91) お別れは突然なのね。
さて、ロクジョウ領に無事戻って来れた。
途中で面倒な事もあったが、今となっては良い思い出だ。
そして、今ココでもひとつの依頼が“思い出”になろうとしている。
「ナナシノさん、ミューさん……すみません。」
冒険者ギルド内の会議用小部屋の中で、アールス達3人がテーブルの向こう側で頭を下げている。
「まぁ、アールス達の名声を稼ぐ目的だったからね。それが一気に飛び越えて領主だもんなぁ。」
「そうだね、依頼内容は護衛じゃなく同行だったもんね。もう必要無くなっちゃったね……。」
結論、予定の約半分の日程でアールスの依頼が完了となった。
もちろん、依頼主の判断で完了となるので達成報酬は全額払われる。前金も合わせて1人金貨1枚、銀貨で言えば100枚。
ざっくり計算で言えば一般家庭の3~4か月分の収入に当たる。1~2週間での稼ぎとしては、かなり良い方だと思う。
「アールスの依頼達成が予定より早く終わったという見方をすれば、謝る必要が無いんじゃないの?」
「いえ、同行して下さいと言っておきながら、何度も戦闘行為を任せてしまった事が申し訳無いのです。」
「だったら、追加報酬でも頂戴な?」
「えぇ、勿論ですとも。冒険者ギルドで今回のケースに至る場合の報酬を計算して頂いて振り込む予定です。」
結局、冗談のつもりで言った追加報酬と共に、ロクジョウ領から商都までの路銀も用意して貰った。
「了解、これで依頼終了というわけだね。就職先でも頑張れよ!」
「はい!ナナシノさんの様に図太く生きます!」
「ぶっ!?」
差し出された手を握り返すと、アールスはその手を両手に取りにブンブンと振った。
「短い間でしたが、本当に有難うございました!」
「あぁ、良いって。オイラも色々と学べたし、ありがとな。」
「うんうん、アールス達も頑張ってね!」
何だかホロリとなりそうだったので、その場を後にすることにした。
1週間の付き合いなのに、意外と感情移入しちゃったもんだ。ヤバくなった涙腺を抑える為に話題を変える。
「頑張って発展してもらわないとな。折角関わったんだし、また1年後くらいに訪ねてみるか。」
「うんうん、どうなってるか楽しみだねっ!また一緒に行こうよ。」
「うお?ミューさんや?」
「なに?ナナシノさんや?」
「“一緒に”って、1年後にココでまた落ち合う“約束”ってコトで良いの?」
「えっ!?ここでパーティ解散なの!?」
「いやいやいや、一応商都までは一緒でしょ?」
「えっ!?商都でお別れ!?」
「え?だって、ミューは選んだ依頼を一回付き合って貰うって言ったじゃん?」
「にょ!?」
あれ?何だっけ?“魔王就職”の騒ぎに巻き込んだ詫びとして今回の依頼を受けたんだよな?
「まぁ、商都までは一緒だよ?」
「あ、うん……ありがと。」
オイラとしては、このまま固定パーティとして欲しいところだが、“1回だけ”と言うので仕方が無いと思う。ミューの都合もあるだろうし。
「ナナシノ、今晩の宿を予約して迷宮に潜らない?スキルの訓練もしたいし。」
「そうだね、荷物置いてから行きますか。」
「ナナシノさん、宿の手配は此方で取らせて頂きます。荷物も届けるように致しますので、そのまま迷宮へ入場していただいて結構ですよ。」
急に声を掛けられて振り返ると、ギルド職員さんがニッコリ微笑んでいた。
「にょ?そんなサービスあるの?え?どして?」
「ハイ、特別に対応させて頂いておりますので。」
まずい、ギルドの沽券とか言って高級宿屋を用意されると絶対ミューに変だと思われるな。
「えっと……普通のレベルで良いからね?あまりにも酷いと……ね?」
「はっ!?ひゃい!承知しましたっ!中クラスの宿屋の予約を取って参ります!」
オイラは職員さんに向かって掌に文字を書く仕草をして見せた。“報告するぞ?”という脅しが通じたようだ。
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さて、本日も恒例のトラップ&亀ボスの階層へと参りました。
ミューの罠探知と罠解除スキルを上げるため、“警報”以外のトラップは解除して貰っている。時間は掛かるがスキル上げの為と割り切った。
今回は稼ぐ目的では無く、商都で解散した後のミューの立ち位置を確保してあげたいのが目的だ。
何やらオイラの言葉でシーフを選択したと言っていたので、少々責任を感じている。なので、出来るだけ世間で通用するレベルまで上げてもらう事にした。
罠探知とは、微妙な違和感や勘だったりする。仕掛けに気付き易くなるって事だろう。
罠解除は、罠が作動しなくなる様に物理的に詰まらせたり挟んだりして細工するんだろうけど……魔法系の場合は?
「あ、これ?魔力の筋を切ってるのよ?」
「お、おおう?」
「例えば、最初に魔石があって魔力線がスイッチを通って魔方陣に繋がっていて、そのスイッチに触れれば発動する。みたいな?」
「ほ、ほほう。」
「ナナシノ……解ったフリしてる?」
「えっと……魔力線ということは、ソレが数本ある場合に間違ったのを切ると発動するとか?」
「凄いねナナシノ!あるある、そういうのあるよ!」
アレか……映画とかドラマで見た時限爆弾の要領だな。青か赤の線のどちらかを切ってミスすればドカン!みたいなヤツだ。
「それでは、シメに入りますかな。」
「うん、慣れたと油断するのは駄目だよ?」
「おう、油断で死んだら悔やむわ。」
「死んだら後悔もできないって、ナナシノ。」
最奥にある部屋のドアを潜る。そして中央に魔物が出現するのを待たずに、オイラ達は魔法陣を展開するのであった。
「今日も精霊さん達のゴハンを狩るぞ~」
「ナナシノ……やっぱり緊張感が無いよっ!?」
勢いは大切、勢いは大切なんだ。
重要なので2回唱える。
でも、自発的に勢いがつけられるスキルを習得したいデス……




