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勇者36番  作者: ハムリンゴ
第四幕:拾ったモノが、全てトラブルだった件について。
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96) 目覚めたらココは……なのね。

「よう、目が覚めたか?」


 起き抜け一番に声を掛けられた。誰?あれ……?

 知らない天井……なんて冗談が出てくるくらいはマトモか?

 いや、知らないも何も……ここ、ギルドの応接室じゃないか。

 無理矢理、部屋の真ん中にベッドを置いている。なんじゃこりゃ?


「まぁ、混乱するわな。ツレ呼んでくるから、それまで頭の中整理しておけよ。」


 お?アイロさん?頭の中の整理って何?


 あ、そうだ……迷宮で騙し討ちに遭ったんだっけ。なるほど、それで左腕は無くなったままか。

 おおう?足はちゃんと付いてる。切られたはずなんだが、先まで感覚がある。

 ミューの傷は塞がったはずだよな?


「さってと、元気な姿でも見に行きますか……あっ!?」


 ベッドから起き上がろうとして、そのままベッドから落ちた。

 さっき、無いと確認したはずの手を出していた。そしてそのまま体勢を崩しながら床へとダイブ。

 そういえば、呪われた次の朝もベッドから落ちた気がする。


「あ……」


 またもや起き上がろうとする際に、無い手を使おうとして滑った。まだ認識と咄嗟の行動が噛み合ってないようだな。

 滑って床に突っ伏したトコロでミューが部屋に入って来た。


「ナナシノ!」

「あ、あぁ……おはようさん。」


「ほら、無理して急に動くから……大丈夫?」

「大丈夫だ。」


 そのままの状態で挨拶を返すと、ミューが駆け寄って来た。

 オイラはベッドへ腰掛け、ミューが備え付けの椅子に座り、現状と経緯を話してくれた。

 ミュー自身、気付いたらこの場所に来ていたらしく、迷宮で倒れた後の事は解らないらしい。

 ただ、ココが何故か商国ではなく、その南の自治領区に運ばれていた。

 あとは、ミューは数日の間にアイロさんから実戦訓練を受けていたというくらいか。


「数日……オイラは何日くらい寝てた?」

「3日ほど。」


「そういえば、精霊達は……?」

「あそこじゃない?」


 ミューが指差した先に毛布がひとつ丸めて置かれている。見覚えのあるオイラの毛布だ。


「ま、精霊さん達の話は聞こえないから。私は食事持ってくるね。」


 そう言って、ミューが退室する。

 おかしい、元気なキューが出てこないってどういう事だ?もしかして怪我してるとか……?


「キュー?シーちゃん?」

『……』


 (返事が無い、ただの毛布のようだ。)

 いや、冗談は置いといて布を摘まみ上げる。また無い方の手を使おうとしたのは愛嬌だ。

 持ち上げても出てこないので振ってみると、ドサッとキューだけが落ちてきた。


『痛い!何すんの!?』

「おはようさん、シーちゃんは?」


『あ……』

「どうした?あれ?服はどうした?寝る時は脱ぐ派なのか?」


 何故か服を着ていないが身長が30センチくらいで体の色が緑なので色気は感じられない。


『ちょっ!何言ってるのよ!?そんなワケ無いでしょ!?』

「よし、元気そうだな。大丈夫か?」


『元気という点なら元気よ、死んでないしナナシノみたいに欠けてもないよ。』

「良かった。無事なら良い。それでシーちゃんは?」


『ハオは袋の中、出たくないんだって。』

「ハオって誰よ?シーちゃんの事か?」


『そう、ナナシノの呼んでる名前……ボク達の間では使いたくないの。』

「駄目なのか?オイラも呼び方変えた方が良い?」


『ううん、ナナシノが呼ぶ分には問題無いの、悪意が無いから。でもボク達が使うと悪意として取られちゃうのよ。』

「理由は、聞いて良いか?」


 シーちゃんの状況が気になるが、キューの言い方が凄く気になったので説明してもらう事にした。


 キュー達の名前の前後は“連番”、つまり創られた順番、という事だった。

 アルファベット順A~Zまでの26文字の次に家名を付け、その後にまたアルファベットを付ける。

 キューちゃんなら、17番目のQにベイル家1番のAという事になる。

 精霊を魔法によって生成して、精霊付き袋に固着させて商品として出す。

 その精霊は拠り所を袋に縛られている為に自由に動けない。動けても袋を中心に精々数十センチ四方だという。


 オイラは“契約”と言う形で袋への呪縛を解き放った、という。

 っていうか、アルファベットって……元の世界の基準が流れ込んでるって事だよな?


「ところで、シーちゃんは……っと。」


 オイラは精霊付き背負袋に手を突っ込み、所望のシーちゃんを探り当てる。ふにょんとした感触に驚いた。

 望んでないのに、また柔らかい部分を掴んでしまったようだ。


バチン!にゅるん。


 お?叩かれた上に逃げられた。もう一度掴みに掛かる。また柔らかい……こうなる事は定番なのか?


バチン!にゅるん。


 あ?れ?マズイ、2度も触れてしまったので怒らせてしまったか?

