85) 色々な経験は重要なのね。
「ナナシノ、この人たちはどうするの?」
「“簀巻き”だけ持って帰って、後の対応はギルドに任せよう。」
その場で縦穴を掘り、気を失った髭面オッサン達を首だけ出した状態で埋める。もちろん、扉の向こうで意識を失ってる連中も埋めた。
放置と言っても街から往復4時間程度なので、餓死とかは無いだろう。漏れるのは仕方ないけどな!
「と、いうわけで……起こそうか?」
「そうですね、担いで帰るのは辛そうですし。」
「あ、担げばいいんだ。」
簀巻き状態のままのロクジョウ・キョウマに“重力無効”を掛けてシュウに担いでもらう。オイラだと見た目でオカシイからね、目立つの嫌だし。
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「それで、誘拐犯は現場に置いてきたと?」
「ハイ!御子息の身柄を確保するのが優先と考えた次第でアリマス!」
ロクジョウの街へ戻り、冒険者ギルドの納品カウンターに“簀巻き”を載せて、そのまま退却……というワケには行かなかった。
簀巻きの中身を確認した受付嬢は、直ぐにギルド長のタダノさんを呼びに行き、オイラ達は奥の部屋で事情聴取という形になっている。
「ナナシノ殿達が営利目的で誘拐を行ったとは思いませんが、一応……手続きですので申し訳ありませんが確認を取らせて下さい。」
「えっと、オイラ達も緊急で探している人が居るので、どうにかなりませんか?」
結局、アールスパーティの“サブリーダー”とされるオイラが残り、シュウとミトクとミューの3人がアールスの捜索を再開している。
「まぁ、手続きなので仕方ありませんが、なんとまぁ厄介事によく関わりますなぁ?」
「ですよね~、アールスの二つ名は“トラブルシューター”とでも付けますか?」
「そっちじゃないでしょ、ナナシノ殿。」
「あれ?手柄は全部アールスのモノですよ?オイラはメンバーとして頑張っただけですから!」
「いやいや、立て続けに領主に関わる問題を主軸として解決して頂きましたからねぇ。しかも冒険者らしく“力尽く”で。」
笑顔だけど、目が……目が笑ってない!怖いよ!?何か企んでる?もしかしてランク上げちゃうとか言わないよねっ!?
駄目だ!ココは絶対に譲っちゃいけない。変に冒険者ランクや名声を上げて目立つのは駄目だ!目立たないように……
「あ、そうだ!認識票の表示って変更はできないの?目立って嫌なんだけどっ!」
「えぇ可能ですよ。ただし現ランク以下の状態に限られますけどね。」
「おお!だったら“D”にして下さい!!」
「まぁ、見た目の変更だけなのでギルドでの扱いは変わりませんけどね。」
認識票を手渡し、タダノさんが部屋を出る。変更には小一時間掛かるらしい。
その間、あまりにも暇なので、オリハルコン粘土を取り出して“人型”を形成するが上手に立つことができない。
ソレを見たキューが腹を抱えて笑うので、“蜘蛛型”に変えて急襲して抑え込んだ。こっちは手と指をイメージすると簡単に動かせる。
遊んではいるが、アールスの行方が解らないので心配だ。しかし動けない以上はウジウジしていても仕方が無い。よし、しっかり遊ぼう。
「むっきー!粘土のくせに生意気なっ!」
両手両足の自由を奪われたキューがジタバタと転がる。
この粘土は形状を変えたり動かすのに魔力が必要なので、日課の魔力消費の微調整に使っている。今では色々と形を変えて遊ぶ事も可能になってきた。
ただ、二足歩行させるには人形自身のバランス感覚を掴まないとダメなようだ。
暫く遊んでいると、タダノさんが戻ってきた。
「認識票ができました、どうぞ。」
「ありがとう、おお!地味な色に戻ってる!うんうん地味だ、良い感じ!」
「居るんですよね……特にSランクに到達する人の多くが、見た目の変更をされるのですよ。」
「だって、見せる度に驚かれるんですよ?目立ってしまうじゃないですか。」
「そうですよねぇ。見た目が十代でAクラスは殆ど居ませんからねぇ。」
「いやホント、殆ど何かしたつもりも無いのに勝手に上がるんだもんなぁ……」
そこでドアがノックされて、受付嬢がミューを連れて入ってきた。
「な……ナナシノ。」
「おおう、どうした?アールスは見つかった?」
何か暗い雰囲気のミューに、良くない知らせを持ってきた気がしてオイラも不安になった。
「アールスが……アールスがバカなのよ。」
「うお?イキナリ馬鹿って……話が見えん。見つかったんだよね?」
アールスが見つかった、しかもバカって?全然話の筋が見えない。
「ミュー、すまん。話がサッパリ解らない。アールスは無事なの?」
「うん、宿屋に戻ったら直ぐに見つかったよ。っていうか宿屋から出てなかったの。」
「おお?攫われたんじゃなかったのか?」
「攫われたのは、さっき助けたキョウマって人だったみたい。」
「そ、そうか。キョウマって人もアールスも偶然あの酒場に居合わせただけってワケだ?兎も角、無事で良かったじゃないか。」
「うん。無事だけど、シュウさんに物凄く御説教されてる。」
「そりゃそうだろ。連絡も無く居なくなってたんだからな。」
「うん、でも……えっと、詳しいことは戻ってから話すね。」
「了解。それで、ミューはどうする?戻る?」
「ううん、戻っても居辛いし、まだココにいる。」
「タダノさん、演習場に行ってもいいですか?」
「あぁ、ギルド内に居るのなら問題無い。監視付きになるがな。」
「ありがとうございます。ミュー、昨日できなかった訓練にいこうか。」
「うん。」
監視役はタダノさんだった……仕事はどうした?
訓練はミューの受け流しを主軸にしたもので、オイラは魔力供給、☆導きの書☆は水弾、キューが鈍器状のアーススパイクで行っている。
シーちゃんの闇系の魔法は、ミュー自身に耐性が無かったので控えてもらっている。
「ほほう、中々に面白い訓練をしていますなぁ。その方法で双方のスキルアップができそうですな。」
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ミューの体力が切れるまで受け流しの訓練を続けて、終る頃にはオイラ達の誘拐疑惑も解消されていて無事に解放された。
宿屋へと戻り、アールス達の部屋の前で少し躊躇したがノックをしてみる。
直ぐにミトクが出てきて中へと通される。
「ナナシノ殿、お帰りなさいませ。」
「えっと……アールスが無事で良かったわさ。」
オイラはシュウの怒りが再燃しないように、言葉を選びながらアールスの行動を聞いてみた。
要約すると……シュウとミトクを部屋に戻した後、同じ宿に泊まっている女冒険者と意気投合し、そのまま女冒険者の部屋に流れ込んだそうだ。
「あぁ、なるほど。オイラ達と違って“別な経験”を積んだってワケだ。うんうん、そういう事もあるわな。」
「経験って、ナナシノ……。」




