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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
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6話 道具のダンジョン

えぇ、2月最終日に無事投稿が終わりました。

もう少しで、このダンジョンの話も終わり、本当の意味でこの物語が進みます。さて、守護者はどんな魔物を出そうかな(まだ考えておりません)

では、また次話で会いましょう ノシ

 部下が旅館へと向かって行ったのを見届けてから階段を下り、俺とティアさんはダンジョンの入口で立ち止まった。ダンジョンの入口前で、何故か懐かしい気配を感じ取った。なんとなくではあるが、久しぶりに友人と出会った時の感覚に似ているような気がする。だが、なんとなく会いたくはないような気もする。そんな複雑な気持ちなのだが、取り敢えず仕事上行かなければならないのでダンジョンの中へと入って行く。すると、何か弾かれるような感覚を感じ後ろを振り向くと、そこには赤い刀身の片刃の大剣が地面に突き刺さっていた。握り手部分には何やら文字が書かれており、よく見ると「持ち込み禁止」と書かれていた。どうやら、俺としたことが大剣を旅館に置き忘れていたようだ。ショートカットに入れていた俺の大剣を弾くとは、流石は道具持ち込み不可のダンジョンだと賞賛した。まぁ、消滅しないだけ有難いと思う。


「そう言えば、先ほどの指輪を預けましたね。武器や道具の持ち込みは不可能でも、装飾品は問題なく持って入れると思うのだが」


「えぇ、本来ならそうなのですが。実は、あの指輪は『レイピア』に変形するのです。ですので、武器としてダンジョンが判断してしまうため外したのです」


「なるほど、そういう事でしたか。指輪型の武器、面白いですね――と、どうやら部下が来たようだ」


 ティエさんと会話をしていると、先ほどティエさんの指輪を置きに行った部下が戻って来た。すぐに大剣を旅館に置いてくるよう指示を出すと、一度お辞儀をした後に「竜泉様から『此方に回収したアイテムを入れて欲しい』と、お預かりしました」と言って、俺に指輪の入ったケースを渡す。本来なら弾かれると思ったが、ケースを持ったまま無事に俺の下へと来ると蓋を開けた。そこには、新品の収納指輪だった。俺はそれを受け取ると、そのまま右手人差し指にはめた。それを見届けてから、ケースの蓋を閉じて地面に突き刺さっている大剣を引き抜き、急いで階段を駆け上がると旅館の方角へと走りだした。それを見届けてから、ダンジョンの内部へと進んだ。ダンジョンの壁や床、そして天井も含めて石で作られており、壁には緑色の紋様が描かれていた。その紋様に規則性があるのに気がついたが、これについてはあとで調べるとしよう。さて部屋の奥には地下へと続く階段があり、床にひかれた石畳の隙間から草花が咲いている。ダンジョンとは言え、こうして草花が咲いているのは珍しくない。その草花を見て生命の強さを感じながら、このフロアを見渡した。目の前の階段を除いて通路に続く道は無いようで、階段の下の方から『凄まじい殺意』を肌身に感じとった。どうやら、最深部にいる何者かが俺たちを察知したようで俺たちに向けて殺気を放っているようだ。その殺気に当てられてか、ティエさんは一瞬だけ武者震いをしたのが見えた。まぁ、これ程の明確な殺意を向けられれば誰だって武者震いや恐怖はするだろう。だが、俺はと言うと、久しぶりに感じ取った明確な殺意に若干高揚してしまった。


「あぁ、こんなにも気分がハイテンションになったのは、マジで久しぶりだわぁ。やべぇ、マジで狂っちまいそうだ」


「だ、大丈夫、ですか? 何だか、イスズさんから『ドス黒いオーラ』が出ておりますが」


 ティエさんの声を聞き、この殺意のせいで彼奴が開放されかけていることに気がついた。彼奴――いや、彼が普通に目覚めるのなら問題はないのだが、この殺意が影響して目覚める事が拙いのである。今思えば、そのせいで大変な思いをして来たわけで、出来ればそれは避けたいと思っている。だから、なんとしても彼を出さないようにするために話し合う必要がある。俺はその場で深呼吸をし、意識を彼の方へと向けた。闇の中にゆっくりと意識を送り込むのだが、突如それを打ち払うように彼から何か嬉しそうな笑い声を上げながら歓迎をするかのように話しかけて来た。


