78) 知恵比べなのね。
『加減が出来れば良いが……な。消し飛ぶな、よ?』
「お!?」
小太りオッサン(改)は翼を使って空中へ舞い上がり、両手を上げてその上に青い炎を発生させて収束している。
即座に足下へ潜り込む。
「ダークネスで魔方陣隠蔽、大きな土壁、大水で防御!」
複数の魔方陣を闇で隠し、土壁で死角を作り隠れるように移動する。
『無駄だ。』
小太りオッサン(改)は逃げるオイラに向けて火球を放り投げるが、水の壁で相殺される。
かなりの水蒸気を撒き散らし、丁度良い目晦ましになっている。
『むぅ……小癪な。』
「フラグ一本!」
フラグ発言を確認しながら、今度はオイラが空中へとジャンプして袖から取り出した砂利をばら撒く。
『勇者よ!飛んで隙を作るとは!無防備にも程があるぞ!』
「石板多数、頭上に石柱。」
ぴっ☆
砂利を媒体に石板を作り出して浮遊させ、小太りオッサン(改)の視界と魔法の射線を遮る。
オイラの“跳躍”は物理法則を無視しているので、着地や跳躍中の頂点など狙われる様な弱点など無いはず……石板に重力の魔方陣を貼り付けながら蹴り飛ばし、無軌道に飛び回る。
そして今、石板で隠すようにした直径5メートル長さ15メートルほどの石柱を小太りオッサン(改)の頭上に絶賛展開中だ。
『ええい、目障りだ!吹き飛べぇ!』
「あ、ヤバい?」
全方位に向けて衝撃波を放たれた。次々と周囲の石板が破壊されていき、領主邸も半壊した。
ミューやアールス達は既に外へと避難しているので大丈夫とは思うが、少々心配だ。
『まだ壊れぬかぁ!』
さらなる衝撃波により周囲の石板を殆ど破壊されて、頭上の石柱が露見してしまった。
『ぬぅ!?』
急に下方から炎が吹き上がり、小太りオッサン(改)を巻き込む。
オイラは指示していないが、☆導きの書☆が注意を逸らせる為に頑張ったようだ。
『効かぬわぁ!』
「フラグ2本目!」
炎に向かって手を振り、衝撃波を発生させて魔法陣ごと吹き飛ばす。効かないのなら壊さなくても良いじゃん……
その隙にオイラは石柱の上に乗り、下で砕かれる石柱を継ぎ足すような形で魔法を展開して貰っている。
『ふははは!魔力容量の勝負か!?小賢しい人間風情が調子に乗るなよ!』
石柱は“かき氷製造機”のように下で砕かれ、上では継ぎ足されていく。
さらに石柱をゆっくりと回転させてドリルの様にしても、一向に小太りオッサン(改)を押しつぶす気配を感じない。
しかし、小太りオッサン(改)は魔力容量の勝負に拘るつもりのようだが、オイラは勝負なんて言っていないので仕込みを開始する。
“仕込み”の効果は直ぐに現れた。
『うお!?なんだこれは!?』
ずずん。
小太りオッサン(改)は砕くのを止めたので、そのまま石柱の下敷きなって地面にめり込んだ。
「死んだ……かな?」
『ううん、死んではいないと思うよ?』
「うえ……また襲ってくるかな?」
『大丈夫。』
「どして?」
『刺さって、動けない。』
石柱の内部に鉄筋の様に仕込んだオリハルコン粘土が、小太りオッサン(改)にシッカリ刺さって拘束できたらしい。下敷きになって見えていないから解らないけどね。
オリハルコン粘土を鉄筋状にして突き刺す事については、さっき魔法を盾で塞いだので魔法を貫通するのではないかと思ってやった。上手に事が運んでホントに良かったよ。
「ナナシノ~!大丈夫~?」
「おーう、大丈夫~!」
「ナナシノさん、この石の塊は……?」
「あぁ、この下にさっきの変身したオッサンが埋まってる。」
「え?死んでないの?」
「死んでないらしいよ?んで、絡まって動けないんだとさ。」
「なるほど……それでは、一旦ギルドへ戻って応援を呼んできますので、そのままにしておいてください!」
冒険者ギルド長……タダノさんだっけ?が走って出て行った。半壊して扉も無い建物になってるから“出る”という言い方は変かな?
何だか気が抜けて、そんな妙な考えが出たので思わず笑ってしまった。
「ナナシノ……ホントに大丈夫?怪我とか、無い?」
「お?大丈夫だよ?」
そういえば、ドレインで死にかけている護衛パーティ(その2)はどうなったんだろうか……
あ、居た。衝撃波で飛ばされて石柱の下敷きにはなっていなかったようだ。手や足が変な方向に曲がっているけど、それが首じゃなくて良かったと思う。
「まぁ、こっちも拘束だよな。」
護衛パーティ(その2)だった連中をアースバインドで拘束しつつ、ドライアドヒールで治療を行う。キューが大活躍だ。
「お待たせしました。封印の作業に入りますので離れて下さ~い。」
5分ほどでタダノさんは団体で戻ってきて、今は魔術師5人と共に作業を行っている。その他は瓦礫の片付けだ。
護衛パーティ(その2)を引き渡した。ドレインで吸われたヤツは死んではおらず、生命力とレベルを大量に奪われただけだそうだ。
「おぉ、初めて見る魔法陣だわ……」
「そうですか、精霊や悪魔などを封じる魔法陣だそうですよ。エドマー氏の指輪から出てきたのは“悪魔系”だそうです。」
「え、出てきたばかりで即封印?」
「何言ってるんですか?害あるモノが排除されるのは世の常ですよ?相手が人間だとしても。」
「あ、まぁ……そうだね。」
オイラは思わず、キューとシーちゃんが封じられる事を想像してしまった……封じないけど。
魔法陣を見るなり袖の中に逃げ込んだ2人を気遣って、そっと袖の口をギュッと塞いだ。
それとは裏腹に、オイラは見上げた魔法陣を脳内に焼き付けた。