 掴みに行くのは止めよう。3度目は故意として取られてしまいそうだからな。


「シーちゃん、大丈夫か?出ておいでよ。」


 オイラは背負袋の口を広げて中に居るシーちゃんを呼び出す。


『嫌。』


 しまった、触り過ぎた所為か、お怒りの様だ……声が低い。


「ごめん、故意に触ったワケじゃないんだ。でも、ごめん。出てきてよ?」

『嫌。』


「怪我でもしたのか?何故出て来ないの?」

『無理。』


「無理って、疲労で毛でも抜けたか?気にしないから出てきてよ?」

『嫌。』


『ナナシノ、ハオは出て来ないよ。』

「何故に?」


『ナナシノに見られたくないから。』

「キューみたいにちっさくなったのか?そんなの問題無いぞ?」


 キューが袋に入って少しして出てきた。


『ナナシノ、よく聞いてね?ハオには了解を貰って来たから。』


 キューの“精霊講座その2”が始まった。


 キューが小さくなったのは、階位が下がったからだそうだ。

 階位が下がるのは精霊魔法を使う際の魔力を“体内の魔石にまで干渉するレベルまで”引き出した結果だと言う。

 オイラが気を失った所為でキューはオイラの傷口を塞ぐ為に、文字通り身を削ってまで回復魔法を発動させたらしい。

 足の切断面を合わせて回復魔法で繋いだが、腕の方は迷宮に吸収されたのでダメだったようだ。


「キュー……」

『私は単に契約主が死なれると今後の生活が困るからって理由だし!』


「なんだ、ツンデレかよ?」

『なにそれ?誉められた気がしない!?』


「んで、シーちゃんはどれくらい階位が下がったの?」

『あ……うん。』


「言い難いのか?」

『うん、了解取ったから言うけど……元初のひとつ上。』


 よく解らないが、相当負担を掛けたに違いない。

 オイラは背負袋に手を突っ込んで呼んだ。


「シーちゃん、出て来て。」

『……』


「本気で見られたくないなら、契約解除して去るだろ?」

『ナナシノ、ハオが今の階位で契約解除したら、消滅するかもしれないのよ?そんなの、怖くて出来ないよ……』


「なるほど、逃げられ無いのか?それは良かった。」

『ナ!ナナシノ!』


 キューがバンバンとオイラの足を叩いて来た。


『ハオがどれほど!どれだけナナシノを思って頑張ったと思うのよ!』

「いや待て、何を言ってる?オイラは……」


 何故に?これで居なくなってたら、オイラは礼も言わない大馬鹿者になってたぞ?

 不意にチリチリと腕の契約印が疼き出した。


『バ!バカ!!何してるのハオ!やめてよ!』


 契約印が疼くって事は消される感覚なのか?シーちゃんまで人の話を最後まで聞かない子だったっけ!?

 オイラは背負袋に突っ込んだままの手から、魔力を解放した。

 シーちゃんはそれに驚いたのか作業を止めてくれたようだ。


「最後まで聞けよバカちんども!」


 手から放出した魔力の揺らぎから中のシーちゃんの位置が解った。

 手は届かないのでシーちゃんの居る方向を指差してみる。


「出ておいで、顔を見てお礼を言いたい。」

『無い。』


「はい?」

『顔なんて無い。』

『ナナシノ……精霊使いなら常識でしょ?ハオの姿が、元初からの数階の姿がどんなものか。』


「知らん。それとオイラは精霊使いになったつもりもない。とりあえず出たくなくても良いから触れてくれ。」


 手のひらを上に向けてバンバンと叩いてから待っていると、指先にふにょんとしたモノが置かれた。

 温かみのある柔らかいソレは……


「あ、シーちゃん?いきなりそんな大胆な……」

『……変態さん?』

『バ、バカちん共がココに居るよっ!』


 心地よい感触がゆっくりと手に乗ってきたので、ソレを背負袋から出すと黒水晶のようなスライムが居た。


「うおう、シーちゃん……猫の次はスライム?」

『ナナシノ!酷いよ!?思いっきり罵り言葉だよ!』


 キューがまたバンバンとオイラの肩を叩いて来た。


「そ、そうなのか?ゴメン、悪かった。」

『酷すぎ!魔物じゃ無いんだから!それにスライムには単細胞生物らしく核があるんだからねっ!』


「いや待て。それだと核の無い方が格下って事にならないか?」

『何言ってるの!アレは分裂して増えるけど、私達は唯一無二なんだから!』


「あぁ、どうでも良くなってきた!猫だろうとスライムだろうとシーちゃんはシーちゃんだ!」

『あ、うん……ナナシノ……そうだよね。』

『うん。』


「よし、こうなったらオイラが責任を持ってシーちゃんを元に戻るまで面倒みるわ!」

『ナ、ナナシノ!?何その拾ってきた小動物のような扱いは!?』

『よろしく。』


「ありがとうな、シーちゃん。助けてくれて。」

『うん。』


「おっし、飯食って魔法バンバン使って階位を取り戻しに行こうか!」

『ハイなー!』『了解。』

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