72) クエスト本題なのね。
「さて、本日は領主のロクジョウ様に挨拶に行きます。」
食堂の朝食を摂りながら、昨日と同じくアールスが説明を始めた。
「今回の謁見は殆ど形式的なもので、領内での活動の許可を頂く形となると思います。」
謁見の時は、依頼の時に聞いたようにアールス達の斜め後方に立ち、従者としてボロが出ないように始終無言を貫き通すだけだ。
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「ロクジョウ領主にお目通りを願いたく、アールス・アッシュ・アーキス・アクアマリナが参りました。」
「確認するので、ステータスプレートを作動させて下され。」
詰所のような中に入り、入館手続きを行うようだ。
「ステータスオープン」
ぱししん。
何故だかオイラの視界内にも眼鏡を通してアールスの情報が表示される。
もしかすると、オイラのステータスも見せなきゃならないのかと思ったら……
冒険者ギルドの認識票を提示するだけで良かった。
皆、認識票を出すのでオイラも倣って取り出して門番へ見せた。
「「「……!?」」」
アールス以外の3人が、オイラの認識票を見てビックリしている。声には出していないが、ミューなんて認識票とオイラを3度ほど視線を往復させていた。
「確認致しました。どうぞ中へ。」
門番に促され、先に見える煉瓦作りの屋敷へと向かう。
「ナナシノ!なんでCランクなの!?ギルド入って2週間で、なぜCランク!?」
「知らないッス。初めて入った迷宮で倒したカニダンゴムシの討伐部位を納品したら、勝手に上がってた。」
「どうして、言ってくれなかったのよ!?」
「どうしてって……初心者講習をCランクが受けるって目立つじゃん?目立つの嫌だったから隠したのだ。」
「隠す必要あるの!?同じFランクだと思ってた私がバカみたいじゃない……」
「ランクが違ったら、対応が変わるのか?CとかFとか関係無くオイラはオイラだぞ?」
「そりゃ、そうだけどさ……」
「別にオイラはミューを格下扱いなんてしてないし、逆にオイラの知識が足り無いから凄く頼りにしてるんだけどな?」
「はいはい、痴話喧嘩はそこまでにしておいて、到着しましたよ~」
ちょっと納得出来ない雰囲気のミューをアールスが遮った。
目の前には写真で見たようなお洒落な洋館が建っている。特徴といえば入口前の車寄せが建物の大きさに似合わなく大きい事ぐらいか。
出迎えも無かったのでアールスは自分で扉を開き、一行は中に入った。
「よくぞ参られた、話は聞いておる。」
「あ、お世話になります。私はアールス……アールス・アッシュ・アーキス・アクアマリナと申します。此度は」
「前置きなどは良い。ワシは領主代理のエドマー・ロクジョウだ。」
玄関広間の中央に、ズイッと偉そうに立っているオッサンが居た。
エドマーと名乗ったオッサンは、身長150センチくらいで小太り、やたらと豪華なローブと……頭には大蒜を横半分に切ったような形の帽子、ズケットだったか?を被っている。
「其方達にはこれから迷宮の指定する階へ赴き、この袋を祭壇へ置いて戻って来ることを命ずる。これを以て領内の自由な活動を許可する。」
「承知致しました。その、指定される階層はど……」
「そこまでは、俺たちが案内するぜ。」
またもや言葉を遮られたアールスに向かって、不躾な男たちが現れた。
現れたのは5人。剣士、剣士、騎士、魔術師、僧侶と見たまんまのパーティだ。
男はオッサンから袋を受け取って自分の腰に括り付け、アールスの前までやってきた。
「これは、有難う御座います。私はアールス・アッシュ・ア……」
「あぁ、自己紹介は要らねぇ。俺達は“送り届けて連れ帰る”だけの護衛、それだけだ。」
「では、行って参れ。」
半ば強引に話を進められ、迷宮へと向かう。
迷宮の入り口となる冒険者ギルドを手続き無くスルーし、皆無言で内部へと侵入する。
階層奥のボス部屋は尽く“空き”の状態で湧き出す魔物も殆ど無く、出たとしても瞬殺されてどんどん降りていく。
「あ……れ?」
ミューがついに声を出した。謁見は終わったはずなので、“無言で”というルールを破ったことにより契約破棄……は流石にないだろうけど。
「あぁ、構わねぇよ。試練はランクに関わりなく進められるのさ。足りない分は他のメンバーが補うって要領さ。」
最初にアールスの言葉を遮った護衛パーティのリーダー格と思える人物が、ミューの呟きと思える様な言葉に対して即座に返答した。
ミューが気にした“Fランク以下の冒険者は進入禁止”とされる5階層を、さらに降りていく。
以降のボス部屋も、“空き”の状態だった。もしかすると事前に排除してくれていたのかも知れない。
「さって、今回の試練はこの階層になる。何か質問はあるか?」
「あ、あの……ここはギルドで進入禁止とされている階層ですよね?」
この階層の安全地帯となっている領域から、試練は始まったようだ。
リーダーから皮袋を手渡され、アールスが背負い袋へ仕舞い込む。
「おう、他と比べて少々難易度が高い階層だからな。まぁ、Dランク以上が3人も居れば楽勝よ。これを置いてくるだけ、だからな。」
「難易度が高い……?」
「あぁ、出現する魔物自体は他の階層と殆ど変わらねぇ。しかし、仕掛けがあるワケよ。解るか?つまり、罠が多いってこった。」
「なるほど、罠を掻い潜ってこの荷物を置き、戻って来るというわけですね。」
「あぁ、そうだ。領内に蔓延る罠に気付けるかどうかっていう試練みたいなモノだろう。まぁ、頑張れや。」
「承知しました。行って参ります。」
護衛の魔術師が入口のドアの前に立ち、札の様なものを押し当てるとギシギシと音を立てて開いた。
「まぁ、この扉は半日は開いてるからな。閉まっても開けてやるから安心して行って来い。」
「ありがとうございます。」
「そうそう、その袋は開けずに祭壇へ置くんだぞ。言い忘れてたわ、中身が微妙なんでな。」
「袋は開けずに置く……わかりました。」
中に入ると、安全地帯と同じくらいのちょっとした広間になっていた。向かう壁に奥へ繋がる通路がひとつ。
罠があって進入禁止とされていても、他の階層と同様に全体的に薄らと明るい。
「あ、待って!罠っぽい床がある!」
急にミューが叫んだ。
先頭を進むアールスが瞬間的に後ろへと下がる。
変わってミューが先の床を調べ始める。
「あ、ほら……ここに罠っぽい出っ張りがあるよ?」
「おおう、ホントだ。押していい?」
「ば、馬鹿!何言ってんのよ!?」
「ミューさん、ボタンは押すものでしょ?」
「ナナシノさん?寝言は寝てから言うものですよ?」
「押してみたくない?ねぇ、押してみたいです。」
結局、その“出っ張り床”は回避する事になりました。だって、ミューが殴るんだもん……




