86) 訓練、訓練なのね。
「よっし、今日も良い天気だ。」
ばたん、がとん。
オイラは窓を開けて、朝の新鮮な空気を部屋の中へ入れる。
もちろん、ミューと同じ部屋で寝泊まりするからと言って、同じベッドで寝るワケにもいかない。
お互いにベッドを部屋の端まで移動させて離している。意識し過ぎかも知れないが……
精霊のキューが不逞な発言を幾度と無く吐いているが、ソコは無視。ミューには聞こえていないので下ネタ等を言いたい放題である。
「おはよーさん、準備して行くぞー。」
「うにょ?もうそんな時間?」
まぁ、昨日のバタバタ騒ぎで今日の予定が組まれていないんだけどね。
とりあえず、いつもの時間に食堂へ行ってから考えよう。
「おおう、居た。」
「ナナシノ殿、ミュー殿、おはようございます。」
「おっはよー。」
「ナナシノさん、ミューさん!昨日は心配掛けてゴメンナサイ!!」
アールスが元気良く頭を下げた。
「あ、うん。大丈夫、気にしないで良いよ。懸賞金稼げたし、アールスの株も上がったし。」
「うんうん、誰も怪我しなかったし問題無しよ。」
いつも通りパンにスープとサラダ、日替わりのフルーツを残さず食べて今日の活動予定を聞いてみる。
「昨日はお騒がせしてしまいましたので、今日は活動無しとします。」
「了解、だったら今日も迷宮でスキル上げかな?」
「うにょ?休みって言ってるのに迷宮入っちゃうんだ?」
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というワケで、現在は亀が居た階層に居る。ギルドランクも上がり、初心者から脱した賜物だ。
そして、ミューの罠探知と罠解除のスキルを上げるため、亀の居る階層で安全にスキル上げを行う。
また、ボス部屋以外では魔物が出てこないので、安心して罠に集中できている様だ。
罠も解除できるものは解除して、できないモノはスルーしている。
「あ、警報の罠だよ。」
前言撤回、この罠で魔物は出現する。
「よっしゃ、十分に離れて発動させよう。」
「了解~」
オイラは罠を作動させる大きさの石を重力無視の魔法を掛けて宙に浮かせる。
「それでは、撤退!」
「はいさ!」
罠が見えなくなる直前まで引き返して待つ。そして重力無視の魔法を解除する。
ごん。
落下した石が罠を作動させる事に成功した様で、罠の周辺に黒っぽい霧が発生する。続いて強さも数もランダムに魔物が湧いた。
「ミューさんや、何かヤバいの居る?」
「ん~、居ないと思う。」
ミューの言うところでは、この警報の罠は意外と“美味しい”モノらしかった。
十分に距離を取り、“爆発”等の魔法で罠を作動させて魔物を呼び出す。そして外からチクチクと殲滅。
「んじゃ、一体ずつ呼びますか。」
オイラは投石による“釣り”を行う。遠くに居る魔物に石を当てて魔物を誘き寄せる。何故か他の魔物は反応しない。
ただし、複数の魔物の認知範囲に入ると集団で襲ってくるが、その範囲もバラバラなので気付いたヤツしか来ない。
まぁ、罠の中心に居れば全て襲ってくるんだけどね。その辺は罠の解明が進んでおり、今の様な対処方法も確立しているそうな。
「んじゃ、頑張るね……っと!!」
「おう、危なくなったら下がるんだぞ~」
何とも気楽な雰囲気でミューが前に出る。ちなみに、この警報の罠は3度目になる。
初めは加減無しの魔法で一掃し、素材や魔石が回収出来ない大惨事になった。
2度目は、砂利による“散弾型投石”で壊滅状態。美味しいハズの罠が只のスプラッターになっていた。もちろん怒られた。
などと回想していたら、ミューが難無く“釣った魔物”を倒していた。
「やっぱり、頑張って訓練した結果が出てるよ。ナナシノ、ありがとね!」
「あぁ、オイラもスキル上げが出来てお互い様だと思うよ。ミュー、ありがとね。んで、次行くよ。」
着々と魔物を倒し、討伐部位や素材と魔石を回収する。倒しているのはミューなので、討伐部位は彼女のギルドランク上げに使って貰う予定だ。
「この階層、ある意味では都合が良すぎないか?」
「そだねー、シーフのスキル上げに丁度良いよねー。」
比較的死ににくい“初心者向け”迷宮として認知されているが、この階層だけは少し違う。
流石に即死レベルの罠は無いが、警報の罠等による圧殺や戦力と機動力を確実に削ぐ罠がある。
最後のボス部屋についても、抗物理と抗魔法と難易度の高そうな設定と思える。
「まぁ、不思議だけど対策次第では初心者のオイラでも攻略可能なんだよなぁ。」
「にょ?イキナリ何?っていうか、ナナシノが初心者?嘘ばっかり。」
「いやいやいや、実際そうなんだってば。」
「はいはい、実力以外の知識は初心者だもんね。」
「何だか納得行かないなぁ。あ、ボス部屋の亀は倒していく?」
「ほら、ちょっと寄って行く?のノリでボスを倒すとか、全然初心者じゃないよ?」
最奥にあるボス部屋の扉から中を覗くと、部屋の中央に台座が見える。あれって壊れても復活するんだ?罠と同じかな?
オイラ達は迎撃態勢をシッカリ整えて、部屋に入り後ろ手に扉を閉める。
台座付近で黒い霧が渦を巻き始める。
「キューは間に岩壁、シーちゃんは亀の視界を塞いで!あと、見切りで突き上げてひっくり返す!」
『はーい。』『了解。』☆すっぴょこ☆
態々ボスが出現するのを待つ必要は無い。出現と同時に対処して、溺死で完了だ。
前と同じ要領で亀を封殺し、扉が開くことで討伐完了を確認する。
「ほら、全然初心者じゃないし。」
「初心者の定義が解らんな。うん。」
ドロップ品を回収し、宝箱はミューが調査中だ。
「シーちゃん、この亀は入る?」
『入る。』
「もうひとつ質問、あの亀の肉を食べられる子は居る?」
『居る。』
「んじゃ、御裾分けしてあげて。肉以外の回収をよろしく。」
『承知。』
シーちゃんの空間魔法により、ずるんと亀が消えた。