(ようこそ、我らが茶会の席へ。クケケケ!! お前がこっちに来るなんて久しぶりじゃねぇか? それによぉ、折角あちらさんから殺し合いをご所望なんだぜ? お前だけ楽しむなんて酷いと思うがねぇ? 今回くらい、俺に殺させてくれねぇか)


(あのなぁ。お前が出ると『いろいろ』と面倒なことになるだろうが!! ただでさえ、この世界に俺たちが介入したことで悪影響を与えていないか心配だっつのに、お前まで出るといろいろと問題が生じるだろうが!! 今は、絶対に出てくるな。取り敢えず、俺が許可を出すまでは干渉してくるな)


(――ッチ。解かったよ、今回は大人しく眠ってやる。だが、必ず、俺にも『楽しみ』をくれや)


 なんとかティエさんの前に彼を出さないですんだが、この状況を考えると彼がまた出てこようとするのは間違いないだろう。だが、俺の許可がない限り出てこないので問題はない。だが、命令を素直に聞くはずがないことは俺が一番理解している。なんせ、彼とは長い付き合いだから、何をしてくるかは手に取るように分かっている。


「――ん? イ――さん!? イスズさん!! 大丈夫ですか」


「ぁ、あぁ? すまない、少し殺意の感情に飲まれただけだ。大丈夫、今はもう落ち着いたから問題ない。取り敢えず、ダンジョンの探索と攻略をメインで進める。ティエさん、ご指導よろしくお願いします」


「ぇ、えぇ。大丈夫なら、良いのですが。では、このまま地下一階へ行くとしましょう。道具のダンジョンでしたら、まずは地下一階――いえ、この場合は『地下二階』と言うべきですね。まずは、そこへ向かいましょう。この階段を下りた先にダンジョンを象徴する『石像』があるはずです。もし此処が道具のダンジョンでしたら、部屋の中央に宝箱の石像が置かれているはずです。まずは、それを確認してからにしましょう」


 ティエさんの言葉を聞いて黙って頷き、そのまま地下二階へと向けて階段を下りた。階段を下りて行くと、確かに部屋の中央に何やら綺麗な装飾が施された祭壇があった。祭壇の上には綺麗な金の装飾が施された宝箱が置かれており、これがティエさんの言っていたこのダンジョンを象徴する石像だと理解した。つまり、此処が道具のダンジョンだと確証を得たと言うわけだ。

 祭壇の周りを見渡すが、意外とこのフロアは広かった。先ほどまでは石畳だったのだが、この階は地面が土で出来ており草花が咲いていた。ここで大宴会が出来るくらいの広さはあるが、先ほどの階と同様に天井と壁は石で覆われており紋様が描かれている。そして、これから進もうと周りを見渡すと左右と真ん中に進む入口があった。


「イスズさん、どうやらここは『三百年以上』も放置された道具のダンジョンのようです。そうなると、確実に守護者が存在していますね。戦闘するためにも、各階を探索して武器を探しましょう」


「そうですね。ところで、どうしてこのダンジョンが三百年以上だと解かったのですか」


「ぁ、そう言えば説明していませんでしたね。ダンジョンの年数を知るためには、このダンジョンと同様に、この石像を見れば解かります。このように金の装飾が施された石像は『三百年以上』は経過しているダンジョンです。若い年代ですと、銅の装飾が施されている石像は『百年未満』で、銀の装飾が施されているのが『百年から三百年』だと、冒険者ギルドの調査で判明しております。つまり、石像に施されている装飾によってダンジョンの年数を確認する事ができるのです。なので、この石像を見て三百年以上のダンジョンであると解かったのです」


 とてもためになる話を聞き、もう一度石像の方へと顔を向けた。確かに、石像には金の装飾が施されているので、三百年以上経過したダンジョンだと解かる。この情報は、確かに情報にはなかった内容だった。これは、アリアからの情報を聞いた者のミスである。だが、あえてこのミスを犯した者への追求は止めた。今回のおかげで、ダンジョンについての新たな発見ができたわけだ。知らないことを他者から教わるというのは久しぶりで、なんだか新鮮味があり嬉しかった。なので、あえて今回のミスは水に流すことにした。


「なるほど。なら、確実に守護者がいるな。なら、確実に全ての階層の宝箱を回収しないといけないな。まずは、ティエさん用の武器は確実に欲しいところだな。俺は『拳当て』があれば嬉しいが素手でも問題はない。だから、まずはティエさん用の武器を回収しようか」


