83) 誘拐は飲み会のあとなのね。
6鐘の音で目が覚めると、普段の装備のままでベッドで寝ていた。
「あれ?なんだっけ……?」
起きようとすると、何故か体が重い……理由は直ぐに解った。何があったのかも思い出した。
「あ~ミューさんや?起きてもらえないかね?」
「にょ?」
オイラの頭を抱え込まれるように後ろから羽交い絞めにあっている。
また、装着していたハズの仮面は外されてベッドの支柱に掛けられてあった。
それと服装は寝巻ではなく普段の装備だった。まぁ、演習場に向かおうとした恰好のままだ。脱がされた感は全くない。
あと……何というか、後頭部の感触が枕のソレと全く異なるというか……
「にゃっ!?」
「あ、起きた?おはようさん。まぁ……色々驚かせてゴメンな?」
「わ、私の方こそゴメン……ビックリして殴っちゃって……」
「うん、大丈夫。どこも痛くないから……起きようか?」
殆どオイラを突き飛ばすような感じでミューは跳ね起きた。
もちろん、突き飛ばされたオイラはベッドがら落ちる。
「あ、あ……ナナシノ!大丈夫!?」
「大丈夫、次からは気を付けてくれれば良い。っていうかオイラも言葉選びには気を付けるよ。」
「あ、うん。私の方もゴメンね。」
素早く着替えを済ませて食堂へ降りてみたが、アールス一行はまだ席についていなかった。
もうすぐ集合時間の9鐘になるんだけどなぁ。今日は休みだっけ?
「ミューさんや、今日は休みだっけ?」
「ううん、そういう話は聞いてないよ?って、来たよ。」
少し経ったところで宿屋の出入り口からシュウが入ってきて、誘導されるがままアールス達の部屋へと移動した。
「おはようさん、シュウ。みんなは?」
「ナナシノ殿、アールスが攫われました。」
「にょあっ!?」
「あれま、“攫われた”という事は、無事が確認できたって事で良い?」
「はい、情報屋の伝手で“領主の息子”の拉致と身代金要求の確認が取れました。」
話の経緯としては、昨晩の宴会の後にアールスがひとりで呑むからとシュウとミトクを先に部屋に戻らせたそうな。
護衛としてシュウは離れてはいけないと思ったが、過保護過ぎかと思ったので偶には良いかと気を緩めたのがいけなかったと嘆いた。
「いやいやいや、領主の息子って?アールスが?」
「えぇ、表沙汰にはできませんがアクアマリナ領の13番目の御子息という立場であります。」
「13番目って、微妙?」
「な、ナナシノ!?何言ってんの!?」
ミューに後ろから強引に口を手で塞がれた。
「ええ、確かにかなり微妙な立場という事は解っております。アールスもその辺りは深く考えておりませんので、お気になさらずに。」
「そ……そうなんだ?」
酒場に残っていた人の話を聞くと、アールスは一人で呑んでいたが途中から冒険者らしき女性と意気投合して会話していたのが確認されている。
その後、何故か席を移動して呑み直しており、何やら大声で愚痴っていたようだ。
そして、今度は冒険者風の男二人と肩を組んで外へ出て行ったらしい。
ちゃんとした確認は夜中の薄暗い中だったのでできなかったようだが、愚痴の内容に“領主の息子”と喧伝するような節があったとの事だ。
「普段なら立場的な話は絶対に言う事はありませんが、酔った勢いと云えば仕方が無いかも知れません。」
「ふむふむ、それで要求額は?」
「棒金4本だそうです。」
「そりゃまた中途半端な?それが相場なの?」
「まぁ、だいたいそうですね。財政を見透かされた……出せるギリギリの所を狙った感じがします。」
「それで、用意はできたの?あと取引の日取りは?」
「手持ちでは全く足りません。取引も明日なので本領へ連絡しても、間に合いそうにありません……」
「よし、金策は任せて。取引もできるだけ早くしてもらおう。」
オイラは袖口に手を突っ込み、棒金4本を取り出してテーブルに置いた。
召喚直後の“解呪のアルバイト”で稼いだモノだ。うん、金銭感覚が無いのは自覚している。だが、ココで自重はしていられないと思う。
「え?」
「にゃ?ナナシノ!?」
「まぁ、何故持ってるかは不問な?あと、コレはちゃんと“回収”しようね。」
いつの間にか戻ってきていたミトクが誘拐犯の居場所を探し当ててていた。
殆ど喋らないミトクが、どうやって情報収集しているのか疑問だったが……そちらの方が得意分野らしいと、シュウがそれとなく言っていた。
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ロクジョウ領の街から2時間ほど歩いた先に誘拐犯のアジトがあった。
廃坑を利用したモノのようで、入口には誰も居ない。躊躇いなく中へ入るシュウを追いかける。
「そこで止まれ。何の用だ?」
「若をお迎えに参りました。取次ぎを御願いします。」
「な?何の事だっ!?」
「若の御身に何かあれば、尋常ならざる対応を取りますぞ?」
「そ……そこで待て。」
見張りと思われる3人組に呼び止められたが、シュウの覇気に当てられたのか1人が奥へと入っていく。
オイラは仮面の機能にある僅かな魔力表示とレーダー機能を展開させて、視界の隅に表示させている。なんだか凄い便利機能だわ。
数分後、男が2人戻ってきて1人が奥へと案内をするという。
「そこを右で、突き当りの扉を開けな。」
後ろからバッサリと不意を突かれる事を恐れた案内の男は、オイラ達を前に進ませる形をとっていた。
扉の向こう側には5人程居るが、かなり離れているので開幕奇襲は無さそうだ。
中に入ると部屋は広い縦穴だった。40メートル四方くらいかな?高さも同じくらいに見える。あれ?
「どうやって調べたかは解らないが、随分と手際が良いな?」
「前置きは要らない、若は御無事かっ?」
いかにも盗賊という感じの髭面のオッサンが顎で上を見ろという身振りをする。髭面オッサンがリーダーなのかね?
「あ、簀巻きだ……すげぇ。」
「な、ナナシノ……」
天井付近に足だけ出した状態で、簀巻きのアールスがぶら下がっていた。




