてから隔離空間を解除する作業に入る。


「さて、まずはこの『クリスタル女神像』に対してどうするかね」


 隔離空間を発動させている女神像の前に立ち、ゆっくりと右手を石像の方へと向ける。大気中に流れる『自然の力』を手のひらへと集めながら、小さな蒼い球体が現れ徐々に大きくなっていく。その大きさは占い師がよく使う水晶球と同じ大きさになるのを見届け、蒼い球体をビー玉サイズまで圧縮させていく。


「波動、殺」


 水のせせらぎをかき消す様に、目の前の蒼い球体は風を飲み込むような轟音を放っている。それを握りつぶすと、長さ三十cmの鋭い針へと姿が変わった。両端が鋭く尖っており、クリスタル女神像の右太ももへと向けて突き刺した。すると、女神像の中へと飲み込まれていく。クリスタルの内部に完全に飲み込まれるのを見届けると、何かが砕かれる音が室内に響いた。すると、背後から俺の名を呼ぶティエさんの声が聞こえたので振り返ると、そこには心配そうに俺を見つめているティエさんと、目をまん丸にした二匹の魔物がいた。


「い、いきなり、イスズさんが消えたので、驚きましたよ!! 一体、何があったのですか」


「いや、ちょっとな。それよりも、さっさとアイテムを回収して帰ろうか」


 何があったのか解らないようで、俺の目の前にある祭壇へと歩いてくる。ティエさんが来る間に、この女神像を回収しようと思った。だが、俺は重要な点を聞くのを忘れていた事を思い出した。この女神像は回収して良いものなのだろうか。回収しては駄目なら、壊さなくてはならない。だが、回収する気満々だったため壊す気にはなれない。取り敢えず、ティエさんに聞く必要がある。


(あぁ、どうしよう。壊せば良かっただろうか)


 そんな事を思いながら、もう一度だけ背後に立っている女神像へと顔を向けた。そこには、嬢ちゃんと同じように慈愛に満ちた表情の女神像が、俺を見下ろすように立っている。女神像とは言え、俺が一度は殺したのだ。また出会うだろうが、その時に彼女がどんな反応をするのか、少々楽しみではある。


「お待たせしました。どうしました、イスズさん」


「あぁ、このクリスタル女神像を持って帰ろうかなぁと思ってな。ティエさん、一つ聞きたいのだが、女神像は持ち帰っても良いのだろうか」


「女神像ですか。なるほど、確かに――あれ? 何故、女神像が三体もあるのかしら? 本来なら、二体しかないのですが」


 ティエさんが首をかしげた。どうやら、女神像が三台もあることが不思議なようだ。そうなると、この三体目は自然と女神像に変化したようだ。なら、回収してしまった方が良いだろ。


「そうなんですね。ところで、この女神像を持って帰りたいと思うのですが、冒険者の方々は持ち帰ったりしないのですか? 出来れば、その点も詳しく教えていただけないでしょう」


「はい、そうですね。ダンジョンコアを回収する際は持って帰りますが、それ以外では持って帰ろうとはしませんね。ダンジョンを殺した後、女神像を使用してダンジョンを蘇らせる事はあります。これについては冒険者ギルドのギルド長が、新米冒険者の為にダンジョンを蘇らせるのに使用されます。女神像二体あれば、ダンジョンを蘇らせられるので一体くらいなら、個人の目的で貰っても良いはずですよ」


「ティエさん、ありがとうございます。では、この真ん中にある女神像を貰っていきますね」


 嬉しそうに説明してくれたティエさんに感謝しつつ、隔離空間を発動させていた女神像を回収しようとした。だが、今後のことを考えて三体とも回収するべきと思い、どうするべきか悩んだ。なんせ、三体とも同じ形の女神像なのだ。このまま三体を回収すると、混ざってしまい解からなくなる。だが、それでも良いかと思い、収納指輪で女神像を回収した。すぐに残りの二体を回収しようとしただが、ティエさんが収納指輪を使用して二体の女神像を回収して微笑みながら言う。


「流石に混ざってしまうと困ると思いまして、先に回収させてもらいました。さて、では宝箱の中身を確認しましょう。当然ですが、今回でこのダンジョンを殺すのでダンジョンコアを回収します。ただ、これ程の純度になりますと、復活は不可能でしょうからイスズさんに譲りますね」


 宝箱の中身にとても興味があるようで、ダンジョンコアを頂けると言うことになった。本当に貰えるとは思わなかったが、ここはティエさんのご好意に甘えることにしよう。それに、ダンジョンコアを回収して調査すれば、俺の手でも作り出すことが可能かもしれない。そして、初心者専用のダンジョンを作り、ティエさんと協力してミーアの成長を手助け出来るはずだ。これからのことを想像し、ある程度の案が決まったところで、ティエさんの傍へと向かい宝箱の蓋を開けることにした。


「さて、何が手に入るのでしょうか。すごく楽しみです!! どんな物が入っているのかな」


「そうですね。どんな物が手に入るのか、俺も楽しみです」


 お互いに見つめ合いながら微笑むと、俺は左の宝箱を、ティエさんは右の宝箱の箱を開いた。俺の宝箱の中には『黒色の鞘に収まったナイフ』だった。グリップ部分は黒く、鞘から短剣を引き抜くと緑色の刀身と刃の部分が赤かった。ただ、刃の部分はギザギザになっており、ノコギリの刃に似ていた。


「ほぉ、これは上等なナイフだな。後で、このナイフについて鑑定しておこう。ティエさんの方はどうだった」


 ナイフを鞘に戻してからティエさんの方へと顔を向けると、綺麗な紫色の水晶球を両手に抱えるように持っていた。俺は武器で、ティエさんが水晶なのはどうかと思ったのだが、ティエさんは何故か解らないのだが興奮していた。目を見開き、必死に俺に見せるように水晶球を向けて言った。


「こ、コレは!! 私も初めて見ましたが、コレは秘宝です!! これは『祖龍の瞳』と言いまして、私たち竜人族にとって秘宝とも呼ばれているモノなのです」


 すごく嬉しそうに見せる水晶球に、俺はただ「そうなのか」としか答えられなかった。それほどの高価な物なのだとは知らなかったが、ティエさんは水晶球を収納指輪に入れた後もすごく喜んでいた。そうなると、このナイフも同じ祖龍に関するアイテムなのだろうか。推測しか出来ないが、取り敢えずナイフを収納指輪に入れた。


「さて、ダンジョンコアを回収して帰るか」


「はい!! さぁ、帰りましょう」


 ダンジョンコアを収納指輪に入れ、俺たちはアイテム神像を後にした。ダンジョンが死んだことで、ダンジョン内に色鮮やかな結晶などが現れた。一人だけでは無理なので、ティエさんと協力して結晶を回収していく。この結晶について聞くと「これは、魔結晶です」と言っていた。ダンジョンから手に入る魔結晶は高価なため、魔術師や魔法研究が欲しがるため、魔結晶を販売している商人が高価格で買取ってくれるらしい。


(これで、必要な資金や旅の準備が整うな。後は、集落の修復とミーアの教育が終われば、この集落からの旅立ちか)


 俺はこれからのことを考えながら、ティエさんと二匹の魔物を連れてダンジョンを出るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