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勇者36番  作者: ハムリンゴ
第四幕:拾ったモノが、全てトラブルだった件について。
85/134

84) 誤解を理解したのね。

「わ……若に何という事を!早く降ろせ!要求の金は持ってきたぞ!」

「まぁ、待て。取引が終われば直ぐに降ろすがな。」


 身代金を提示したシュウが受け渡しの手順を髭面オッサンから指示されている。地面に引かれた線まで進み、袋に戻した金を投げ渡すだけだった。

 そこまで細かく指示されると怪しすぎるわ……絶対に罠だ、落とし穴だろ?

 ミューがオイラの袖を引っ張り、小声で話しかけてきた。


「ナナシノ、前に凄く沢山の罠……たぶん落とし穴があるよ。」

「了解。」


 落とし穴があるという事は、向こうは“落とす”気でいるという事だろう。

 恐らくアールスを降ろす、あるいは落下させて駆け寄るオイラ達を嵌めるのかも知れない。仮面レーダーの確認では後ろの扉の向こう側にも4人が待機しているようだ。

 オイラは☆導きの書☆に手をあて、精霊ズにも小声で指示を出す。


「もしアールスが落下するなら重力の魔法で受け止めて。あと、キューは落とし穴を静かに埋めてくれ。シーちゃんは扉の向こうに隠れているヤツ達を適当にヨロシク。」

すっぴょこ☆

『静かに、ね。』

『了解。』


「そこで止まれ!金を投げろ!」


 髭面オッサンの指示通りに、シュウが小袋を5メートルほど先に投げ捨てた。


「ばっ!馬鹿野郎!しっかり投げ渡せよっ!」


 髭面オッサンは手に持った槍で落ちている袋を手繰り寄せた。拾いに行かない時点で落とし穴がバレバレじゃないか……馬鹿はどっちなんだか。


『制圧。』

『全部埋めたよ。』


 精霊ズから対応完了の報告を受けた。あとは髭面オッサンの出方次第だな……


「よーし、野郎共!撤退準備だ!」


 いや、全然撤退する様には見えないんですけど?思いっきり武器を構えて臨戦態勢だし。


ガコン。


 音のする方、天井を見上げると簀巻きにされたアールスがふらっと揺れたかと思うと落ちてきた。


「アールス様っ!!」


 アールスの落下地点にダッシュで駆けるが、間に合う距離ではない。しかし、受け止める準備は出来ているので問題無い。

 そして今、手筈通りに落下してきたアールスが床上1メートルで浮いている。☆導きの書☆が落下速度を相殺し、定位置で浮遊させる状況をシッカリ調整してくれていた。


「「!?」」


 髭面オッサンとシュウが“ありあえない”という表情で固まっている。

 シュウは“落ちてこない”アールスに、髭面オッサンは落とし穴に“落ちない”シュウに対してだ。


「よっし!前にやった鎮圧の要領でヤルぞ!シュウさん、アールスを受け止めて!」


 オイラは☆導きの書☆に手を掛け、以前に護衛パーティを沈黙させた方法で髭面オッサンの一団に連携魔法を掛ける。

 そして、気付く。


「あっ!“業火”は無し……」


 遅かった……。一団に掛けた暗闇の範囲内から勢いよく炎が舞い上がって数秒で消えた。

 髭面オッサンのパーティを覆うドーム状の暗闇が無くなると装備を燃やされて半裸、髪の毛がチリヂリ、蔦で拘束されるという滑稽な状況が出来上がっていた。


「し……瞬殺ですか。」

「いや、殺してないしっ!」


 放心状態の髭面オッサンパーティは置いといて、アールスの保護に向かう。シュウは“簀巻き”を降ろし、頭の部分を剥がす。


「お?ダレコレ?」

「はい?」

「アールス様じゃない!?」

「マズイ!謀られた!?」


 即座にシュウが髭面オッサンを蹴って正気に戻す。


「う……あ、何が……おごっ!」


ガッ!


 再度、シュウが乱暴に腹部を蹴りつける。


「おい、若は何処だ?」

「あ?何の事だげ!?」


ゴッ!


 次は勢いよく腕を叩いた。うわ……変な方向に曲がってる。


「うがあぁぁぁぁ!」

「若はどこに居る?」


「そ、そこに居るじゃねぇかっ!?」

「ふざけるな!アールス様は何処に居るっ!?」


「だ、誰だよアールスって!?何言ってやがる!?」

「まだ冗談が言えるとは……な?」


 シュウが闘気剥き出しで、落ちている髭面オッサンの槍を拾い上げた。


「うぐっ……待て!本当に何を言っているんだ!?」

「貴様が連れ出したアールス様が何処に居るか……言え。」


「アールスって誰だよっ!?そいつ、キョウマだろ!?ロクジョウ・キョウマ!」

「は?」


 数秒の沈黙の後、カターンと槍がシュウの手元から滑り落ち、ギギギと音がしそうな雰囲気でこちらに振り向いた。あれ?


「さ……攫われたのは、ロクジョウ領の“領主の息子”……だったのか?」

「何故、オイラに聞くかな?」


「も……もしかして、アールス様は攫われていないのか?」

「何故、オイラに聞くかな?リーダー誰よ?」


 シュウ、ミトク、ミューの3人がオイラを見つめる。指を差されなくてもオイラの立場はアールスパーティのサブリーダーという認識を理解した。

「よし、理解した。撤収だ。」

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