「はい、そうしましょう。ですが、素手で魔物を倒せるのですか? 失礼ながら、ドラゴンのような硬い皮膚を持つ魔物を、素手で倒せるような方など私は存じ上げないのですが」


「ん? あぁ、確かに素手で魔物と戦うなんてありえないよな。だが、滅多なことがない限り、俺は絶対に剣などの武器は持たないかな。いつもは装備をしているのを忘れて、拳で殴るのが多かったからな。さっきみたいに、大剣装備していたのを既に忘れていたからな。まぁ、俺の仲間を襲う奴らは、すべて拳で片付ける。それが俺のやり方でな、基本武器はあまり使わないんだ。それに、今回は背中を任せられる仲間がいるからな。頼りにしているよ、ティエさん」


「は、はい!! な、なな、なんだか緊張しますね。あまり、仲間に頼られたことがないので。が、頑張ります」


 隣にいるティエさんに微笑みながら言うと、何故か頬を赤く染めながら両手でガッツポーズをするのを見てしまい、ティエさんへ「まぁ、落ち着いて。一緒に頑張りましょう」と告げてから指を鳴らした。すると、目の前に浮遊するチェスボードの形をした氷が現れた。駒のないチェスボードを見ながら、もう一度指を鳴らして風魔法を放ち、足に力を込めながら右足を軽く上げて勢いよく地面を踏んだ。俺を震源に『震度1』レベルの振動を、このダンジョンの最深部まで届くように土魔法を放った。この程度でマップを形成できるので、魔力消費量など微々たるもので済む。さて、魔法を放った結果がチェスボードの盤面に反映される。先程までチェスボードの盤面は平の状態だったが、すぐに凹凸が生まれダンジョンのマップが形成された。それは正しく『重箱』と読んでも間違いない形をしている。見る限り十段箱である。その光景を見てか、ティエさんが俺の目の前に浮いているマップ台の傍まで来ると、驚いた表情をしながら俺とマップ台を交互に見ていた。


「こ、これは!? このようなマップを見たことがありません!? 何とも、芸術的なマップなのでしょうか。――こ、これは、箱の形をしていますが、な、なんと、これは取り外しが可能なのですか!! す、すごい。各階層のフロアの形が――ぁ、あぁ、私は夢でも見ているのでしょうか? こんな凄すぎる魔法を、この目で見ることができるなんて」


 なんだか、目を輝かせながらダンジョンの構造を象ったマップの箱を手に取りながら、嬉しそうにフロアの構造を確認している。そして、全ての箱を地面に置くと、地面に置かれた箱が全て浮遊した。その光景を見て、またも驚くティエさんに俺は苦笑しながらも教えてあげることにした。


「あぁ、これか? これは氷魔法でチェスボードの形をしたマップ台を創り出して、土魔法と風魔法で出た結論をコレに反映させただけに過ぎない。土魔法の役割は、ダンジョンが何階層あるのか、また宝箱の配置箇所はどこなのかを、縦揺れ型の地震を起こすことで確認できる。で、風魔法は、フロアの部屋の広さを知るために放ち確認できる。まぁ、その結果をコレに反映させる方法が意外と骨が折れるんだがな。まぁ、コツが分かれば意外と便利だがな」


「な、なるほど!! 複合魔法によるマップ作成ですね!! 実際にこの目で複合魔法を見るのは初めてですが、このように組み合わせることで扱えるなんて、本当に凄いですね」


 マップ台を見ながら、この階層のフロアについて情報を確認する。この階層はトライデントの形をしており、下の階へと進む階段は右側の通路を進んだ先だと出ている。真ん中の先にある廊下側を進むと五メートル先で行き止まりのようで、宝箱の形をしたミニチュアの宝箱が三つあり、左側の通路を進むと宝箱が二つあった。なら、ここは二手に別れて行動するのが良いだろう。トラップなどがあるのなら、注意して回収をするように伝えるだろう。取り敢えず、ティエさんに相談することにした。


