82) 夜の勘違いは危険なのね。
結論、ローブとかマントは邪魔でしか無いと思うんだ。
特に高速で移動する時は……
ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……
現在、商都から書いて読んだ字の如く“飛び出し”て絶賛飛行中。
体の周囲を薄くしたオリハルコン粘土で仮面を着けた顔の部分以外を包み固め、“跳躍”を行っている。
外見は達磨かマトリョーシカのような感じになっていると思う。
商都へ向かうときはいつもの格好で飛んでいたのだけど、速度が増すと空気の抵抗が激しくて両腕を顔の前で覆わないとキツい状態になっていた。
到着の時間を確認すると21鐘前だったので、3時間強も辛い体勢で飛んでいたことになる。
恐らく身体に疲れが殆ど無かったのは、身体強化魔法と職の就業特典でガッツリ向上した体質のお蔭なのかも知れない。
帰りは仮面のマップ機能を使い、高度を十分に取った上で移動している。眼下に見える目印の小さな町や村の灯がゆっくりと視野に入っては遠ざかって行く。
気分は夜間飛行だ。ただ……音が煩いが。
結局、ロクジョウ領に着いたのは23鐘前だったので、1時間チョットの計算となる。正確な距離が解らないので速度の計算もできないが、かなり速かった気がする。
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「あ、ナナシノさん。おかえりなさい。」
「おおう、飲んでるの?大丈夫なの?」
宿屋の食堂兼酒場ではアールス達が祝杯をあげていた。
今日の戦果に対してか?とりあえずオイラも一杯引っ掛けた。
「ミューさんは先に寝てますよ~」
「そりゃそうだろうけど、何の祝いなの?」
「聞いて下さいよナナシノさん!」
「はいはい、ちゃんと聞くから大声出さないの。」
ほろ酔い気味のアールスが嬉しそうに酒を飲んでいる。
そういえば、コッチでは飲酒は15歳から可能となっているそうな。15歳から成人扱いとなるのかね。
「えっとですねぇ……今回の騒動で空いた役職のひとつを任せられる事になりましてぇ。」
「ほほう、就職先が決まったと言うわけね。おめでとう!」
「ただし、ちゃんとお願いしているクエストは完遂して頂きますので、よろろろろろぉ!」
「飲み過ぎッス!」
寸前でアールスの行為を察したミトク、ゴミ入れ用の桶で被害を最小限に抑えてくれた。グッジョブ!
「ナナシノ殿、部屋の鍵です。」
「え?部屋?」
手渡された鍵には番号が打たれている。何の鍵?部屋?
「えぇ、今回の一件に対して冒険者ギルドより御厚意だそうです。荷物も既に個室へ移動しております。」
「要らないのに……」
「明日は9鐘に食堂へ集合ですので、よろしくお願いします。」
「了解。では、お休みなさいッス。」
こうして、広間の一区画から個室へと宿泊部屋のランクが上がってしまいました。
部屋は2階の一番奥だった。
「またか……」
鍵を開け、2つのトイレと洗浄部屋が向かい合った通路を抜けると、部屋の中にベッドが4つあった。
またもや個室の用意が出来なかったのか?狭くて窮屈な状況よりマシだから良いけどね。
壁掛けランタンの据え付けの魔石を押し込み、部屋を明るくする。
「うにょ?ナナシノ、おかえり。」
「あ、ただいまさん。」
奥のベッドで毛布がモゾモゾと動き、中から猫耳の知った顔が出て……
「うおぉぉぉ!?」
「ふにゃあぁぁ!?」
オイラの驚きにつられてミューも驚いたようだ。
「いや待て、何故に相部屋なんだ!?」
「何故にって、パーティ組んでるでしょ?」
「いやいやいや、組んでるからって男女が同じ部屋ってオカシイでしょ!?」
「何言ってるの、普通でしょ?」
「ふ、普通なのか?いや、でも……何かあったらどうするんだ?」
「何かって……」
「え、あ、いやその……そうだ!もう遅いし、寝てしまおう!うん、そうしよう!」
オイラは自分の寝巻をカバンから掴み出し、洗浄部屋で着替えてベッドに潜り込んだ。
もちろん、ミューから対角線上に離れた位置のベッドだ。
「ねぇ、ナナシノ?」
寝たふりを決め込んでいるオイラにミューが話しかけてきた。
「起きてるんでしょ?ナナシノ?」
ぼすん。
「ナナシノ?返事しなかったら次はそっちに飛び込んで噛むよ?」
「わ、起きてます起きてます!」
ミューはオイラの隣のベッドに移動していて、オイラが向き直って返事をするとニカッと笑顔で応えた。
「ねぇ、ビックリして寝れなくなっちゃったから……何か話しでも聞かせてよ?」
「話……か。」
「っていうか、ナナシノって何処の出身なの?やっぱりそれも内緒なの?」
「うお?話を振っておいて質問かよ?」
「気にしないって言ってたけど、やっぱり……その、パーティメンバーとして知っておきたいというか……」
「あぁ、ごめんな。ここに来てから、まだ自分でもよく解っていないんだよ。どこまで話して良いか悪いのか……ごめん。」
「そっか、じゃあ……悪い事でも何でも話せるようになったら教えてね?」
「おう。ところで、寝れないのなら今から運動でもするか?」
そういえば、今晩の訓練が済んでなかった事に気付いた。
「うにょっ?う、運動!?で、でも……やっぱり、そういうのは準備というか、その!」
「準備って、直ぐできるでしょ?オイラもヤル気になってきたし。ほら、隣が空いてるから急いで。」
オイラはベッドから起き上り、洗浄部屋で着替を済ませて出てみると……
何故かベッドの上で、毛布でガッチリと包まれたミューがオイラを凝視していた。
「ミューさんや?何してんの?訓練……行かないの?」
「にゃっ!?な、ナナシっ!?」
そして……会話の流れとミューの勘違いに気が付いたオイラは、その沈黙に耐え切る事が出来なかった。
運動って、ソッチの意味で取ったのかよ……
「ほ……ほら?あ、あのさ。い、今の時間帯は演習場に人は少ないと思うけど……さ?」
「うっにゃあぁぁぁあっ!!!!!」
オイラは超高速で吶喊して来たミューによる毛布の一撃にあ……