「ティエさん。道具のダンジョンにトラップなどは配置されているのでしょうか? 初めてのことなので出来れば教えて頂きたいのですが」


「ぁ、はい。そうですね、基本的にトラップはありません。あるとすれば、確か『普通のダンジョン』や『神葬のダンジョン』だと思います。トラップには種類がありますが、猛毒や麻痺毒などの『状態異常系の矢が放たれるトラップ』や、宝箱の蓋を開けた瞬間に石化系の魔法が放たれる『魔法系トラップ』に、自爆系や岩が転がってくるとか、いろいろとありますね。ぁ、ですがトラップが出現するのは『百年以上経過したダンジョン』しかありません。ですが、道具のダンジョンで『トラップが出現する』と言う事例は聞いたことがありません。基本、道具のダンジョンを百年以上放置するような事はありませんし、こればかりは解らないですね。魔物がいないとは言え、トラップが生まれている可能性もあるので、別々に行動するのも危険ですね」


「なるほど、ありがとうございます。そうなると、このまま最深部の地下十階――じゃなくて、地下十一階まで行くのにかなり時間がかかりますね。仕方がない、今日中にこのダンジョンを攻略する事は決定事項だからな。ティエさん、すいません」


 ティエさんにそう告げると、俺はティエさんを「お姫様抱っこ」した。いきなりの事で、ティエさんが驚きと恥ずかしさに「ぅ、うぇ!? い、いきにゃり、なにを」と言っているが、俺は何事もなかったかのように「これから走りますんで、喋らないでくださいね」と微笑んでから左の通路に向けて走り出す。別に走るのなら『お姫様抱っこする必要はないだろう』と言う言葉がどこからか聞こえたが、俺の通常のスピードは車で言うと時速八十キロである。そんなスピードで走る俺に対して、果たして人間状態のティエさんが追いつけるだろうか。結論から言おう、多分無理だ。なので、こうして抱っこした状態でダンジョンを疾走しているわけだ。あまりの速さに驚きに似た叫び声が聞こえ、必死に俺の首に手を回して抱きつくティエさんを見ることなく、最初の宝箱が置かれている左側通路の奥にあるフロアの入口が見えて来たので、手前のフロアで減速しながら最初の目的地のフロアに入った。無事にフロアの中心で止まれたのでティエさんを見ると、涙目になりながら俺を見つめ唇を必死に噛み締めていた。恐怖体験をさせてしまったと思い、なんと言おうか悩んだが何も言わず見つめ返すことにした。しばらく無言状態になったが、取り敢えずティエさんを下ろした。


「ぁ、あの――」


「まぁ、怖い思いをさせてしまったな。ごめんなさい」


 謝罪を込めてティエさんに向けて頭を下げた。流石に、女性に対してやるべき事ではなかったと思った。だが、ティエさんは「い、いえ、そんな!! 頭を上げてください」と言うと、その場でモジモジとしていた。なんだか、こういう展開に見覚えがあるのだが、あえて聞くのは止めた。ここはダンジョンであって『恋愛フラグ』を回収するよりも『アイテム』を回収しなくてはならない。つまり、フロアの奥に置かれている二つの宝箱を回収するべきなのだ。


「さて、今後も俺がティエさんを背負って移動するけど、まずは宝箱を回収しよう」


「は、はい!! では、すぐに始めましょう」


 トラップを警戒しながら宝箱の傍へと向かう。宝箱を目の前にして言うのもなんだが、左右共に大きさがバラバラである。左の宝箱は小さく、右の宝箱は大きい。右側の宝箱を開けるのが怖いのだが、打刀から野太刀が余裕で入る程の大きさだ。左の宝箱を見れば鉈や短刀くらいが入るサイズの大きさだ。開けるのであれば、左からの方が良いだろう。取り敢えず、左の宝箱の目の前に向かい片膝を地面に付けた状態で、一度深呼吸をしてから慎重に宝箱の蓋を開ける。


「んじゃ、open the boxてな」


 ゆっくりと宝箱を開くと、そこには『朱色の鞘に収まった武器』が入っていた。鞘とグリップ部分には、金色の糸で刺繍された狼の絵が描かれている。鞘の部分に触れると、牛革のような肌触りをしている。鞘に納めている刃の部分が気になり、鞘から引き抜いて刃に目をやった。それは、漆黒の短刀であった。闇夜のような漆黒の刀身に、刃の部分は鮮血のように赤い。それに、今まで手に持った短刀の中でも軽い。手に持った感じでは、大学ノート一冊分の重さだった。殺人鬼時代の俺なら、この短刀を愛用していただろう。


「これは、中々に良い短刀だな。この漆のように綺麗な漆黒の刀身といい、この鋭くも真紅のような綺麗な刃。此奴は、中々に良い仕事をしているな。うむ、愛用させてもらおうかな」


 そう言って、短刀を鞘に戻した。他に何かあるかを確認してみたが、短刀以外に入っていなかった。取り敢えず、左の宝箱の中を確認し終えたので、短刀を腰に差して右側の宝箱を確認する。だが、トラップがついている可能性も考え、ティエさんに「周囲の警戒をしてください」と伝えてから慎重に開ける。宝箱が開き、中に何が入っているか覗いてみると、そこには赤い鞘に収まった長剣が置いてあった。グリップは金で作られており、見た感じだと片手剣用の長剣のようだ。長剣を手に持ち、鞘から剣を引き抜いた。まるで蒼天のように蒼い刀身に俺の顔が写り、手に握る俺が言うのも何だが見惚れてしまうほどの綺麗な長剣だ。


「これは、何とも綺麗なロングソードですね」


「あぁ、確かに見惚れちまうほどの綺麗な長剣だな。これ、ティエさんが使ってくれ。俺はこの短刀があれば十分だ。はい、どうぞ」


 長剣を鞘に戻してから立ち上がり、ティエさんの方へと体を向けてから手渡した。綺麗な長剣とは言え、受け取るのに最初は躊躇していたようだが、何かを納得したようで左手を伸ばして鞘を掴む。左手で鞘を、右手でグリップを掴むと、長剣の鞘が青い炎に包まれた。どうやら、この長剣は炎属性の効果を持った属性武器のようだ。俺よりもティエさんの方が、この長剣の相性が良かったのかもしれない。そうなると、もしかしたらミーアや竜仙に合う武器が見つかるかもしれない。そんな期待が表情に出ていたのだろう、ティエさんは長剣を腰に差すと微笑みながら見つめていた。最近、俺は誰かに微笑まれながら見つめられる回数が増えたような気がする。こうなると、これが日常になる日も近いかもしれない。


「さて、そろそろ次のフロアへと急ごう。このダンジョンを今日中に、全て終わらせるぞ!! なので、回収するアイテムすべてをこの収納指輪に入れるぞ」


「はい!! では、急ぎましょう」


 こうして、俺らは地下十階までの宝箱を全て回収して行った。道具のダンジョンと言うだけはあり、武器以外にも盾や回復アイテムなどが回収できた。それに、階層を進む度に面白い物を見られたので中々に良い経験が出来た。今回の経験のことを考えると、しばらくはこのダンジョンのコアを抜かなくても良いだろう。取り敢えず、現状はこのままにして、最後にミーアと竜仙、ティエさんを連れて探索を行ない、ダンジョンコアの回収をするとしよう。ミーアのダンジョンに対する知識をより深く持たせるためには、実際にダンジョンに潜入するのが一番だ。ここは、ティエさんにはミーアのダンジョンについての知識を教える教師になってもらう事にした。まぁ、その話はダンジョンを攻略後に旅館で伝えるとしよう。

 さて現在、地下十一階層へと続く階段の前にいる。ティエさんは俺の右隣で装備品の確認をしており、俺はティエさんの準備が終わるのを待っている状態だ。現状、このダンジョンで回収したアイテムは全て収納指輪に保管しており、残りは最深部に眠るアイテム神像の宝と、それを守る守護者である。ここまで来るのに一時間は経過したが、この階段を降りれば守護者との戦闘になるだろう。今は、手元にあるアイテムを確認するために、このまま階段を下りるのではなく、このフロアで戦闘に扱えそうな武器などを確認している。本来なら、回復アイテムなどがあると助かるのだが、運が良い事に地下三階では『回復アイテム』が充実しており、無事に回復アイテムを回収することができた。さらに、地下四階ではイヤリング等の『装飾品』が多く、状態異常耐性や物理系の攻撃と防御を上げる効果のある装飾品が沢山手に入った。そして、まさかの地下五階は『お金』を入手する事が出来た。この階のお陰で、今後の生活には困らない程のお金が手に入った。そして、とても嬉しいことにティエさんが『鑑定能力』を持っていたらしく、手に入れたアイテムについての情報を教えてくれた。そのついでに、ステータス画面の開き方も教わった。


「では、私はこの『マティアのイヤリング』と『ミャルタのネックレス』を貰いますね。このイヤリングは『毒や麻痺の耐性』を上げる他に、回避能力を向上させる効果がありますからね。そして、このネックレスは『肉体強化』がありますので、イスズさんには遅れを取らないかと思います」


「それは助かるな。本当に、ティエさんが一緒に来てくれて助かったよ。もしもティエさんがいなかったら、これらのアイテムについての情報がないまま最深層まで行くところだった。本当にありがとう」


「いえいえ。私も、イスズさんの力には驚かされてばかりです。瞬間的な回避能力や残像にも驚かされましたが、イスズさんの感知能力には本当に驚かされました」


 そんなに驚かれるような事でもないのだが、ティエさんの表情を見て何とも言えず苦笑することしか出来なかった。取り敢えず、他愛のない会話をしながら装備を整える。俺の現状の装備は、最初に手に入れた短刀を腰に差している。それ以外の装備はしていない。収納指輪に関しては、俺の意識に反応して光の粒子となって肉体に入っている。なので、現状の装備は短刀以外に今着ている服とコートだけである。


「それにしても、流石は三百年ものですね。これほどの逸品を手に入れるなんて、なんだか複雑な気分になりますね。この集落が滅んだ代わりに、このダンジョンを見つけた。恨むべきドラゴンは死んで、このやりようのない苦しみをずっとミーアは胸に秘めなければならないなんて。とても酷なことですね」


「そうだな。だが、ミーアもきっと真実を知りたいはずだ。だから、ドラゴンの魂と肉体を使いホムンクルスとして蘇らせる。そこで、何故この集落を襲ったのか『真実』を聞くだけだ。理由が無き殺戮など、存在してはならない。そして、俺は真実を知って、初めて断罪を開始する」


「ぇ、えぇ。そ、そうね」


 若干頬を引きつらせている姿を見て、またドス黒いオーラが出ている事に気が付き、すぐに深呼吸をして心を落ち着かせる。ようやく心を落ち着かせ終え、ティエさんへと顔を向けた。どうやら、ティエさんの方も準備が整ったらしく俺へと向けて無言で頷いた。もう、後はこの階段を下りるだけだ。これから、守護者との殺し合いが始まるのだ。久しぶりに『俺ら』を楽しませるモノがいると思うと、何とも言えない感情が込み上げてくる。俺はいつもの様に微笑みながら、ダンジョンの階段の方へと体を向けながら睨みつける。


「さて、そろそろ行くか」


「そうですね。守護者の強さ次第では、撤退も考えましょう。まずは、様子見と言うことで」


「そうだな。ただ、俺を楽しませ――おっと、失礼。俺を見て怯えない敵なら良いのだが」


 階段の下から感じる殺気に心が浮かれて本音が出かけてしまった。肌を突き刺すような殺気など、今まで感じたことがなかった。きっと、隊長の訓練のおかげもあるのだろう。この程度では、俺を楽しませる事はできない。それに――いや、これはまだ憶測だから心の中に留めておくとしよう。もしこの予感が当たっているとすれば、先程から感じている殺気とは別の『この狂気じみた覇気』に対して、ティエさんを即刻退避させなくてはならない。もしもの予感が当たっていたならの話だが、今はこの殺気を放っている奴を殺すことだけを考えることにした。


「何故でしょうか? イスズさんが傍にいるだけで、負ける気がしないのですが」


「あぁ。その言葉、いつも竜仙たちから言われるな。その問についての解答が解らないが。まぁ、実際に一緒に戦っていれば解かるんじゃないか? さぁて、行きますか。背中は任せますよ、相棒」


「そうですね、ドンと任せてください。ね、相棒」


 互いの拳を重ね合わせ、互いに微笑んだ。ここからは命のやり取りだ。遠慮などしては、死んでしまう。だからこそ、ここで真剣に装備品やアイテムの確認をしていたわけだ。この戦闘で、きっと俺はハメを外すだろう。その時のティエさんの表情が頭の中に浮かび、心の中で『絶対に彼奴は出さない』と誓う。彼奴が出ると、本当にいろんな意味で面倒事が増えるのだ。だから、絶対に出すわけには行かない。


「では、行きましょう」


 重ね合わせている拳が離れ、ティエさんの掛け声と共にこのダンジョンの最深部へと向かう。そして、この予感が本当に当たり、いろんな意味で俺の仕事を引っ掻き回す事になるのだった。


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